己は後悔を知らず(番外編)
アクアラビリンスを進んでいるととある層で出てきたキリオの幻影。当然僕達は驚いたが、ジューダスだけは溜め息をついた。
「……たい……と……い………た」
「知っていたのか?ジューダス」
「ああ、知っていたさ……コイツが出てくるのは目に見えていた。ハロルド」
そういいながら自嘲するように笑ったジューダスは既に剣に手をかけていた。
「そうねぇ…この空間に存在する粒子だけど、実有する人間を、完全に再現するほどの質量を持つものではないわね。でも、何かをかたどるくらいの質量は、計算されているわ」
「やはり、ニセモノか幻に近い存在というわけだな。いずれにしろ、僕達を混乱させてるのは確かだ…その正体暴かせてもらおう!」
ジューダスの声を聞いて全員が戦闘体制にはいると向こうから襲ってきた。
数分戦っているだけである事に気がついた。あのキリオは僕の攻撃は防ぐが、けして僕には向かってこない。反対にジューダスにはしつこく襲いかかっていた。
「ちっ…僕狙いか」
「下がれジューダス!今のお前では昔のキリオには不利だ。カイル、もっと前へ出ろ。ロニは術者の護衛と回復に回れ。リアラとハロルドはもっと派手な晶術を放て!ナナリーは前衛の援護に」
「また……………か」
また自嘲した笑いを漏らしたジューダスは、素直に下がってきた。逆に可笑しいのか丸わかりだが、今はあれを倒さねばいけない。カイル一人ではキリオの相手は厳しい。すぐに僕も前に出て戦うが、キリオはそれに戸惑っていてジューダスを強い殺気をつけて睨んでいる。また自嘲した笑いをしたジューダスは僕とカイルが下がった瞬間、入れ替わるように前に飛び出した。
「待てジューダス!!そいつの狙いはお前だ!」
「そんなの分かっている!だが、決着をつけなければならないのは僕だ!コイツは僕なんだ!それに……キリオにもう一度リオンと敵対させるのは嫌だ」
「!」
「だが、僕はもうジューダスとしての覚悟を決めた!もう僕は迷わない!!だからっ!魔人滅殺闇っ」
普段とは違う剣裁きにカイルが前に行こうとするのを止める、後衛組の晶術が当たって後にジューダスは動いた。
「まだだっ!交わらざりし命に…今もたらされん刹那の奇跡!時を経て…ここに融合せし未来への胎動!義聖剣!!」
その瞬間、仮面は吹き飛んだが真っ直ぐ前をジューダスは見たままで剣を振り上げた。
「僕は過去を断ち切る…散れ!真神煉獄刹!!」
「ぐあぁぁぁあ!!」
その断末声に思わず顔をしかめた。あの時のキリオにとどめを刺したのは僕だ。その時の姿と重なり顔を鬱向ける。ジューダスが静かにキリオの前に行ったのだけは見えた。
「そうか…そういうことだったのか…」
「…ジューダス…?」
「……こいつと戦ってみて全てを把握出来た。僕はコイツを話した物語と同じ『キリオ=アキヤマ』が皆を裏切った事を後悔しているその気持ちから出来上がっていると思っていた。勿論それもあるだろう…だが、違う」
「どういう事だ?ジューダス」
意味が分からずジューダスの隣まで行き、立ち上がっているキリオと顔を合わせた。
「確かに僕は18年前リオンを助ける為ならば、仲間やリオンを裏切っても、命を落としても構わない。その命すらいらないと思っていた」
「っ!」
「そう…思っていたつもりだった」
「え?」
「『ジューダス』である僕はもう後悔はしていない。生きているリオンやイレーヌ達を見れた、昔の仲間に会えた、カイル達に出会えた。だから、今はその事は後悔はしていない」
「ジューダス…」
「…だが、『キリオ』の中には後悔の念が残っていたんだ…「助けたかった」「殺したくなかった」「裏切りたくなかった」「もっと傍にいたかった」「もっと皆といたかった」………「もっと生きたかった」と」
その本心であろう言葉に僕は顔を鬱向けることしか出来なかった。その心を抑えて仲間の誰にも話すことなく彼女は死んでいった。そのことを後悔するなと誰にも言えるはずはなく、全員が黙り込んだ。
「その後悔の念の塊が人の形として形成されたのがこの『キリオ=アキヤマ』だ……」
「……生きたい…もっと皆といたかった…」
「「「「「「!!」」」」」」
「だが、僕は……『俺』は自分自身の信念を貫いて、リオンを守る為に裏切ったんだ。だからっ!」
剣を一閃して『キリオ』を斬り裂いた。先ほどとは違い断末声もなくむしろ、キリオは穏やかな顔をしていた。
「だから、幻想だとしてもコイツは存在してはいけないんだ!」
『キリオ』は光に溶けるように消えていった。「ありがとう」というかすかな声を残して。
「……さらばだ、キリオ=アキヤマ」
また静かになった場所でジューダスは剣を仕舞い、先に歩き始めた。
「行くぞ、ジョニーにも話を訊くのだろう?」
「あ、うん!」
全員がその声にようやく歩き始める。僕は先ほどの言葉である事を思い出した。
「歴史は元に戻るわ。だけど、元から歴史に居ない人物は消えるのよ」
「歴史を戻したら二人とも消えて、居なかったことにされるわ。私達の記憶と共にね」
リアラが消えるという事実でほとんど考えもしなかったが、リアラが消えるという事はジューダスが消えるという事でもある。ジューダスは、キリオはもう一度死ぬ事になるのではないのか?彼女は今でも生きたいと思っているのではないのか?
それを口にしていいのか迷った。ジューダスにだけ聞こえるような位置に僕は並んだ。
「ジューダス、リアラが消えるという事は……エルレインに蘇らされたお前はどうなる?」
「さあな……気にするな」
そのやり取りだけで答えは充分だった。ジューダスはこの事すら承知だったのがよくわかった。生きたいという想いをいつも圧し殺して、周りの事だけを考えている。
アクアラビリンスを進みながら考えたが、リアラが助かる術が思いつかない以上ジューダスを救う事も無理だろうという事実以外思いついてくれなかった。
(僕にはジューダスを、キリオを救う術はなかった)
(いつも僕はキリオに助けられるだけで、返す事は出来なかった)
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