g.short
再び立つための勇気を (沖田)
「今年も見事に染まったね」
庭の木々は秋の色。
去年もこうして縁側から降りて、秋の陽射しを浴びたっけ。
後ろの縁側で寝そべる総悟は「昼寝の邪魔だ」と文句を言ってた。
今年はいつものアイマスクもしないでただ静かに横になってる。
「そんなとこで寝たら、そろそろ季節も季節だし風邪ひくよ?
寒くないの?」
「ほっとけ」
ざぁっと冷たい風が吹いて、あたしの髪が流されていく。
ぐちゃぐちゃになるのも嫌で、手で押さえようとしたけど、片手だけでは役に立たなかった。
「あはは、髪ぐちゃぐちゃ」
風が収まってるうちに、と片手で髪を直しながら総悟が寝そべる縁側まで戻って腰掛けた。
さっきから総悟は片肘をついてずっとあたしを見ていたから、どうした?と視線で問うと「なんでもねェ」とでも言うように、ぐでんと仰向けに寝転んだ。
柄にもなく心配してくれているのだ。
去年のあたしにあって、今のあたしにないもの。
あたしの片腕。
失ったのが片腕だけで済んだのは多分奇跡みたいなものだったんだろう。
でも。
失ったのは片腕だけなのに。
あたしは心までアンバランスになってる。
片腕と一緒に、心の一部も失ってしまったのかな。
「‥うん、
やっぱり、これしかないな。
‥‥これでばいばいにしよう、総悟」
あたしは、組を抜ける。
「は?意味わかんねェ」
「ばいばい、だよ。
利き腕のない‥刀も持てない女隊士なんて組のお荷物だもん」
「刀使えねェなら足りない脳みそ使えよ」
「残った腕じゃ筆だってまだ満足に使えないのに?
せっかく残った一本も折れてちゃ使えないし。筆なんていつ持てるようになるかな」
「んじゃァ、マスコット?」
「組の?
マコトなんとか‥だったっけ?万事屋さん達に任せるよりはいいかもね」
怪我防止の啓発くらいにはなるかと自虐ネタで笑えば、下らねェこと言ってんなと怒られた。
今日はなんでそんなに優しいの?
ううん、総悟はいつだって優しかったね。
「さっき辞表出してきたんだ」
「けっ、ここ辞めてこれからお前に何が出来るってんでィ。
ここにいりゃァお前に甘い近藤さんがなんとかしてくれんだろ」
「あたし、婚活しようと思うんだ。
こんな体になっちゃったけど、とにかく怪我早く治して片腕でも家事出来るようにこれから練習して、同情でもいいから、貰ってくれる人捜すつもり。
あたし、母親になりたい。
総悟はあたしが子供好きだって知ってるでしょ?」
「‥いんや、初耳ですがねィ」
たとえ、両手で抱いてあげることが出来なくても。
「あたし、絶対良いお母さんになると思うの。天職だと思うんだよね」
「泣く子も黙る斬り込み隊員が?
無理無理。諦めなせェ」
「そうかなぁ?向いてると思うんだけど。
‥‥‥‥‥今だから言うけどね、総悟‥、‥隊長。
隊長、あたし、ずっと辛かった。
ずっと考えてたんだ。
片腕を失ったからじゃなくて。
ずっとずっと前から。あたし、剣を持つことにずっと戸惑ってた。向いてないのかなってずっと不安だった」
「‥お前の剣に迷いがあったのは知ってまさァ。
でも、それを振り切って刃を振り下ろす強い意思も、お前にはあったんじゃねェのか」
「持って、たよ。
迷いを振り切って刃を振り下ろす利き腕を、ね。
腕にも心って宿るのかな。
今のあたしは腕と一緒にそんな意思まで無くしちゃった」
この世の中のために。
一人でも多くの人が悲しまないように。
仲間のために。
局長のために。
総悟と一緒に立つために。
あたしは迷いながらも剣を振ってきた。
「生まれてきたからには、幸せになりたいと思う。
あたしは今まで、幸せだった。
迷っても、辛くても、剣を持つ意味を見出だせていたから。
‥でも。今のあたしは幸せだとは思えない。
剣を持ち続ける意味がわからないよ。‥はは‥もう持つための腕もないんだけどね」
「俺が、嫁に来いって言ったら、お前は救われんのか?
違うよな?」
「‥‥‥そうだね。
総悟のお嫁さんは素敵過ぎる夢だけど、あたし自身の問題は何も解決しないだろうな」
「‥(俺は十分だけどねィ)」
「え?ごめん、聞こえなかった」
「聞こえるようには言ってないんで」
「なによ、それ。
‥‥勘違いしないでね。
今まで考えたことなかったけど、あたしは総悟のお嫁さんになりたかったよ。それは間違いじゃないの。
総悟以外の人と、本当は結婚なんかしたくない。
だけど、あたしの問題を総悟に押し付けてまで、あたしは楽になりたくない。
あたしは弱い人間だから、総悟のお嫁さんには相応しくないと思う」
「2年だけ、よく考えろ。
心の一部無くしたって、お前は折れちゃいねェだろ。
立ち上がるくれーの時間は待っててやる。
だから、お前も今はバカみてーに突っ走んな。俺より弱ェ男と一緒になるなんざバカのすることだろィ」
「‥ほんと、‥近藤さんも、総悟も、‥あたしに甘いんだから‥」
近藤さんも、あたしに「待ってるから、戻って来い」って言ってくれた。
「お前に甘いんじゃねェ。自分に甘いだけでィ。
仕方ねェから俺もガキの父親になる覚悟しといてやるよ」
「総悟がお父さんとか、笑っちゃうなぁ、なんか。
どうしよう。そんな光景‥想像するだけで‥涙‥出そう」
あたしに出来ること、まだあるのかわからないけど。
最後の気力振り絞って探してくるよ。
それで、きっとまた此処に立つ。
待っててくれるんだもんね。
大好きなあなたが。
もう少しだけ。
あたし頑張ってみるね。
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