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また君と出会い ◎

運命とはわからない。普通の家庭に健康体で生まれ、普通に育ち、普通に俺は生きてきた。少し変わってるといえば女のくせに男勝りなところがあるところ。キレると口が異様に悪いところ。それくらいで、成績も普通、運動部だけど結果もまあまあくらい。そうやって、そのまま普通の人生を歩むのだと俺は思っていた。あの日、あの時、あの穴に落ちるまでは。そして俺はそれによって自分の運命を大きく変えた人に出会った。

───リオン・マグナス

男のくせに本当に女にも負けない綺麗な顔立ち。客員剣士として外を走り回ってるはずなのにきめ細やかな色白の肌。冷ややかな視線を一層冷ややかにしている角度によっては青に近い色にも見える冷めたアメジスト色の瞳。くせがあり跳ねているのにサラサラと動く黒髪。細身の見た目のわりには結構筋肉質で着痩せしている。本当にその場にいるだけで皆の視線を集めてしまう存在。そんな皆にとっての光に俺も引き寄せられた。この人の隣に立ちたい。認めてもらいたい。それは俺のその後生涯に渡る目標となる。
常人にはキツイ兵士の鍛錬に食らいついて「戦う」のを俺は選んだ。必死にただがむしゃらにら今まで生きてきた中でその時が一番頑張ったと言わんばかりの努力を重ね、そして死にモノ狂いでリオンと同じ「客員剣士」の座を勝ち取った。任務先ではハロルド・ベルセリオスが内緒で作ったソーディアンハロルド・ソーディアンカーレルと出会い俺はソーディアンマスターになることを選んだ。リオンの隣に立つことが多くなり、色々なものを共有できるようになった。そんな時俺はとあることを思い出した。

───「リオン・マグナス」はこのままだとマリアン・フェステルを人質に取られ仲間を裏切り死ぬことになる

それに俺は一瞬にして肝が冷えきり、混乱し無謀な行動に出てしまう。これは人生で一番後悔したことだ。ヒューゴ・ジルクリスト…その中にいるミクトランに戦いを挑んだ。そして、初めて痛感した。ミクトランの圧倒的な強さを。己一人の弱さを。己の無知な考えを。俺はその日ミクトランに完璧なボロ負けを味合わされた。悔しくて、哀しくて、苦しくて、どうしようもない想いが全身を走り一日中ボロボロの体でひとりで泣きはらしながら、1週間悩みこんだ。ミクトランには勝てないと身にしみて感じた俺は、己のプライドを捨てミクトランに跪くことを選んだ。その少しあとくらいに日記を読み返したとき、俺はそこでようやくリオンへの想いに気がついてしまった。その気付かれることもなく叶わないとわかる想いの苦しさと、ミクトランからの命で殺した罪もない人々への罪悪感に俺は完全に心が限界ギリギリまで来ていた。想いが叶わない相手に尽くす意味はあるのかという葛藤の中で、リオンの「親友」になることができた。そしてリオンの、エミリオの本来の表情を見て俺は悩みの答えを見つける。

───俺という存在が犠牲になってでもこの人を護りたい。大好きな憧れのこの人に生きて幸せになって欲しい。心底笑って欲しい。

普通に暮らしていたと、普通の人生を歩んでいたと、何も変わらないと言ったけどそれは違う。俺が何も努力をしなかったから普通の人生を歩んでしまっていたんだ。ここに来て諦めることをやめて俺自身の考えや気持ちが心底変わった。諦めなければ叶う願いだってある事を知った。俺が頑張れば変えられるものもあるんだ。
確かにエミリオへの恋愛としての想いは叶わない事なのかもしれない。だけど、俺はそれ以上にエミリオに笑って欲しいと思った。笑って生きて欲しいと、あんな哀しい言葉を残して死んで欲しくない。大好きだから。

───愛してるから何よりも生きて欲しい

大好きなマリアンと大好きなエミリオが笑って生きられるなら、今まで頑張らなかった分を俺は頑張り抜きたい。大好きなエミリオとマリアンとの時間は本当に早くて、ある任務とともに俺が過ごした掛け替えのない平穏な時間は幕を閉じた。

───それは「テイルズオブデスティニー」という金髪が眩しい彼の物語の始まりだった

彼らとの旅は俺が生きてきた中で最も充実した時間であり、初めてこんなにもワクワクして楽しかった。それと同時にいつかはこの大切な仲間達を裏切らなければならない重圧に俺は押し潰されそうだった。もっと時間がかかればいいのにとさえ思ってしまうほどだったが時は残酷で神の眼を追いかける旅は終わった。その功績を称えられ次期七将軍候補に上がったエミリオに最期に親友として称賛をした。エミリオの七将軍入りが発表されるその日、俺はヒューゴの中にいるミクトランの命令通りに神の目を強奪した。
近づく死への恐怖は常に纏わりついており息が出来なくなりそうだった。自分でも本当は分かっていたんだ。本当はエミリオのそばにいたかった。好きだと言って欲しかった。みんなの仲間としてそばにいたかった。

───まだ死にたくはなかった

だけどもう引き返せないところまで踏み込んでしまった。罪もない多くの人を俺はこの手で殺めたんだ。彼らのそばにいる資格など当の昔になくしていた。それにエミリオの代わりにここで死ななければ18年後にもし本当に物語のようにエルレインが出た時誰が彼らを導くというのだ。エミリオのためだけじゃないんだ。今後のためにも俺はここで死んで「ジューダス」にならなければならない。裏切らない選択肢はすでになかった。退路はもうない。それでも俺は本気でスタン達に剣を向け戦った。負けるつもりは無くソーディアンを使用したその時の俺の全力だったけど、エミリオを加えたソーディアンマスター達に俺は敵わなかった。2度目の完全敗北に俺はもう生きる気力は失ってしまっていた。あれだけ頑張ってもミクトランどころかスタン達にすら勝てなかった。俺は最愛の人の幸せを願いながら、最期まで手を伸ばそうとしてくれていた仲間達の手を振り払い死を選んだ。
そうやって後悔の塊のまま死んだからだろうか。案の定エルレインによって俺は蘇り「ジューダス」の道を歩むこととなった。半分ほど生きる気力がないせいなのか視界は霞んでしまっていた。だが、あの眩しい金髪の彼の息子との出会いが俺を少しずつ変えた。それでも、仲間達や最愛の人との再会と事実は俺にとって胸を抉られる出来事だった。いまだ後悔していながらも「キリオ・アキヤマ」としての残したものの大きさも目のあたりにし俺は後悔するのをやめた。そうして俺は何故かついてきたエミリオに真実を知られてしまう事になる。大きなわだかまりが解けたがエミリオが後悔しすぎている姿が余りにも痛々しくて、俺は彼の「同情」を黙って受け入れた。だが、俺はここに来てからの大切な家族で、相棒で、親友で、変え難い大切なソーディアン達を失った。辛うじてバランスを保っていた心が崩れてエミリオを拒絶した。それでも、ソーディアン達のために歩みを止めるわけには行かなくて俺は「今の仲間達」に全てを話した。最初はちょっとしたヤケだったかもしれない。だけど話すうちに自分の心がようやく整理できた。本当にすべてを知ってお互いに本当の意味で和解し「親友」に戻れた。それは同時に俺の想いの終わりだったが、悲しくもようやく胸のつっかえが取れてすっきりした。そうやって本当の意味で和解し、本当の意味での仲間を得て俺は満足して旅を終えた。
それから俺は消滅できず時空間の彼方を彷徨い続けた。そして、………あれ、えっと…何があったっけ……。たしか俺は光の穴に落ちて………─────





ガヤガヤとうるさいくらいの人の声が耳に入る。まぶたの向こう側も開けてないのに明るくて目が眩む。
あれ………なんで、人の声が。それに真っ暗な時空間の彼方に俺はいたのになんで眩しいんだ…。



「…っ」



身じろぎした瞬間に右肩に激痛が走り呻き声らしきものを俺は上げる。というか呻き声にすらならない声だった。状況を確認するために目を開けようとするが、眩しすぎていまだ目が開けられない。だが、耳にはたしかに人らしきざわめき声、鼻はたくさんの匂いが感じられる。とりあえず手を動かして状況を確認しようとするが右腕が全く何も感じられない。不審に思い目を閉じたまま手の感触を感じられる左手で右腕を触ろうとするが左腕も鉛のように重たい。ゆっくりと時間をかけて腕を上げて周りを触って自分の状況が少しだけわかる。どうやらベッドに寝かされているようだ。
いや、待て待て待て。俺時空間の彼方にいなかったっけ?!なんでベッドの上で寝てんの?!いっとき唸りながら考えると少しだけ思い出してきた。たしか時空間の彼方を歩き続けて限界で倒れたのに誰かが語りかけてきたと思ったら、光の穴に吸い込まれようとした。だけどそれを拒むように右腕に何かが絡まってきて……………あっ。それを、あの人が、切り、落として、俺はそのまま光の穴に落ちて、森を見てそれから記憶がない。絶対あの後出血多量で気絶したんだと思う。ということは、右腕、は、ない?
ようやくまともに動くようになった左腕を持ち上げ恐る恐る右肩に触れた。



「っ!!」



声にならない悲鳴を再びあげる。物凄い激痛が走り悶える。脈打つような痛みがようやく落ち着いて、改めて傷に触らないように確認しようとするが再び傷に触れてしまい声にならない悲鳴を上げる。これは目を開けて確認した方が絶対にいい!!少しだけ目を開けるとようやく光に慣れてくれたようで、視界はまだぼやけ気味だがものの輪郭を捉えることはできた。布団をめくりあげると苦笑いしか出来なかった。そこに右腕は存在しなかった。むしろ、肩から根こそぎ腕がない。仕方なかったとはいえもう少し手加減して欲しかったな───バルバトス。とはいえ、あの闇に飲まれていた場合を考えると恐ろしいので素直に感謝しておく。
長く目を開けていると眩しいので開けたり閉じたりを繰り返す。その間も耳には人の賑やかな声が聴こえてきて、本気で安堵を漏らす。人のざわめき声で幾分か腕がないショックから落ち着きを取り戻す。そのうち視界が鮮明になってきて首を傾げる。
あれ…俺、ここ見たことある───嘘……この部屋は………まさか。



「っ……!!」



思い当たる部屋なんて一つしかなくて慌てて部屋を見回す。家具の位置も、間取りも、どう見ても馴染み親しんだ……ヒューゴ邸の俺の部屋だ。昔のまま変わらない。何故という疑問しか思い浮かばなかった。18年後ならばこの部屋は外郭崩壊の時に壊れてしまっていたからだ。ここは18年後の世界でないことだけは確実だった。
混乱している俺の耳に窓側ではなくドアの方からさらに懐かしい声が聴こえてきた。



「もう少し客員剣士としての自覚を持て。あんなことをしたら二度とフォローしてやらん!」

「ごめん!本当ごめんってばエミリオ!二度としないから!」



俺が一番慣れ親しんだ二人の声に息が詰まる。その声と足音は段々とこちらに近づいて来ておりその度に心臓が高鳴る。待って。何で、昔の……。



「まったく……お前は変わらなさすぎだ」

「そ、それよりさエミリオ。肝心のキリオの容態は?」

「ようやく少し安定したそうだ。だが、右腕を切り落とされたせいでのあの出血量に加えて傷だらけの体に酷い衰弱状態。体を動かせるどころか、マトモに目が覚めるかどうかすらわからない、と」

「そんなっ!」

「……今は信じて僕達が呼びかけてやるしかないだろう」



足音が部屋の前で止まり軽いノックの後に扉が開いた。その姿に本当に心臓が止まるかと思うくらいに驚いた。ずっと俺が時空間の彼方を彷徨っている時にどうしても会いたくて仕方のなかった二人の姿だった。数秒間が空いて彼の瞳が見開いた。



「キリオっ!!」

「えっ!?」



らしくもなく俺の名前を叫んだ彼がこちらに慌てたように走ってきた。もうひとりの光が眩しい俺にはまだ見にくい金髪の青年も気がついてこちらに走ってくる。



「キリオ意識が戻ったのか!?」

「キリオ!!」



俺の顔を心配そうに見てくる二人になんとも言えない思いがこみ上げてくる。この際、理屈なんかもうどうでもいい。再び二人に────スタンとリオンに逢えた喜びが胸に染み渡る。全身に歓喜が走る。二人の名前を呼ぼうとするがうまく声が出なかった。



「僕達が誰かわかるか?キリオ」



俺の左手をリオンが優しく握るが、その綺麗なアメジスト色の瞳は不安そうに揺れた。後ろから見てくるスタンの空色の瞳も不安が滲んでいる。俺はもう一度二人の名前を呼ぼうとするが、声になってくれなかった。時空間の彼方にいるあいだ最初はしばしば独り言を口にしていたが途中からまったく何も喋らなかった。話し相手がいないと喋る必要がないから。どれくらい長い間喋っていなかったのかわからないが、どうやらマトモな喋り方を忘れてしまうレベルに長い間だったようだ。その割には意識がしっかりしすぎている気がするが、今は考えるのはよそう。何度も必死に二人の名前を呼んでみようと試みるがうまく発音が出来ない。その様子を見てリオンが眉を寄せた。



「もしかして、喋れない、のか?」



そう言われて何度かその後も名前を呼ぼうとするがうまく動かなくて喉が痛くなり咳き込むとリオンが俺の頭を撫でてきた。



「もういい。今は無理してまで喋ろうとするな。僕達が誰かはわかるんだな?」



俺が答えられるような質問に変えたリオンに俺は素直に頷いて答えるとスタンの瞳に安堵の色が浮かんだ。



「良かったぁ…これでわからないとか言われたら流石にどうしようかと……」

「ジューダスの頃も含めて記憶は全てあるか?」



その問にも俺は素直に頷くとようやくリオンの瞳からも不安そうな色が消え、俺の手を優しく両手で握ってくれた。



「ひとまずは良かった。僕にも18年後、というのは正しいかどうか迷うが、ジューダスと旅した記憶も、スタンにもカイル達と過ごした記憶もはっきりとあるとは先に伝えておく」

「エミリオからキリオが見つかったって話と瀕死状態に近いって同時に言われて驚いたよ。けど、なによりも目覚めてくれて良かった」

「ああ、本当に良かった」



安堵のため息を漏らすリオンとスタン。待って。そんなに見つかった時俺ヤバイ状態だったの?よくよく考えてみれば腕をぶった切られたから、酷い出血だっただろうし、出る直前立つのすらキツかったのを思い出す。大量出血に酷い衰弱、それにエルレインとフォルトナ戦の傷も癒えてなかったのを考えると俺相当すごい状態だったんじゃ……そう考えると二人の最初の慌てようも納得が行く。



『良かったですね坊ちゃん。もうキリオを見つけた時の坊ちゃんの慌てようといったら凄かったんですよ』

「シャル!」

「あんな状態ならエミリオじゃなくても慌てると思うけど。ウッドロウさんもすごい慌てっぷりだったな」

「ウッドロウは帰ったタイミングが悪すぎたな。見送って戻ってきたら目が覚めているなど」

「後でウッドロウさんにも手紙送らないと。あっ!オレ、とりあえずお医者さん呼んでくるよ!」

「ああ、頼むスタン」



そのままバタバタと部屋を出ていこうとしたスタンがこちらを振り返って満面の笑みを浮かべた。



「あっそうだ!キリオ!オレたちまだ親友でいいよな?」



スタンのその言葉に感情がこみ上げてくる。この人はまだこんな俺を親友だと言ってくれるのか。むしろ、こんな俺がスタンなんかの親友でいいのだろうか。迷うように瞳を揺らすとそれにリオンが気がついたらしい。



「キリオいいんだ。迷うな。それに違うと言ってもどうせあいつの事だ。また親友になってみせるとか言い始めるぞ」



リオンのその言葉は本当に的を射ており、その証拠にキラキラとした表情でこちらを見つめてくるスタンがいて少しだけ笑う。スタンにわかるように俺は頷く。



「よっしゃ!じゃまた後でキリオ!」



そう言うとスタンは部屋から走って出ていった。本当に変わらないなという思いとカイルの父親だなぁと実感する。



「屋敷の中を走るなと言っただろう馬鹿者…」

『何度言っても治りませんね』

「ああ、まったくだ」



スタンの様子に呆れているリオンを改めて見る。18年後と比べると幼いと感じるのは当たり前だろうがやっぱり面影はある。日本人の俺より綺麗な黒髪は少し癖があるわりには彼の動きに合わせてサラサラと動く髪は変わらない。少し肌は今の方が白いだろうか。顔立ちは言わずともだが、瞳は相変わらず見入りたくなる程綺麗なアメジスト色。角度によっては少し蒼に見えたりもする不思議な色だ。改めて言う。カッコイイ。何度見ても思う。そのなんとも言えない思いにようやく体中に安堵感が行き渡る。



「キリオどうした?」

「……?」



言葉に首を傾げるとリオンは手を離して俺の頬から何かを拭った。っていうか、あれ。視界が……俺泣いてる?気がついていないうちに泣いていたらしい。止まる様子もなくて自分でも拭うが次々と涙はこぼれ落ちる。
リオンもどうしていいかわからないようで少し困った顔をしていた。あ、この表情初めて見た。



「泣くな」



一言だけそう言うと俺の頭を撫でてきた。その人の温もりの暖かさに俺はリオンが困るのをわかっていてもいっとき涙は止まらなかった。





世界への帰還


((ど、どうしたら……。))
((珍しく坊ちゃんが困っていますね…))



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