君に剣を向け ◎
「とうとうここまで来ちゃったかぁ……」
俺が今歩いているこの場所は海底洞窟。そして、前を歩くのはヒューゴ様とレンブラント爺だ。とうとう本当にここ迄来てしまった。俺の命も残り僅かとなってしまった。その気持ちを抑えるためにいつも腰にある普通の剣とは違う剣をそっと撫でるとコアクリスタルが暖かく光った。
『本当に……良いんだな?キリオ』
頭に優しい声が響いた。俺の鞘に納まっているのは右にソーディアン・カーレル、左にソーディアン・ハロルドだ。原作にはない二体一対の双子ソーディアンは不思議と俺の手によく馴染んでいる。本当に偶然に見つけた幻のソーディアンの存在を知るのはヒューゴ様のみである。
しかし、本当にソーディアンがあって助かった。普通の剣では俺はきっとスタンやリオン達には敵わないからな。
俺はヒューゴ様の背中を見つめながら俺はカーレルの問に答える。
「ああ、これでいいんだ。この時の為だけに俺は今まで人を斬り、助けられる命を見捨ててきた……だから、ここで何があってもエミリオ逹を生かしてみせる」
『……お前は生「カーレル」
カーレルの言いたいことはすぐにわかったが俺はそれを首を振りながら遮った。俺は立場を変わったからにはこの役目を最期まで果たさなければならない。
『キリオ…』
「俺はここで裏切り者として死ぬんだ。そうしないとだめだ」
『……解った』
悲しそうな声のカーレルの声が響いた。俺は二人の優しくコアクリスタルを撫で続ける。そうしているうちに見覚えのある大きな広間と階段が見えた。ここ、か。3人の足音しか聞こえなかったはずの洞窟内に戦闘音が響きわたってきた。どうやらそろそろスタン達が追いついてきたようだ。ヒューゴ様もそれに気がついたようでこちらを振り向いた。
「ねずみが紛れ込んだようだな。キリオ」
「はい」
「ここに残り、ソーディアンマスター逹を足止めしろ」
「分かりました、ヒューゴ様」
俺は丁寧にヒューゴ様に──ミクトラン敬礼しながら思う。この人の中にいるミクトランを俺が一人で倒せればどんなに良かっただろうか。逆の手を痛いほど握り締める。流石にラスボスはそんなに甘くはなく、俺は一度一人で戦いを挑み彼にボロ負けをしてしまった。俺一人では歴然とした圧倒的な差で敗北をしてしまったのである。あの時感じた死の迫り来る感覚と勝てない相手への恐怖は未だに身に染みており、対峙するだけで汗が滲む。俺のその態度だけでミクトランは満足しているのだろう。ヒューゴ様の姿をしたミクトランは口角を上げて笑った。
「キリオ言いたいことはないか?」
「約束はお守り下さい、とだけ」
「『マリアン・フェステルには手を出さない。エミリオを計画首謀に巻き込まない』だったな」
「はい」
「良かろう。反抗的なエミリオよりもお前は素直で計画の前倒しに大いに役に立った。その二つは守ってやる」
「ありがとう御座います」
「ただし──」
『キリオよけて!!』
珍しくハロルドが真剣な声で叫んだので俺は考えるよりも先にハロルドとカーレルに手を掛けようとするが、それより一足早くミクトランがベルセリオスを振った。
「がはっ!?」
『『キリオ!!』』
「貴様はココで死ね」
ベルセリオスで俺は海底洞窟の壁に叩きつけられた。息をすると焼けるような痛みが走った。受身を取りそこねたせいかどうやら肋骨が二、三本折れているかもしれない。折れた肋骨が肺に喰いこんだのか咳をした時に一緒に血を吐き出しだ。
「お前がここでソーディアンマスター達を足止め出来なければ次にこうなるのは……わかっているな?」
睨まれて背筋が凍った。マリアンは万が一に備え一番戦力の残っているジョニー達の所に行くように仕向けて行方はくらませたが、この表情まさかミクトランはマリアンの居場所を…知っている?自然と息が浅くなる。そんな俺の青ざめた表情を見てまた愉快そうにミクトランは笑った。
「ベルクラントさえ蘇ればそんな女一人に一々手を出しはしないから安心しろ。ベルクラントが復活するまでの間足止めすれば良い」
「…はい」
震えそうになる体を必死に押さえ込む。骨の髄にまで染み渡るように刻まれた恐怖が体中を駆け巡る。ここで俺が裏切る事は許さないと言われたようだった。自分の中にあった微かな可能性の光がこの瞬間、消えた気がした。
遠くに聞こえていた戦闘音と足音が近くなり、そしてやがて目に飛び込んできたのは鮮やかな金髪だった。
『気をつけろスタン、誰かいるぞ!』
ディムロスの声が聞こえ激痛が走る体に喝を入れ立ち上がる。溢れてきた血を拭い俺はスタン達の方へと体を向ける。
「いたぞ、あそこだ!」
「ヒューゴ、待ちなさい!」
「止すのじゃ、来てはならん」
レンブラント爺が静止をかけるもスタン達はこちらへ走ってきた。俺はただ無表情で彼らを見下ろす。皆俺を見てそれぞれ複雑な表情を浮かべていた。
「キリオ、奴らを足止め…いや始末しろ」
「…………はい。ヒューゴ様の計画のために邪魔はさせません」
俺はヒューゴ様の方を振り向かずに答えた。その答えに満足したらしくヒューゴ様とレンブラント爺はその場を後にした。……レンブラント爺、出来ればあなたにも俺は生きて欲しいと思うよ。一度目を閉じて息を吐き、そして俺は見下した目で彼らを見た。その場を動こうとしない俺にスタンが怒鳴った。
「キリオ!そこをどけ!」
「…………」
「キリオ君、退きたまえ」
酷く複雑そうな表情をしているウッドロウ。なんだか少し申し訳なくなる。やっぱり話すんじゃなかったかなと思うが、あれは彼にくらいしか頼めない。俺の最期のワガママ、許してねウッドロウ。黙り込んだままの俺を見てウッドロウも声を荒らげた。
「君は事の重大さがわかってない!」
「キリオ………いいからどけ。なるべくならばお前に剣を向けたくはない」
リオンが真剣な顔で言った。リオンのその言葉に少しだけ嬉しいと思ってしまった。敵には問答無用で剣を向けるリオンが、少しでも剣を抜くのを躊躇うほどの間柄になれたんだと実感出来た。本当はお前たちと一緒に行く選択も何度も、何度も、何度も、考えて、考えて、考えて………一番残酷な選択をしてごめん。
せめて、俺を恨んでくれ───エミリオ
「わかってなかったのはテメェらの方だ!」
「なに…!?」
「キリオっ!!」
言葉と同時に剣を抜いた俺にリオンが苦痛に歪めた表情を初めて見せ、それを嫌がるように大声で俺の名前を呼んだ。ありがとう、ありがとう、ありがとう……泣き出しそうな気持ちを必死に押さえこみ無表情を貫く。
「テメェらはヒューゴ様に利用されたんだよ。グレバムから神の眼を奪うために。全ては俺たちの、ヒューゴ様の計画通りだ」
『アンタらがここに来たこと以外はね』
『同僚と剣を交える事になるとはこれも因果か……』
『その声……まさか!』
「俺のソーディアンのカーレル、そしてハロルドだ」
「えっ……キリオの、ソーディアン?」
「キリオさんはソーディアンの声は聞こえないはずでは……」
『まさか!ずっと聞こえていたというのか!?』
「ああ、ずーっと聞こえてたぜ?ディムロス」
初めて俺は無表情を崩し口角を上げて馬鹿にするように笑った。
「………………たのか」
「リオン?」
酷く冷たい声が響いた。彼の目に明らかな強い感情が映っていた。次の瞬間、らしくもない程の大声を彼があげだ。
「僕を騙していたのか!!!」
強い憎しみに満ちた感情がこちらへと向けられた。それに思わず体が竦みそうになるが耐え、俺は冷静な声音で返した。
「そうだけど?」
「っ!!」
冷静な声音の俺にリオンが竦んで一歩後退した。
『カーレル、何故だ、何故お前がついていながら止めなかった!』
『私のマスターはキリオだ。マスターに逆らうなど言語道断』
『ハロルド…』
『アタシも兄貴と同じよ?キリオがアタシのマスターになったんだから最後まで着いていくに決まってるでしょ』
『ならば何故今まで黙っていたのじゃ』
『愚問だなクレメンテ。キリオがソーディアンマスターだとバレぬようにだ』
『キリオの目的の為にね』
『全て知っていてわたしたちを騙したのね』
『愚か、我らが志を無くしたか!』
『何とでも言うがいい。私たちの力ではもうどうにもならない』
『最早ぬしに言われる筋合いはないわい!』
『認識するべきだ。古の存在に逆らうなど不可能だ、って事をお前達もな』
『ぬかせ、裏切り者が!』
「待って、キリオさん」
ソーディアン達の言い争う中、フィリアか口を開いた。
「あなたこそヒューゴに利用されたのではなくって?」
「そうだ、目を覚ますんだキリオ君!」
「テメェの言う通りだフィリア。ヒューゴ様にとっては、俺でさえ使い捨ての駒の一つに過ぎねぇんだ」
その俺の言葉にフィリアが思わず口を押さえた。周りにも苦渋の表情が浮かぶ。
「そんな……」
「ちょっと、そこまでわかっててあいつの味方をするって言うの?」
「………ああ」
「あんた馬鹿じゃないの、何考えてるのよ!」
「ヒューゴ様の目的の完遂と俺のと目的のためだ」
「目的?」
「なーに、かっこつけてるのよ」
「捨てられた奴に言われたくないね」
「なんですって!」
俺の言葉に一瞬で顔を赤くして怒ったルーティは飛び出そうとしたがウッドロウとリオンが止める。
「よすんだルーティ君。挑発に乗るんじゃない!」
「ルーティ勝手に前に出るな!」
「うるさいわね!」
二人の手を除けてルーティは前に飛び出してきた。…ごめんルーティ。お前が怒って前に出ることを知ってて今の言葉言った。本当にお前が一番嫌がること言ってごめん。両親がいなくても孤児院を守るために前向きに必死に頑張ってたルーティが俺は大好きだよ。だから、俺が居なくなって後リオンをしっかり宜しくな…。
「キリオ!それ以上言ったら、容赦しないわよ!」
「容赦しない、か……アハハハハ!!」
「何笑ってんのよ!!」
「ヒューゴ様に捨てられた分際で何を言うかと思えば…」
「誰のことよ!?」
「テメェと…リオンの事に決まってんだろ」
「え…」
「まさかっ…」
驚きで固まった他の皆と違いリオンがサッと青くなった。
「ルーティはヒューゴ様に捨てられたんだ。母親が託したアトワイトと共に!……なぁ?リオン」
「っ!」
耐え切れないようにリオンは俺から顔を背けた。混乱した様にルーティは俺とリオンを交互に見て、明らかに先程とは違う迫力にかけた声を上げる。
「何を勝手なことを抜かしてんのよ…そんなこと、あんたが知ってるわけが……」
「んじゃ、アトワイトに聞けばいいだろ?それとも……リオンに聞けば?なあ、リオン。言ってやれよ………僕はヒューゴ様の息子だって」
「えっ!?」
「ま、待ってよ……」
ルーティが震えた声を上げ俺に背中を向けリオンを見る。リオンは俯いたまま顔をあげようとはしなかった。
「ヒューゴ様の妻の名はクリス・カトレット。そのヒューゴ様とクリス様との間に出来た最初の娘。それがテメェだルーティ!」
「……めろ」
「そして、そこにいるリオン・マグナス……いや?エミリオ・カトレットはルーティ、テメェの実の弟だ!」
「もうやめてくれキリオ!!」
顔をあげたリオンは酷く辛そうな表情をしていて、思わず少しだけ表情が崩れそうになるがグッと唇を噛み耐える。
「アトワイト……」
『で、デタラメを言わないで!』
「なんだ、話してなかったのかよ。ソーディアンとマスターは一心同体なのに嘘ついてたんだな?」
『ルーティ聞いちゃだめよ!』
「薄情なソーディアンと弟だな?」
「やめろ、キリオ!それ以上、それ以上何も言うな!」
スタンまでもが声を荒らげる。そんなスタンを俺は見下した様に見つめた。
「ハッ!ナイト気取りかよ、随分とかっこいいな」
「なんだと!」
スタンまでもが挑発に乗り俺を睨みつける。
人の為に真っ直ぐに怒れるスタンが俺は羨ましかった。いつでも真っ直ぐで、暖かくて、優しくて、眩しくて、居心地が良くて…………俺とは正反対のお前が羨ましかった。羨ましくて堪らなかった。スタンといると俺の醜さが露になるようで、嫌だった、辛かった、苦しかった。でも、そんな俺を親友と呼んでくれたその一言に俺がどれだけ救われたかお前は自覚がないだろうな。ありがとう。本当にありがとうスタン。
────後は任せた
「何時もその感情に身を任せてテメェは邪魔だったんだよスタン。ったく、ヒューゴ様の計画台無しになるところだっただろ。ああ、そう言えばリオン」
「っ!」
身構えたリオンに俺はドスの利かせた声で告げる。
「ヒューゴ様から伝言だ。「お前は役立たずだ。もう用はない」だそうだ」
「!!」
その言葉にどれだけリオンがショックを受けただろうか。本当は父に認められたいと願っていたであろう彼にそれを告げるのがどれだけの苦しみを与えただろうか。ふらふらとリオンは2、3歩後退した。お喋りはここまでだ。此処まで時間を稼げればきっと後は耐えれるはずだ。動揺しきって隙だらけで背中を向けるルーティに目を付ける。嫌がる本心を抑え俺はハロとカーレルを構えルーティに向かって飛び出した。それにいち早く気が付いたのはスタンだった。
「ルーティ後ろだ!!」
「えっ」
「隙だらけなんだよ!!」
「っああ!?」
アトワイトすら抜き損ねたルーティに手加減無しに俺は斬り付け下に向かって思いっきり蹴り飛ばした。
「ルーティ!!」
「貴様っ!!」
スタンはルーティを受け止め、リオンはシャルティエを抜いた。
「俺はテメェらを殺す、何よりも俺自身の為にな!!」
俺は階段から飛び降りその勢いのままリオンに斬りかかった。
運命の時
(俺のこの選択は正しくはないなんて)
(ずっと前からわかっていた)
(それでも未来の為にこの選択を選んだ俺を)
(お前たちは許してくれるかな)
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