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「送り助かったわ。じゃ、お疲れ様でしたー」
「はいはい、また来週な」
上田っちが家の前まで送ってくれたので、電車代ご飯代その他諸々が浮いた。
ちーちゃんは、バンギャにお持ち帰りされたとかで今日は一緒に帰らなかった。もしかしたら、ああいう話をした後だったから気を使ったのかもしれない。ハルカちゃん、悪い女じゃないといいけど。

家の門でセキュリティを解く手続きをしていると、横から白衣姿でヒールを履いた女性がやってきた。見覚えのある金髪と歩き方、多分彼女と2年振りの再会だ。
左手で大きめの段ボールを持った彼女は、白衣の右袖をぶかぶかさせて、俺の姿を上から下まで舐めるように見た。
「変わってないな宮瀬」
単調な言葉遣い。脳裏にちーちゃんがよぎった。やっぱり親子だけある。
「あいつは成長したか」
「一応娘なんだから、あいつはないでしょ」
「成長したか」
「してないよ、2年間」
やはり失敗作だったな、彼女は段ボールを地面に置くと、諦めたように溜息を吐く。気のせいか、段ボールの中から人の気配がする。
「いっそ諦めちゃえばいいのに」
「そうだな、諦めるのは容易だ。だけど私は、長谷川の私的感情に巻き込まれて腕を千切り取られたことに納得がいかない。納得がいかないなら、諦める訳にはいかない」
なんとなく支離滅裂な言い訳をした彼女は、段ボールを指すと俺の顔を仏頂面で見る。
「この間お願いした件だ。断れないように実物を持ってきた。今回は私のDNAを基にしたアンドロイドだから、あいつと違ってきちんと成長するはずだ」
俺は門にギターを立て掛け、しゃがんで指された段ボールをゆっくり開ける。中には、白い毛布に埋もれて7、8歳の女の子が眠っていた。自らの金髪に巻かれるように寝息をたてて眠る彼女は、ちーちゃんとはまた違った「母親似」だ。
「なんでそこまでクローンを作ることに固執してんの」
俺がそう喋ると、彼女は白衣の右袖を俺に無理矢理持たせた。彼女の三白眼がこちらを見据える。銃口みたいな黒目だった。
「長谷川が出来たんだ、私に出来ない訳がない」
研究のために大量の血を抜く彼女、失敗作と言われたちーちゃん、自分がなんなのか分からない段ボールの中の子。
彼女には、右腕よりもっと大切なものがない。

俺は苦笑いをして、ギターを背負い直すと段ボールを受け取った。それを眺めた彼女は満足そうに頷く。
「これで成長しなかったら、原因は育て方以外だな」
「まだ続ける気なのか」
「いや、今回のは成功するハズだ。成功したら今の不便な生活と、長谷川の呪詛とはお然らばだ。同時に医学賞も貰えるから一石二鳥だな」
彼女は左手で頭を掻くと同時、碧眼の焦点が俺の顔から少しズレた。
「そうだな、今の1件が終わったら、この家に戻って宮瀬と暮らすのも悪くない」
ぎこちない笑顔を作った彼女は、またつかつかとヒールを鳴らして夕闇へと消えた。
見送った俺は、段ボールを丁重に抱え直すとセキュリティを解く作業を再開した。
彼女は俺の感情を利用しすぎだ。分かっていながらも乗ってしまう俺も俺だけど。



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