温泉で愛を叫べ

「あー、生き返るぜ」

「やっぱきもちいのな〜」


かぽーん、という音がしそうな立派な温泉の露天風呂につかると知らず深いため息がこぼれた。

温かい湯に体を包まれて体から力が抜けていく。


「温泉っつったら、ツナたちといった修学旅行思い出すよな!」

「ああ?」

「ほら!ヴァリアーが来て、水かけ合戦やっただろ」

「ああ……、確かに、なんか、あったか?」

「あれ結局どっちが勝ったんだっけ?途中からあんま覚えてねえんだよな」

「もちろん10代目が勝ったに決まってるだろ!」

「だな!」


あの時は楽しかったな、と思い出にひたっていた時、隣の露天風呂から女子の笑い声が聞こえてきた。


「……そういやさ、あの日獄寺は空と二人っきりだったんだろ?」

「あの日……?」

「俺が風と寝た日」

「ぶふっ!!」


盛大に吹き出した獄寺がざばりと立ち上がって俺から距離をとった。その顔は真っ赤に染まっている。


「てっ、め!いきなり何言い出しやがる!!」

「いや、ただ、お前らも二人っきりだったんなら、シてねえのかなって」

「ばっっっかじゃねえのか!んなわけねえだろ!」

「ははっ、獄寺顔真っ赤だな。ってことは、俺が童貞一抜けってことなのな!」

「はあ!?」

「そういや、聞いたことなかったけど獄寺は空と同じ部屋で我慢できなくなる時ねえの?」

「なっ!!」

「だって、隣で寝てんだろ?」

「いっ、てめえらみてえに一緒に寝てる、わけじゃねえよ」


もごもごと口ごもらせる獄寺は茹で上がったように真っ赤だ。でも、そっか。こいつら部屋は同じでも別々の布団で寝てるんだったな。俺は、いつからか一緒のベッドで寝るようになったからな。正直、何度も手を出しそうになったっつうか、ちょっと触ったことがなかったとは言わない。


「触れたいって思わねえの?」

「……俺たちは、いつか帰るだろうが。中途半端なことできっかよ」

「まあ、そうかもしれねえけどさ。でもシタらすっげえ幸せだったぜ。だからこの先はもちろんわかんねえけどさ、今が大切じゃね?」


すっかり意気消沈してぼそぼそと呟く獄寺はひどく苦しそうだ。そんなになるくらいなら、俺は自分の気持ちに正直になった方がいいと思うんだよな。


あの時の風は本当にかわいかった。恥じらいながらも引き止める顔とか、キスしてるときの顔とか、俺が触ったらそれだけで……。


「だああ!うっせえんだよ!駄々漏れてんだよ!ちょっとは自重しろ!」

「しょうがねえだろ。風はもとから可愛かったけどな。最近ますます可愛いんだぜ、風」

「風、風、風、風!!てめえはそれしか言えねえのか!お前が言うほどあいつに可愛げなんてねえだろ!」

「お!それなら獄寺だっていつも空、空
って言ってんだろ。それに風は可愛いぜ。でもそれは俺の前だけで見せるんだ。それがまた可愛いんだろ」

「はあ!?空の方がかゎ……ぃいわ!」

「はっきり言えねえんじゃなあ。確かに空も可愛いとは思うけどよ、絶対に風の方がかわいいだろ?」

「チッ、てめえとはつくづくソリが合わねえとは思っていたが、今日という今日は白黒はっきりつけてやる。勝負しろ!」

「望むところだぜ!」


「よ!黒髪の兄ちゃん男前!」

「銀髪の兄ちゃんもっと言えー!」


いつの間にか出来上がっていた周りのギャラリーから囃し立てられる。その煽りに任せていつのまにかサウナ勝負となった。時間は無制限。先にギブアップした方が負けというものだ。


湿った熱い空気が狭い室内を満たす。体の毛穴という毛穴から汗が吹き出す。息を吸うのすらちょっと苦しいのに、見届け人と称して楽しげについてきたおっちゃんは容赦なくサウナストーンに水をかけては温度を上げていく。


それからどれくらい経ったか。


途中から他のおっちゃんも入ってきてはそれぞれの嫁との馴れ初めだったり風や空のことを聞かれて話していると、突然見届け人と称したおっちゃんが真っ赤な顔して倒れた。


「おっちゃん!?」

「熱中症か!?すぐに涼しいところに運べ!」

「誰か水持ってこい!」


その場は騒然となり、俺と獄寺の二人掛かりでおっちゃんを運び出して水を飲ませてとしているうちに回復したおっちゃんに、俺たちは頭を下げた。俺たちの勝負に付き合わせちまったわけだしな。


結局勝負はうやむやになったけど、まあ、いいよな!俺だけが風のかわいいところは知ってればいいんだし。






(あんたたちねえ!こっちまで声聞こえてたんだけど!?)
(わり!でも男には勝負しないといけない時があるんだぜ)
(カッコつけて言ってもダメに決まってるでしょ!?どんだけ恥ずかしかったと思ってるのよ!)


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