突然・偶然・必然

「風、次ってなんだ?」


「次は、化学よ」


たけちゃんたちが転校してきて数日たった。あれから、大変だった。いつの間にそんなにも噂が広まったのか、休み時間になるたびに、3年も2年もみんな2人を見に来るし、たけちゃんは苦笑い、隼人は舌打ちだった。


あたしと風はその時ばかりはさすがにどうにもできない、ということで少し離れた所からそれを見守っていたけど、それでも、二人が転校してきたって噂だけが回っているんじゃないらしく、来た先輩たちに帰り際に睨まれた。うわー。怖っ;


「ねえ、今睨まれたよね」


「…そう?がん見されただけじゃない?」


しれっと答える風に、心の中でそれもどうなの?と疑問を持つ。言わないけどね。


そのまま、しばらく観察するように二人の様子を見ていたら、たけちゃんは持ち前の爽やかさで早くも友達をたくさん作っていた。


その流れに沿って、何気に隼人に話しかける人もいるけど、やっぱりちょっと怖いみたい。


「こうしてみると、正反対よね。あの二人」


「うん。今、思ったんだけど、隼人ってクラスにツナとたけちゃん以外の友達っていたのかな?」


たけちゃんは、野球部だし、友達がたくさんいるのもわかるけど、隼人はそういえばそんなの描かれているとこ見たことないかもしれない。いつも、ツナとたけちゃんと一緒にいて、ツナにちょっかい出す人にダイナマイト投げようとしてたよね。


「……触れちゃいけない話しだってあるわよ」


たっぷり間を取った後に呟くようにそういった風はかすかに苦笑していた。風もたぶん今は白紙のリボーンのマンガ内容を思い出していたんだろう。


「風!今時間あるか?」


「…あと5分で授業始まるわよ?」


あたしたちに近寄ってきたたけちゃんは、少し考えるそぶりをしたあと、大丈夫だと言った。チラっと廊下で二人を動物園の動物の如く見に来ていた女子たちは今、風の名前を呼んだたけちゃんに少し顔を青ざめている。


でも、風もたけちゃんもそんなこと気にしてないみたい。


彼女たちの顔は次第に睨みに変わっていった。


「顧問のとこにいかなきゃいけねえこと忘れてたんだわ。ついてきてくれね?」


「…今?」


「ああ。早くいかねえと怒られる」


「わかった。…じゃあ、空行ってくる」


「うん。行ってらっしゃい」


しぶしぶ、といった感じで風はたけちゃんとともに出て行った。出るときに、女子が少し阻もうとしていたけど、わりいなって言って女子をどけてたけちゃんは出て行った。たけちゃんってただの天然じゃないよね。意外と鋭いし…、って前風が言ってたっけ。


とにかく、その言葉で女子は引き下がるしかなくなり、風とたけちゃんはすんなりと出て行った。女子がその後ろ姿をかなり怖い顔して睨んでいたのは言うまでもない。


風、いじめられちゃうんじゃないかな…。大丈夫かな?自分の席に座って、隣の隼人にそのことを言ってみる。


隼人は、チラッと廊下側を見た。そうすれば、キャーという歓声が上がり、隼人は苛々したようにチッと舌打ちをする。


「大丈夫だろ」


「その根拠はどっからくるの;」


少し声のトーンを落としながら言う。さっきチラッとでも見たからか、女子の間では、誰が見られた、誰と目があったという話で盛り上がっていた。


あたしはとりあえず顔だけ前を向けたまま隼人と話す。隼人も足を机に載せたままだから、はたから見たらしゃべっているかはわからないと思う。隼人の声も、配慮してか小さめだし。


「知るか。じゃあ俺に聞くんじゃねえよ。本人にでも言いやがれ」


「だって、風は絶対気にしないとかいいそうだし…」


「じゃあ、ほっとけ」


「そんなこと言わずにさあ…。あ、知ってる?もうすぐ文化祭の準備始まるんだよ。今年、何するんだろうね!あたしら、去年は舞台で踊ったっけなあ〜」


「ケッ、くだんねえ」


「あたしたちが仕切るんだから、隼人も強制参加だよ?もし劇とかで主役になったらおもしろいよね!」


「誰がやるかっ!」


ガタンと音を立てて立ち上がると、隼人は女子の群衆がいる反対側の、ベランダ側から出て行ってしまった。取り残されたあたしはとりあえず今年は何するかなあっていうのを頭の中で描きながら、面白いことにならないかなあなんて思ってた。


仕切るのは、めんどくさいけど、風もいるし…、たけちゃんならこういうの好きそうだから結構手伝ってくれそう…。模擬店とかだったら、あの二人を引き出して写真会みたいなのやったら女子の客きそうだなあ…。一回200円程度で。うっわ。これ、何万いくんじゃないかな?


そんなことをあれこれと考えていたら、いつの間にか授業が始まる鐘が鳴り、少ししてからたけちゃんと風が戻ってきたけど、隼人は戻ってこなかった。完ぺきサボったね;




***

「ねえ、あいつ、誰だっけ。名前忘れたけどさ、あいつうざくない?」


放課後の教室で、数人の女子が集まって話し合っていた。


「あー、確かクラス会長の春日でしょ?うざいよね。先生に任されてるだかなんだか知らないけど、近づきすぎだっつーの。絶対調子乗ってるよ」


「一回、はぶった方がよくない?」


「でも、今の状態も大して変わらないんだよねー」


「アハハ!うけるっ!」


「つーか、まじカッコいいよねー。山本君!」


「ねっ!爽やかだし、かっこいいし、スポーツできるし!野球部の入部テストで受かったらしいよ?すごいよね」


「ねー、それに、獄寺君もカッコいい!あの、不良っぽいところがまたいい!これで、煙草とかすってたら、まじ最高!」


そんな感じの会話が先ほどからどんどんつづけられていく教室内。中にいる女子は、5名ほどで、それぞれ、机やいすに座りながら、携帯をいじり、そんな会話をしていた。


「あら、まだ残ってたの?」


と、そこに現れたいきなりの声に全員が肩を跳ねさせ、一斉に振り向いた。


「ビビった〜;先輩も残ってるんですかー?」


「ええ、ちょっとした用事を頼まれてね。あなたたちは?」


「ちょっと、愚痴ってたんですよ!最近、転校生来たの知ってます?」


「ええ。山本君と獄寺君でしょ?」


「さっすが先輩!で、あたしらのクラスにいる奴の一人がそいつに勝手に近づくんですよ!うざくないですか!?」


「ハハハ;」


先輩、基(もとい)如月波音はそんな様子の彼女たちに苦笑を浮かべるしかできなかった。しかし、女子たちの説明はまだまだ続いていく。


「それに、山本君もそいつのこと名前で呼び捨てなんですよ!」


「つまり、うらやましいのね」


「違います!そりゃあ、呼んでもらいたいけど、その前に、うざいんですよ!」


「そっか;」


同じことなんじゃ、と思ったのは波音の心の中だけの秘密だ。


「先輩もかっこいいと思いません!?」


「…そうね、カッコいいんじゃないかしら」


「先輩ももしかしてタイプですか!?どっちっ!?」


「クスクス。残念ながら、二人ともタイプではないわね」


「えー、じゃあ先輩のタイプってどんな人ですか??」


「え;それは…」


少しあとずさる波音に女子たちは喰らいつくように波音を見つめて、その目が早く早くとはやし立てる。


「えっと…、誰にも言わないでね?私は…、大人なのに、意外とかわいいところがある人、かな」


「先輩、ギャップに弱いんですか?」


「……まあ、そういうこと、でもあるかしら」


「あー!もしかして、そんな人、いるんじゃないですか!?好きな人!」


「えっ!」


「ほら!顔、赤くなってますよ!」


「――っ!も、からかわないでよ」


「先輩、かわいい〜っ!」


「それくらいにしないと怒るわよ?」


「アハハ!先輩、それってどんな人なんですか!この学校の人!?」


「……遠くの、人よ」


「え、遠距離!?さびしくないんですか?」


「まあ…、たまに、ってもうこの話は終わり!」


「えーっ!」


「えー、じゃない。じゃあ、私は用事があるから。あなたたちも早く帰りなさいね」


「はーい!さよーならー」


「じゃあね」


手を振りながら去って行った波音を見送った女子たちは、さっきの波音の言った言葉から少しコイバナに花を咲かせたあと、帰って行った。


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あきゅろす。
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