9 新しく貢ぐ人が出来れば、惰性で続けていたバイトにも断然やる気が入る。働けば働くほど貢げるのだから。 いつもは19時にバイトを上がるのだが、18時から新宿ロフトでハルシオンのライブがあるので、今日は15時に上がることにした。 スタッフルームでロリィタの着替え支度をしていると、見掛けた店長がびっくりした様子で私に駆け寄る。 「え、遥菓ちゃん彼氏出来たの」 腰まである長い金髪を、器用に高いところで結ってある彼女は、私の巻きたての髪をぱふぱふ叩いた。 「これからライブです」 「あのご贔屓バンドの」 「そうです、もしかしたら1泊してくるんで」 「えー、遥菓ちゃん居ないとつまらん」 でもまあ、俺も明日彼氏とデートだし、店長は見た目に合わない一人称でそう喋ると、首を傾げてへらりと笑った。さりげなくのろけた。 「出待ちするんです」 巻いた髪の毛を高いところで結うと同時、横に居る店長に鏡越しで言う。 「出待ちって、バンドマンにお持ち帰りされるイベントか」 「うーん、当たってるような違うような」 「変な男に捕まんないでね、遥菓ちゃん居なくなったら、俺店長辞めるから」 立ち上がった店長は、私の顔を鏡越しで見ると冗談抜きの笑顔で笑った。 この人は私のよくわからない人間の指折りに入る。 バイト先のコンビニから新宿まで、ざっと1時間はかかる。 電車の吊り革に捕まり、眠い訳じゃないけど大きな欠伸をしたら、前に座っていたケープを羽織っている高校生と目が合う。ごまかすように足元へと視線を落とした。 [*前][次#] [戻る] |