失いたくなかった時間(番外編)
「エミリオ?」
愛しい者の声に振り返る。なんだかそれが可笑しいと思った。最近よくそれを思う。理由は分かっているからどうしようもない。僕が求めているもう一人はもうこの世には居ないのだ。この微かな心の隙間はきっと埋まらないだろう。
「どうしたの?最近休みになると上の空みたいだから…この前スタンさん達に会いに行ってから」
「そうだな…色々と思い出してしまってね」
「色々?」
「聞くかい?マリアン。僕自身も信じられないような話になるけど…君には知る権利があると思う」
「ええ、聴きたいわ。他ならぬ貴方がいうのなら私は信じる」
「ありがとう…そうだね、何から話せばいいか。1人の少年と仲間の話なんだー」
なるべく第三者視点からあの物語を語った。だけども、無意識にやはり何処かでジューダスを特別な扱いをしているのは間違いでは無いと思う。それ程までにこの十八年間彼女が隠し続けた事実は僕の胸に焼き付いていた。
「始まりの少女に出会った時仲間は皆記憶を取り戻したんだ…これで話はおわり」
「それは……本当に事実なの?」
「ああ。確信を持ちたくて当時のヒューゴ邸を探って見たら、証拠…いや彼女の遺品を見つけたよ。これが何よりもの事実だった」
マリアンに彼女の日記を渡すと心当たりがあるのか口元を抑えていた。
「古いけど間違いない……これ当時私がキリオにあげた物だわ」
「そうなのかい?!」
「ええ、文字の練習がしたいから何か良い案がないか聞かれて。だから、日記を毎日つければ文字の練習にも文を覚えるのにも役に立つんじゃないかと思って……使わないでしまってあった日記帳をあげたの」
「そうか…君が彼女に……」
「ずっと…あれからずっと…使ってくれていたのね……大切に」
悲しそうに日記帳の中身を読んでいるマリアンに少し申し訳なくなる。彼女の名前を素直に口にしたマリアンは、きっと何も言わなくても彼女の事をずっと信じていたのだろう。僕が憎しみをこぼしていた時も。
「エミリオ、私ねキリオに一度だけあることを聴いたの。それもあの日の前日に」
「なにを?」
「ずっと隠していたようだから聞かなかったのだけれど……エミリオの事を好きなのかって訊いてみたの。貴方を見ると決めて、1人の女として気になったから…その時にキリオははっきり言ったの。『好きだって言葉じゃ足りないくらい好きだ』って」
「キリオ…が?」
「ええ…その時ずっと分かっていたと思い込んでいたキリオの本音を初めてきいた気がしたわ。でも、それ以上は曖昧に笑って答えてくれなかった。だから、裏切ったって言われた時正直信じられなかった。エミリオ達に剣を向けたって聞かされてあとも信じられなかったの。心から言葉じゃ足りないくらい好きだって言える人に剣を向けられるのかって……だから、私はあの時のキリオの言葉を信じようって決めたの。どんなに世界から憎まれようと私だけは信じてあげたいって…あのエミリオへのキリオの気持ちは本物だとおもったから」
「…ああ、本物だった。本当に馬鹿なくらい………僕を愛してくれていた」
僕を親友にしてみせると言い切った時も、女のくせに傷だらけになってでも剣の腕をあげようとしていた時も、僕が背負うはずだったミクトランからの罪を背負った時も、多くの人を殺した時も、助けられるはずの命を見殺しにした時も、僕たちを裏切った時も。全て僕の為だった。気付かれないのにも関わらず馬鹿なくらい僕に尽くしていた。ただ一つ僕が好きだからという理由で。
こうしてマリアンの心をつかむ事が出来、ヒューゴの子供としてではなく1人の人間として認められたのに心は何処か満足していないんだ。あのちょっとした平穏な日々が本当に幸せだったと今ならわかる。
「気付くのが……遅すぎたな」
「え?」
「マリアンがいて…キリオがいてこその本当の幸せだった。もう取り戻す事のできないものだけど…僕にとって一番幸せな時だった。愛しいマリアンがいて、信頼出来る親友がいて……あの日々こそ大切にするべきだったと今から分かるよ」
「エミリオ…」
「勿論、今も幸せだけどあのごく普通の平和な日常が僕にとっては失いたくなかった時間なんだな…」
もう懐かしい記憶でしかないが、それさえも愛おしいくらい大切な思い出で。真実を知る事が出来たからこその想いだった。
だからこそ、僕はこの先の時間を大切にしなければならないだろう。最後の最期に信じてやることの出来なかった親友の最期の願いは、「僕の幸せ」なのだから。
「マリアン…僕は君を最後まで愛し護り続けるよ。親友の為にもね」
「ええ…そうね。その方がキリオも喜ぶわ。私もずっとエミリオを支え続ける」
キリオ、お前を信じる事が出来なくて本当にすまなかった。この18年の月日もこれから先も僕は生きる。生きて幸せだと言って死ねるようになる。お前が願ったように。
今、愛してるとは返してやれないけれどお前のことは好きだ。ずっと覚えておく。大切な親友として。
今度生まれ変わり出逢えたならば……お前との時間を過ごしてみたい。
あの時、僕を生かしてくれて本当にありがとう。
失いたくなかった時間
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(ついったのお題から。あくまでもここまでのリオン君はキリオを親友としか見れてませんという感じ。あれからの日々もちゃんとあって、本当にリオン君が生きた日々があってこそのDC編のリオン君です)
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