溢れた水は溢れるがままに

布団にくるまり、静かな寝息を立てる風を見下ろす。布団から出ている方はむき出して、さっきまでの情事を思わせ喉がなりそうになる。


そっと風の頬を指先でつつくと、わずかに身じろぎをした。


それに笑みをこぼし、今度は風の頬にキスを落とす。


本当はもっと触れていたい。いつだってどこでだって何度だって触れたいと思う。でもこれ以上無理をさせるわけにもいかなくて、俺はやっとのおもいでベッドから降りた。


ずっと放置していたケータイを開くとメッセージが一件。


珍しいことに獄寺からだった。


「ははっ、お見通しってか?」


メッセージには「バカが」という一言だけ。


空が俺たちにホテルを手配したことも知っているからだろう。俺が我慢できないのも見抜かれていたらしい。


衝動的に電話をかけると、しばらくして眠たげな声の獄寺が出た。時刻はすでに3時を回っている。


「……んだよ」

「俺、やっぱり我慢できなかったわ」

「チッ、聞きたかねえよバカじゃねえのか」

「ん、そーだな」

「わかってんだろうな。俺たちはここには居られねえんだぞ」

「わかってる。でも、あっちも大事だけどよ、風も大事なんだわ」

「んなの……。チッ。もう寝る」

「おう。遅くに悪かったな」


ブチリと切られたケータイを眺め苦笑をこぼす。


獄寺も同じ気持ちなのは見ていればわかる。ハルや笹川に接するのは明らかに違う。距離感、眼差し、普段の喧嘩だって楽しげだ。


でも、俺たちにはあっちに帰らなきゃいけない理由がある。


でも、離れたくねえんだって言ったら、ツナや親父はなんていうかな。


「たけ、し?」

「悪い。起こしちまったか?」

「ん……、どうかしたの?」

「なんでもねえよ」


ベッドを覗き込むと、眠そうに目をとろんとさせている風。見えているのかどうかもわからないほどうっすらと開いた瞳。でも風の手が俺を探して動くのを見て、風の横に潜り込んだ。


そのまま風の引き寄せ抱きしめると、彼女特有の甘い匂いがする。


「ねよ?」


眠さで舌ったらずになる口調がかわいい。


普段の強がっている様子も、冷静なところも、なんだかんだ言いながら獄寺のことも大切にしているところも、俺には女の顔を見せてくれるところも、全部全部好きだ。


「風。好きだぜ」


風の目尻と唇に短いキスを落として、俺も目を閉じた。


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あきゅろす。
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