次の時間は移動教室。もうほとんどの生徒は次の教室に向かっていて、残りは私と男子数人。それに、廊下で待っている空たちだけになっていた。次の教科の教科書を机の中から探していると、あったにはあったんだけど…。 「とうとう、来たか…。予想を裏切らないというかなんというか」 ほとほと呆れかえる。私の手には教科書。そしてその教科書には一応鉛筆だけど、デカデカと『死』の文字が。ひとつ溜息をついてから、ノートにその面をくっつけるようにして持つ。 「風ー!早くいかないと遅刻!」 「あ、はい!今行く!」 *** 「はーい、今から文化祭の出し物について話し合いまーす」 「私たちのクラスは、希望通り、演劇をやることになりました」 午後の最後の授業に設けられた文化祭の話し合いの場。あたしと風は前に出て、前の委員会で話し合った報告を含め、このクラスの出し物について発表した。 それに対してのクラスの反応はバラバラ。喜ぶ人もいたけど、面倒くさそうに溜息をついてる連中もいた。 「演目はー?」 「まだ決めてません。何か案のある人は挙手してから発言して下さい」 当然と言うべきか、あがった質問に風が的確に指示を出してくれたおかげで、クラスメイトたちからはいくつか案がでた。 まあ、どれもメジャーなものばかりだったけど。シンデレラだとか白雪姫だとか。主役決め大変だっての。 「異世界から現れた男の子と過ごす内に恋に落ちるっていうのはどう?何か非現実的だけど憧れない?」 「「?!──;」」 そんなあたしの考えを覆す発言をした一人のクラスメイトに、何故か賛同し始めたクラスの皆。 それに比べ、あたしと風、隼人とたけちゃんは過剰な反応を示して、顔をひきつらせた。 だって、さ……。 「非現実的なこと、おこちゃってるってことは現実的ー、なのかな?」 「違うんじゃない;?大体、私たち恋なんてできる環境じゃないじゃない」 「はは;…ごもっとも」 実際、経験した、否経験している最中のあたしたちは、その演目に嫌でも自分たちを当てはめてしまう。確かに風のいうとおり、恋愛なんてできる環境じゃないけど。 「委員長!今のでいこうよ」 「誰も考えつかないようなストーリーだし、賞狙えるんじゃね?」 「わたしも賛成ー!」 そんなあたしたちの心中を知る由もなく、次々と賛同していくクラスメイトたちにあたしと風が勝てるわけもなく、204Hの出し物の演劇は、異世界の男の子と恋に落ちる女の子のラブコメに決まった。 なんか演じる側にはなりたくないかもしんない…。特に主役は──。 「登場人物は、主役の男女に加えて友人役に2、3人。女の子の両親、その他諸々で、大体10人くらいかな」 「じゃあ後は、衣装と小道具、大道具に回して、……ナレーターとかっているの?」 「んー、2人くらいつけとく?」 教室が劇の話題で騒がしくなっている中、あたしと風は勝手にいくつかの担当をあげて、人数調整を行っていた。それを黒板に書き出してから、煩い教室を静めるためにパンパンッと手を叩く。 「はい、じゃあ配役決めいきたいと…」 「はいはーい!主役の男の子、絶対獄寺くんがいー!」 「は?勝手に決めてんじゃ──」 「山本君もいいけど、何か異世界ってイメージと帰国子女のイメージが被るからいいよね!」 「「ぷっ……」」 やばい…っ!周りが雰囲気でわかっちゃってるっていうか、うけるー!隼人が適任だって!あの隼人がこっちで恋愛とかマジありえなーい! 女の子達の会話に、全てを知ってるあたしと風は吹き出してしまい、今は必死で笑いを耐えてる状態。だっだって、想像するだけでっ。 「な!笑ってんじゃねーよ!つーか俺がやったらまず──ふがっ!」 「じゃあ主役は獄寺な!」 笑ってる風とあたしに気がついた隼人は、聞かれちゃまずいことを口走りそうになって、それは近くにいたたけちゃんがすかさずフォローしてくれた。 で、結局は隼人が主役に決まっちゃいましたー。あー、やっと笑いが収まってきた。さて、と、次は問題の女主かー。何か皆狙ってる雰囲気だけど…。 「女主については推薦でいこうか」 「えー、わたしやりたーい!」 「あたしだって!」 「私だってば!」 だから、決まんないから推薦でっつってんでしょ?あたしの意図分かってよ。しかも隼人、超不機嫌なんだからさ、あんま煽るような発言はご遠慮願いたい。 「さ、推薦やろう、推薦。紙配るから、そこに適任だと思う人の名前書いて下さい。自分だと思えばそれでも構わないから」 うわー、流石風。あんだけ騒いでた女子を一発で静めて納得させちゃったよ。 運命の配役決めは──、 この後とんでもない方向に傾く。 (女主が推薦なら俺のも決め直せよ) (決定は覆りませーん) (獄寺が適任なのも何となく頷けるし) (俺は納得してねーだろーが!) (いざとなったらたけちゃんいるし) (え、俺;?) |