試合の合図は知らぬうちに鳴らされた

あの騒ぎの日から数日が経った今日。学校内は浮かれたように騒ぐ生徒であふれかえっていた。その目には一様に闘志を燃やし、それぞれの抱負を語りあっている。


そう、今日は球技大会だ。


普通ならば、やる気のないものとやる気のあるものが半々ほどになるであろう行事になぜここの生徒はこうもやる気を示しているのかというと、それはこの学校がお金持ち学校だからという一言に尽きる。


総合優勝クラス。つまり一番優勝した、または活躍したクラスには豪華絢爛、クラスに商品が出るのだ。それは毎年変わり、ある年はクラス総勢40人に焼肉代を学校が負担したり、またある時はこの学校にいる限り学食無料券だったりとさまざま。


球技大会を主催している生徒会が出される予算などを見て決めるこの商品は、うわさがうわさを呼び今ではすごいことになっている。


なんでもうわさだと今年は海外旅行だそうだ。


それが本当かどうかは置いておいて、とりあえず頑張って総合優勝すれば何かしら豪華なものがあたるためにみなやる気を出しているのである。


「というわけなのよ」


「おもしれえのな!」


「ケッ、商品につられるなんざガキかよ」


体育館に向かう途中、すれ違う生徒という生徒が闘志を燃やしているのを感じ取った武に理由を聞かれ説明していた。


ただ、獄寺にだけは言われたくない。だって、彼は10代目であるツナ、はたまたボンゴレがかかわった行事なら迷うこよなくちょっとずれた方向に頑張るのだから。毎回行事ごとにダイナマイトを出している彼を思うと、ツナの気苦労がうかがえる。


さすがにこっちでは出さないようになってくれたが、獄寺のそばにツナがいたなら私たちが何をいってもきっと無駄だろう。もしツナが黒ツナだった場合はうまく手綱を握っていそうではあるが。


体育館に入ればすでに集まった生徒によって熱気が漂っていた。


学校内の人という人が体育館に集結するさまはとても異様に見える。しかも、皆闘志を燃やしているのだから、アツイアツイ。


早々に私たちのクラスの列にまじる。先生によって整列させられていく。すべてのクラスが整列し終わると、それぞれその場に着席。


それから5分ほど待たされて生徒会による棒読みな開会宣言がされた。


「只今より、球技大会を、開催いたします」


正直、いらないと思うのは私だけだろうか。


一礼をして去っていく生徒会の役員の後姿を見ながら、そんなことを考えている間に司会によて進行されていく。ルール説明や注意事項などを聞いた後、一回戦の試合組を発表されて解散となった。



種目はバスケ、ソフトボール、テニス。


体育館内にコートは4つ。


何の因果か、私たち4人ともバスケにされた。そのため、応援にいちいち移動しなくてすむから楽。


「お!俺ら一回戦じゃねえか?」


「今日という日はお前を果たす!」


「ハハッ、俺ら見方だぜ?」


「お前にボールは渡してやんねえよ!」


「おいおい、獄寺。山本にボール渡さなくて試合負けたらまわりから批判くらうぞ」


低レベルというより、ある意味いつもどおりな会話を繰り広げている武たちにあきれていると、ひょっこりと二人の間から顔を出した匠。


「げっ、お前どっから出てきたんだよ!」


「よっ、匠。どのコートなんだ?」


「一番端。風たちも応援に来るだろ?」


「もちろん。女子は次の試合だしね」


「んじゃ、張り切るかな!」


いきなり俄然やる気を出し始めた匠。それを見てか武も初戦で負けらんねえもんな!と意気込んでいる。


「まあ、ほどほどにね」


なんていったって、彼らはすこぶる運動神経がいいのだ。


男子の練習試合を見ていて思った。武と獄寺はよく敵対チームにいたが、やっぱり両者ともに目立つのだ。いや外見がではなくて動きが。マフィアとして修業しているだけある、というかなんというか。


彼らが敵対するなら互角だが、彼らが同じチームなら鬼に金棒といったところだろう。


「…二人が協力し合ってるっていうのも気持ち悪いわよね」


「風?」


「いや、想像の話」


「?」


首をかしげている空は、私に対してはなんとか普通に話せるようになった。目をそらすことも、怯えを隠すように手を握りしめることもなくなった。しかし、やはりまだ武や獄寺には無理らしく、今も私の背中にひっついている。


そんな空に、決まって心配そうな視線を送るのは獄寺だ。まるで主人を遠巻きに見る犬のように見えて、やはり彼はどこまで行っても忠犬キャラなんだなと思わざる負えない。


空の頬に張られた湿布が痛々しい。顔につくられたあざはひどいものだった。というか、女の子の顔にあざをつくるなんて男として最低だ。やっぱりあの男むかつく。


「風…、なんか、大丈夫?」


「…何が?」


「百面相してたよ?」


「……そんなに表情はないわよ」


「…そんなところでボケないでよ」


「ほら、もう試合がはじまるわよ?」


「……風…」


呆れている空を無視してコートのそばにいく。ようやく始まった第一試合。学校内で男子の人気ランキングをとれば上位にはいるであろう3人が今出ているおかげで女子の黄色い悲鳴はかなりおおきかった。


「ほかの男子がかわいそうよね」


ホイッスルがなり、一番背が高いバスケ部の男子がジャンプボールを取る。男子の試合は女子の試合とは違い、どんどん展開していくから見ていておもしろいのだ。


どんどん白熱していく試合に、まわりからは自然と応援の声が漏れていく。シュートが入れば歓声があがり、逆に入れられれば落胆の声が上がる。


それぞれがそれぞれで好き勝手に言葉にしているから、きっと彼らにはほとんど聞き取れていないのだろうけど、まあそれも醍醐味だろう。


前半戦終了のホイッスルと同時に匠から放たれたボールがきれいな弧を描きゴールネットに吸い込まれていった。











前半戦が終わり、それぞれが休憩に入る中、選手の交代が告げられる。俺たちは持っていたタオルで汗をかきながら、試合の経過を見てこのあとは体力温存の方向で行くことになった。風と空のほうに目をやると、二人は何か談笑しているようだった。


「次、俺と神童が交代する」


そういったのはチームの一人。神童は漸く来た出番に少しうれしそうな顔をしてゼッケンを受け取っていた。


特に危機的状況というわけではないから、気が楽らしい。


「んじゃ、後半はじめっか!」


始まった後半戦。いつのまに集まってたのかまわりにはすごい人。そして声援。


こういうの聞いてっと、野球をやってる時を思い出す。


「なあ、獄寺」


「ああ!?」


「中学の時、思い出さねえ?」


「は?」


ボールが相手にわたり、ガードするために走り出す。ボールはきれいにゴールネットに吸い込まれていくのを見届けた後すぐにそのボールを持って試合を続行させる。


それからも入ったり入れられたりとしながらも、俺たちのチームがリードしたまま試合は終了した。


流れてくる汗をぬぐいながら、とりあえず一回戦を進出したことを喜び合う。


それを少し離れたところで風と空が見ていた。二人に話しかけようと口を開く。


「風!」


でも呼んだのは俺じゃなく匠だった。いまだにひかない汗を滴らせながら風へと近づいていく匠。風にとって匠は内側の人間だからか、ほかの奴らと話すよりずっと表情は穏やかだ。


「匠のやつわっかりやす」


いつのまにか隣に来ていたのは神童だ。


「ま、山本も頑張れよー」


かなり他人事な言葉を残してほかの奴らのもとへと消えていった神童。今すぐにでも引き離しちまいてえ気持ちをぐっと抑える。


風にとって匠は確かに幼馴染で大切な奴らしいから。


ただ、今は背中にコアラみてえに空がくっついてるから風もあしらうように匠に接していた。空は一日でなんとか俺たちの顔を見ても逃げねえまでにはなった。けど、やっぱ震えてっし、いつもみてえに笑わないから心配になんだよな。


話しかけてくるクラスメートに適当に返事を返しながらも意識はずっと匠と風のほう。


結局何を言い合いしてたのかしらねえが、匠が風の頭に手を置いた。空が気まずそうに下を向いて、少し離れるが、その手は風の服の裾を握ったままだ。


なんか、あいつらカップルみたいにみえね?


「……でもやっぱ、男が触るのは我慢ならねえよな」


「え?山本?」


疑問符を浮かべているクラスメートに断って、いまだに頭をなでられて抗議の声を上げているらしい風のほうに向かう。


「たーくーみ」


俺の声に反応して俺のほうを見た匠と風。わざと匠の首に腕を回すようにして全体重を掛ければ急な出来事に対処するために風の頭から手が離れた。


その隙に、俺も風に手を伸ばし、頭を撫でる。呆れたように俺たちを見ながら、それでもしょうがないというように笑ってくれる風に俺はうれしくなった。


やっぱ、この位置を譲りたくはねえよな。


せめて、俺の手がこいつに届くうちは。


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