人という文字は

「おい、なんで、俺らがこの学校の編入試験なんて受けなきゃいけなかったんだ」


風たちの学校から帰ってきてから、落ちついたこと、ふいに獄寺が口を開いた。でも、それは俺も思っていたことだった。


実際、何の説明もないまま受けさせられて、まあ、匠の球打てたからよかったけどな!


「だから、受ける前にちゃんと言ったじゃん。一緒に学校生活を楽しみたいって」


「そんなに嫌だったなら、わざと書かなければよかったじゃない」


「その手があったか…」


「ハハ、ドンマイだな。獄寺!」


「てめえが笑ってんじゃねえよ!」


「あ、それよりさ、風が持って帰ってきた紙袋ってなに?」


空の言葉に、風はああ、と言って口を開く。


「これは、おじさんから貸してもらったの。ほら、今度夏祭りあるでしょ?その時に着なさいって、浴衣」


「浴衣!?やった!」


「さすがに、男物はないけどね?」


「ケッ、誰が着るかよ」


空はうれしそうに紙袋の中を覗き込んで、風と微笑みあっている。夏祭りは、確か、来週あたりだって言ってたな。


「あ、そうそう。空?」


「んー、何?」


「私、野球部のマネになった」


「は!?」


「ね?武」


「おう!」


目を丸くして風を見ている空に笑いがこみあげてくる。


「…やるの?あんなに先生の誘い断っといて?」


「しょうがないでしょ。野球部全員の期待の視線を浴びたまま断れると?」


「あー、それは…」


「ね?って、武も笑ってないでよね!」


「お、おお」


笑っていたら、突然話をふられて、少しどもる。でも、本当に、野球部の奴らはマネージャーを欲しがっていたみたいで、その期待の目は半端なかったと思う。


「でも、俺は風がやってくれてうれしいぜ?」


「……、ハア、また仕事が増えた」


「ケッ、お前に他人の世話なんかできんのかよ」


「今現在、やろうとしているとこなんですけどね?」


「ああ?」


「この家の家事をやることも他人の世話だっつってんの」


「そーだ、そーだ!」


「ってことで、私忙しくなるから、家事分担しようね!」


「えー」
「は?」
「お?」


「よろしくね!」


風は有無をいわせぬ笑みを浮かべた後、反論の声が出る前にキッチンの方へと向かっていった。というか、俺達にできることってなんだろうな?


「あたし、家事なんてできないよー」


「フン、見たまんまだな」


「ムッ!じゃあ、隼人はできるの!?」


「ったりめえだろ。一人暮らししてたんだ」


「あ、そっか。じゃあ、今度イタリアン作って!」


「ハア?なんで俺が」


とくにやることもなく、目の前でじゃれている2人の会話を聞いていると、やっぱり仲いいなと思う。


「獄寺、つくってやれよ。な!」


「な!」


「だーかーら!お前が野球バカのマネすんじゃねえよ」


「えー、いいじゃん」


「なんか、むかつくんだよ!」


「お、やきもちか?」


「えっ」


「んなわけあるか!」


勢いよくドアを閉めて、獄寺は空の部屋の中へと入って行った。空の方を見れば、むすっとしたまま、自分の部屋のドアを見ていた。


「あいつ…、無自覚、か?」


「?」


「いや、考えすぎか」


「何が?」


「いや?なんでもないぜ?」


俺が呟いた言葉は聞こえていなかったみたいだから、そのままごまかしとく。そうすれば、空は首を傾げたけど、それ以上聞いてくることはなかった。


「あ、そういえば、たけちゃん」


「なんだ?」


「野球部入部テスト?だっけ?合格したんでしょ?おめでとう!」


「おお、ありがとな!」


「部長って確か匠君だよね。ボール打ったの?」


「ああ!あいつ、結構速いんだ!久しぶりにボール打てたからゾクゾクしたぜ!」


「へー、あたし野球とかあまりわからないけど、じゃあ、試合とか応援に行けるね」


「ああ!来てくれよな」


「それにしても、風がマネかー」


机に頬杖をついたまま、キッチンの方を見る空はそうつぶやいた。キッチンからは、夕食の準備をしている音が聞こえてくる。かなり、家庭的な音だな。


「風さ、結構頑張っちゃうから、支えてあげてね」


「!…ああ」


そっと呟くように言われた言葉に空を見れば、とても優しい表情をしていた。


空は獄寺といるときとかは、どちらかというと支えられてるって感じだけど、風も空に支えられてるのな。


「ま、たけちゃんが一緒なら安心か」


「なんの話?」


「お、風!」


その声の方を見れば風が手に皿などを持って立っていた。茶碗を受け取って、机に並べていく。


「隼人がすねちゃったって話!」


「その獄寺は?」


「拗ねて部屋に入って行った」


「誰も、拗ねてねえよ」


ガチャッと音がして、そっちには眉間にしわを寄せた獄寺がいた。そして、煙草すってくると言ってベランダへ出て行った。


「隼人ー?もうご飯なのに…」


「ま、今日一日吸えなかったしな!」


「体に悪いなあ…」


「空、もうできちゃってるから、呼んできて」


「はーい!」


空は風に言われ、椅子からゆっくりと立ち上がると、ベランダの方へと足を進めて行った。その間に、俺と風で机に飯を並べていく。




(ねー風。今度隼人がイタリア料理つくってくれるって!)
(本当!?やったね!)
(誰も作るなんて言ってねえだろ!)
(ハハ、獄寺頑張れよな!)
(お前は黙ってろ!)


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!