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君に名前を呼ばれた日(番外編) ◎

 

ザクッと鈍い感触がソーディアンを持つ俺の手にも重たく響くがそのまま勢い良く叩き斬る。まだ敵は残っているのは目に入っておりすぐに次にターゲットを移し構える。



「爪竜連牙斬!!」

『踏み込みが甘い!!怖がるな!!』

「っはい!」

『奥から敵3体追加〜!5秒後距離5mとって詠唱3秒で行くわよキリオ』

「了解!!」

『口を動かす前に行動に移せ!!』



普段とは違う厳しく威厳高い声のカーレルに竦みそうになる体を抑え込みつつ目の前の敵を叩き伏せ、バックステップで距離をとり詠唱に入る。



「ストーンブラスト!!」

『オッケーオッケー☆ピッタリ〜』

『右斜め25度!!』

「月閃光!!」



飛ばされるカーレルとハロルドの指示を頭に叩き込みながらも正確に、確実に体を動かすことに集中する。



『次で最後だ。全力を叩き込めキリオ』

「いくぞ!!テメェに見切れるはずねぇだろ!!喰らえ!!翔破裂光閃!!」



最後の敵に全力で秘奥義を叩き込む。全ての敵を倒しあたりが急に静かになり、俺の乱れた呼吸の音だけが響く。



『キリオよくやった。最初の頃に比べると反応速度は随分と向上しているよ』

『私との同調率の速さも上がったわね!』



その言葉に漸く緊張が溶けその場に座り込む。



「ふへぇぇ……疲れたぁぁぁ!!」

『今日は帰って休みなさい。明日も任務だろう』

「でも、今日軍の方が模擬戦形式だから約束してんだよ」

『無理のしすぎも駄目だよキリオ』

「んー、なら見に行くだけ!!」

『って言って参加するのがキリオよね〜』

「ハロルド余計なこと言うなよー」

『ハロルドの言うことが正解だな』

『さっすが兄貴〜☆わかってるぅ♪』

『だが、止めても聞かないだろうからね。程々にしなさい』

「はーい。んじゃ、ダリルシェイドに帰りますか!」



刀身に付いた血を振って払い鞘に収め、少し小走りにダリルシェイドへと急ぐ。模擬戦前にハロルドとの同調とソーディアンを扱う訓練をしていた。ソーディアンマスターの素質があることを隠しているので、ソーディアンを使う訓練だけは誰の前でも出来ないからだ。すぐに街が見えてきて街の入口にいた見張りの兵たちが俺に気づく。



「キリオさんまた訓練ですか?」

「またって言わないで下さいよ。私なんてまだまだですから」

「何言ってんスか。この前の模擬戦凄かったっスよ!!今日のにも出られるんっスか!?」

「ええ、その予定ですよ」



にこやかに笑いながら兵士たちと会話する中、ふと街を歩く女の子たちが目に入る。髪を綺麗に巻き化粧をして可愛い服を着て歩いている。一方己は髪はボサボサで化粧などもってのほかで、手は豆だらけでガサガサになっており、服は任務帰りで訓練に出たので泥や埃に塗れている。肌はいくつもの乱戦で傷だらけになっており見るのも最近は億劫になっていた。女の子には程遠い自分の姿になんだか虚しくなる。
それでも女の子らしくいるよりも俺に今必要なのは強さだから、もう後戻りは出来ない。



「このあと自分も行きますので是非ご相手を!」

「あっ!先輩ズルいっス!俺も俺も!」

「構いませんよ」

『キリオは兵士たちにモテモテだね』

『流石は兄貴のマスターねぇ?』

『私は関係ないだろう』

『関係大ありよ鈍感兄貴』

『鈍感とはなんのことだいハロルド』



俺が兵士たちと喋る裏で会話している二人に思わず笑いたくなるがそれを抑える。ふたりの兵士に別れを告げ俺は一旦ヒューゴ邸へと足を向け歩いていた時だった。



「キリオ?」



その今は聞きなれた声に振り向くと思った通りの人物がいた。綺麗な黒髪に男にしては綺麗すぎると言っていい顔立ちにきめ細かい肌に、輝くアメジストの瞳。リオン・マグナスだった。
それよりも何よりも今リオン、俺の事名前で呼んだ?今まで貴様とかお前ばかりで一度も呼んでくれなかったのに。その事で惚けていると不思議に思ったらしいリオンが近づいてきて俺の肩を叩いた。



「キリオ?」

「痛っ!?ってあ、ああリオンさん。す、すいません」



肩を叩かれて我に返って返事をする。俺の声にすぐに肩から手は離したが驚いている。そういえば数日前すれ違いでリオンは任務に行ったので会っていなかったのを思い出した。
彼から話しかけてくるなんて珍しいどころか任務以外では初めての上、名前で呼んでくれた。その事実に少し嬉しくなる。



「怪我しているのか?」

「えっ?」

「今痛いと言っただろう」

「かすり傷ですから心配いりませんよ」

「お前も今任務から帰ってきたのか?」

「へっ、あ、は、はい!」



とっさに嘘が言葉に出る。リオンには訓練に出ているのは話した事はない。だって、訓練してるとか知られるの恥ずかしいし。
だがその時先ほど見張りをしていた兵士たちが当番が終わり通り過ぎようとしていたのは運が悪かった。



「何言ってんスか。キリオさんは昼過ぎには戻って来てたじゃないですか〜!」

「あっばか!」



もう一人の兵士が喋った方を羽交い締めにするが時すでに遅し。



「なんだと?……貴様っ」

「あー!もういつもこのことは言わないでって言ったじゃないですか!!」

「あっ!!すんません!!」



喋った方の兵士がペコペコ俺に謝ってくる。こうされると怒る気にもなれないが、目の前に約一名怒っている人物がいて睨まずにはいられない。そんな様子を見たもう一人の兵士の方がおずおずと口を開く。



「キリオさん、もう話された方が良いのでは?それに特別隠すようなことでも…」

「それはそうなんですが」

「どういうことだ?」



理由をいうのを渋る俺を見て兵士達に目を向けたリオン。申し訳なさそうに俺を見てあと彼が代わりに理由を話した。



「キリオさんは休日や任務から帰ってきたら、そのまま夜まで外や自分たちの所にきたりと鍛錬をしています。今日も比較的早く帰ってきましたから鍛錬をしていたのでこのような時間にいるのかと」



チラリと俺をみたリオンに諦めがつく。ここまで来れば誤魔化すことは出来ないだろうと思い自分で話すことにした。



「その方の言うとおりですよ」

「任務の後にわざわざ外に出て鍛錬か?」

「はい。私はヒューゴ様の推薦のおかげで客員剣士として認めてはもらいましたが、実力は足りないと思っています。客員剣士として見合う実力をつけたいのです。私が弱ければその被害を被るのはほかならぬ同じ客員剣士のリオンさんです。あなたに御迷惑をおかけするわけには行きません」

「実力が足りない?」

「ええ」



その場にいた俺の言葉に3人がため息をついた。
え?え?何…。



「貴様ら、コイツの鍛錬見ていたんだな?コイツが遅れをとったことがどれだけある?」

「確かに最初は一般兵よりも弱かったと思います。どんな兵士も馬鹿にしてました。ですが、どれだけ努力されたのかは存じ上げませんが現在普通の正規兵に遅れを取ることなどありえません」

「先輩と同じっス。最近のキリオさんが遅れをとったことはもうないっスね」

「そ、そこまで言う事の程では…」

「今日任務外でどれだけの数のモンスターと戦ってきた?」

「えっと…50越えた辺りから数えてません。って何故モンスターと…」

「その僕が叩いた時に痛がった肩の傷は人が付けられる傷じゃない」



流石はリオン。ちゃんとそこまで見ていたのか。
リオンは小さくため息をついてから俺の事をまっすぐ見てきた。そんなにしっかり顔を合わせたのはほとんどなくて軽く俺は動揺する。



「正規兵相手にここまで言わせたならば、客員剣士としての資格は充分だ」

「しかしっ…」

「まったくお前も随分と頑固だな。ならばこういえば満足するか?お前はそこらの兵士よりは断然強い。誰の目から見てもお前は充分に実力は見合っている」

「リオン、さん…」



リオンからの固定の言葉に全身に痺れが走ったような感覚になる。嬉しい。嬉しい。冗談抜きにはんぱなく嬉しい。一番認めて欲しい人に認めて貰えたことが本当に嬉しい。
自然と笑みがこぼれ落ちる。



「はい。ありがとうございます」

「それと、この後の兵士の訓練に交じる気だったな?」

「?…はいそうですが」

「おい、お前たち」

「はっ!何でしょうか?」

「キリオはこのまま僕が屋敷に連れて帰る。コイツの今回の訓練参加は断っておけ」

「えっリオンさん!?」

「了解ス」「はっ!仰せの通りに」

「いくぞ」



そう言ったリオンは俺の腕を掴んで引っ張って歩き始める。掴んだ方の腕は肩を怪我してない方で気遣ってくれてるんだとは思うんだけどそれどころじゃない。何故リオンがあんなことを言ったのか、何故今手を引っ張られているのか頭の中は大混乱だ。



「そんな怪我した状態で鍛錬など馬鹿のやることだ。屋敷に帰るぞ」

「いや、これくらい大丈夫ですからっ!!ってリオン俺の話聞いてます!?」



その俺の言葉にリオンは立ち止まりこちらを見た。



「ようやく呼び捨てで呼んだな」

「へっ!?あ、す、すいません!」

「なぜ謝る。むしろ、何故僕に親友になってやると宣言しておきながらさん付けなんだ」

「いきなり馴れ馴れしいのもあれかと…」

「一番最初に親友になってやる宣言の方が随分と馴れ馴れしいと思うが?」

「おっしゃる通りですすみません」

「別にさん付けなどいらん。お前も僕と同じ客員剣士だ。それに」



掴まれていた手を目の前に見せられる。豆だらけの女にしてはゴツくなってしまった掌。なぜ突き出されたのかわからず軽く首を傾げるとリオンは真剣な表情を浮かべた。



「剣も握ったことのないような綺麗な手だった奴が、ここまで剣士の掌になっている。これは毎日かかさずに剣を振り回している奴の手だ。その覚悟と努力は認めてやってもいい」



思わずぽかんと惚ける。確かにもう女にしてはガサガサで薄汚れ綺麗とは言い難くなってしまった。だが、この手は俺自身が積み重ね努力してきた証。決して無駄ではなかったのだ。リオンがこの手を剣士の掌だと言ってくれるだけで少し好きになれる俺は本当に現金だと思う。



「ありがとうございますリオン。あなたにそう言って貰えたのは嬉しいです」

「その敬語もどうにかならないのか?」

「えっ…と、そのかなり口が悪いから敬語で勘弁して下さい」

「まあいい。帰るぞ」



腕を掴んだ状態でまた歩き始めたリオンに俺は慌てて隣を歩き始める。



「明日の任務は?」

「緊急がなければ明日は休みかと」

「ならいい。あと明日は鍛錬に行くな。少しはマトモに体を休ませろ」

「えっ、で「休ませるのも仕事のうちだ」



言う前に正当な意見を言われグウの音も出せない。



「わかったか?」

「はぁい」



屋敷にたどり着いた時に拗ねたような返事をすると頭を思いっきり叩かれた。頭を押さえながら思わず睨み返してやると鼻で笑われた。



「認めてやる、友人としてならな」

「えっ!?いま…っ!?」



勢いよくリオンをの方を見るが、リオンはそのまま何も言わずに屋敷の中へと先に入ってしまった。ぽかんと口を開けたまま俺はいっとき放心していた。






友人として


(キリオ喜んでましたね)
(……ああ)
(やっぱり彼女、坊ちゃんに認められて嬉しかったんですよ。)
(それはマリアンに言われたからしか………シャル、今何て言った?)


女とバレたのがシャルのせいだと知ったのは、それから随分後だった。



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あきゅろす。
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