否、思惑通り

「南様、どうかなさいまして?」


「君にちょっと頼みがあってね」


あのあと、獄寺君を生徒指導室行きにした俺は、昼休み、ある女を生徒会室まで呼び出していた。


彼女の名は、桐島ゆりな。あの如月がホームステイしてる先のご令嬢だ。二人の仲はあんまりよくないようだけど。如月があんな性格してるからね、お嬢様気質の彼女はカンに障るんだろう。


今はそんな話、どうだっていいんだ。彼女には少し、害虫駆除を手伝ってもらわなきゃいけないんだから。


「あら、貴方から頼みがあるとは珍しいですわね。何かしら?」


「学園祭で、オープニングセレモニーを努めるのは、君達合唱部だったよね?」


「ええ、そうね」


俺の話の意図が掴めないのか、少し思案顔をしながら俺の話を聞いている彼女の所属する合唱部には、俺の彼女である空もいる。─これを上手く利用する。


「生徒議会で今回は、合唱部全員参加じゃなくてもよくなったんだよ」


「!──、それで?」


ああ、ここまで言えば、勘の鋭い君は俺が何を言いたいかわかるよね?


「空の遅刻の罰がまだなんだ。─俺の言いたいこと、わかるよね?」


「フフッ、ええ分かるわ。──後は私に任せてちょうだい」


「うん、頼んだよ」


パタンと閉められた生徒会室の扉を見つめる俺の口は、弧を描いていた。


桐島ゆりなと空の仲が悪い事は把握済みだ。今の俺の言葉で、彼女は空を一人で文化祭のオープニングに出させるだろう。


それに困った空は必ず俺に頼ってくる。そうしたら俺が助けてあげるよ。


君には獄寺君ではなく、俺が必要なんだってこと、身に染みて感じさせてあげるからね、空。




***

「空、アンタ一人舞台なんて大変ね」


「なんのこと?」


「え?聞いてないの?」

「今回の文化祭のオープニングセレモニーは、合唱部の代表でアンタが選抜されたのよ?」


これは一体どういうこと?あたし、今の今までそんな話聞いてないんだけど!ていうか無理だし!一人でどうやってオープニングセレモニーやれってのよ!決めたの誰だー!


放課後、合唱部の友達に練習に行こうと声をかけたあたしは、初めて耳にする事態に一瞬頭が真っ白になった。


そんな放心状態のあたしに、皆は哀れむような目を向けて、口々に「まあ、頑張れ」などと言って教室から出て行った。


「何かあったのかよ、」


「は、隼人ー!」


「おわっ!?いてッ痛ェンだよ!離れろコラ!」


放心状態になっていたあたしの元に来てくれたのは、朝一人だけ生徒指導室行きになった(直ぐ戻ってきたけど)隼人で。あまりの衝撃的事実に、そのまま隼人に抱き着いてしまった。


「どうしよー!あたし一人で舞台なんて無理だよー!」


「ああ?ワケ分かんねェよ。一先ず落ち着け。落ち着いてから順を追って話せ」


ギャーギャー叫んで隼人にぎゅうっと抱き着いていたあたしの身体は、隼人の力によって簡単に引き離されてしまい、代わりにあたしの肩にある彼の温もりに、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


そうしてやっと混乱していた頭が機能しはじめ、自分でも頭の中で整理しながら、今分かる事だけを隼人に纏めて話した。


初め学園祭のオープニングセレモニーは、合唱部全員でやることになっていたこと。そしてそれが何故かあたし一人で努めることになってしまったこと。


「──てわけだよ」


「ハッ、お前一人じゃ恥かくのが落ちだな」


「うん」


「!!──(言い返してこねェ…」


本当にどうしよう。自慢じゃないけど歌は下手じゃない。だけど一人で舞台に上がったことも、一人で歌った経験もないんだ。そんなあたしが、選抜されるなんてまずそこからおかしな話だ。


「おい、空」


誰かに仕組まれた?─うん、それなら思い当たる人間が多すぎて絞りきれないや。隼人とたけちゃんが転校してきた辺りから嫌な目で見られてたからな…。


「し、仕方ねェから手伝ってやってやる」


だけど文化祭云々の問題を取り仕切ってるのは、生徒会だよね。だったら南先輩に相談してみ──。


「おい!空、テメェ聞いてンのか!」


「え、あ、ごめん…キイテマセンデシタ」


隼人に状況説明してたの忘れてたー!隼人に肩をガクガク揺すられてプツリと切れた思考回路は、繋ぐまでに時間がかかりそうで。


目の前におられる隼人さんがものすごーく機嫌を損ねちゃってるのも一つの原因だったり。


「は、はーやとー?」


「何だよ」


「協力、してくれる?」


「…、」


隼人の無言は=肯定と見なします。つまり、協力してくれるんだよね?


「へへっ」


「抱き着くな、気色悪ィ」


「ごめんねっ、ありがと」


「けッ──」


これなら先輩に迷惑かけなくてすむし、隼人はピアノ弾けるしで一石二鳥かな。─それに隼人がこっちに来てからピアノ弾いてないだろうし、いい気分転換になるよね、きっと。




(あたし職員室、行ってくるね)
(ああ、)

────
(桐島、アンタ空に何したの)
(あら人聞きの悪い。今度ばかりは部長さんの出る幕はなくってよ)
(…泣きを見るのはどちらかしら。空をあまり見くびらないことね)
(!─、失礼するわ)


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あきゅろす。
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