いろいろ
忘れない 8
花火大会がある、と椿から聞いた俺は、学校を終えるなり即ユメを連れ出した。
すぐには首を縦に振らなかった彼女だが、結局は日本を見てみたいと言って頷いてくれた。
『日本は、お母さんの故郷だから。
怖いのに、いつか行ってみたいと思ってた。来れるなんて思ってもなかったけど』
『母親のことが不満なら心配ない。俺がいる。
いざとなったら俺がお前を使って戦うから。
博士とは武器としても訓練していたんだろう?』
こうして、俺はユメと日本へ花火を見に来たわけだ。
彼女のユカタという服。やはり和服なだけあって、見物客はほとんどが着用している。暗がりの中でも非常に色とりどりだった。
花火にも満足した。
一つ一つ、ほとんどが左右対称に作られているし、何より圧巻だ。
まさに開いた口が塞がらない、といった間抜けな顔で二人並んで見惚れていた。
アラクノフォビアとの全面戦闘前に気が抜けていると言われるかもしれないが、こんな日常も許されるだろう?
俺達は、そんな日常を守るために戦うのだから。
「ありがとうキッド」
「行けてよかったな」
「うん」
「来週はなかなか来てやれないと思う」
「忙しいの?」
「ああ」
俺は、アラクノフォビアに乗り込むことになったと説明する。
「‥気を、つけてね?」
「ああ」
「気をつけて、怪我‥しないで、帰ってきて」
「当たり前だ。
帰ってきたらハーブティーを煎れてくれ」
「うん、用意して待ってる」
「あと、
一つ、提案したいのだが」
「何?」
「学校に、行きたくないか?」
「学校に?」
「そうだ。
俺達は、アラクネを倒す。
強大な魔女を倒してくる。
魔女などに怯える必要はないとお前に証明してやる。
だから、死武専に通え」
「‥学校、か」
「お前は正式に武器として学び、シュタイン博士を救えるよう、励めば良い」
「‥‥‥うん」
「俺達とともに」
「うん。‥やってみるよ」
約束するから、早く無事に帰ってきてね。
約束したにもかかわらず。
無事に戻れなかったのは、俺だった。
くそ!
いくら悪態をつこうと、現状は変わらない。
焦る気持ちを抑えるのに必死だ。
マカ達を信じている。
俺は必ず、帰る。
帰るさ。
待っていろ。
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