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いろいろ
忘れない 6
キッドは毎日、日によっては何回も私に会いに来てくれる。


「キッド!どうしたの、その傷!お昼に会ったときにはなかったのに!」

「心配するな。
授業でブラックスターと組み手をしてな。
ついでにソウルも加わって取っ組み合いに‥」

「喧嘩じゃないんでしょうね!?」

「えっ!?はは、まさかッ!
違うに決まっている」

「本当に?」

「‥‥‥‥‥‥‥ごめんなさい」

「喧嘩は駄目です。
しょうがないな。特製ハーブティー煎れるから、飲んでいってね」


今は、私の怪我も良くなり、食事もスピリットさんやキッドが差し入れてくれる食材で自炊が出来きるようになったから、本来なら彼らが私のところに毎日顔を出す意味はない。
それでも、キッドもスピリットさんも会いにきてくれるし、死神様もフランクの研究所にいた頃と同じように鏡越しにお話ししてくれる。


「俺以外の面識はないのに、本当にユメはよく俺達のことを知っているよな」

「フランクが毎日話してくれていたから。学校のこと、生徒のこと、スピリットさんの失敗談や、先生たちの話も」


フランクの話は面白かった。時にハラハラしたし、時には憧れて、嫉妬もした。
でも、何より、ずっと研究所に篭る私に外の話をたくさん話して聞かせてくれるフランクの優しさが嬉しかった。


「‥博士が、ユメを外に連れ出そうとしていたってのは、本当だったんだな」

「‥‥‥‥うん‥」


先日からキッドが毎日のように出掛けようと誘われていた。
だけど、私は時間や気分を理由にして、今日のようになんとなく断り続けていた。


「‥‥キッドも、外へ行った方がいいと思う?」

「当たり前だ!
しかし、‥無理にというのも問題がある。
一体どうして嫌がる?」

「怖いから」

「他の人間が?」

「お母さんに、見つかることが」


東洋出身の魔女だった母親は、私を産んですぐに姿を消した。
だから、私は魔女としての力の使い方も知識も全く学ばず、父の造ったソウルプロテクトと同様の効果を持つ指輪を嵌めることで、ただの人間として山の中の小さな村で生きていた。

7歳のとき。
イジメられる幼なじみを助けようと無意識に魔力を使い、突風を起こした。程度は軽かったものの、イジメていた子達の怪我を見て、自分の持っている『何か』は善くないものだと知った。
それ以来、私の引きこもり癖が始まった。自分の力が誰かを傷つけるのが怖かった。
『怖くない』と言ってくれた幼なじみと父だけが、私の安心できる世界だった。

父が亡くなってしばらくした頃、幼なじみが『結婚しようか』と言ってくれた。

「ちょ、ちょっと待て!
幼なじみって男だったのか!?
というか、そういう仲だったのか!?」

「あれ?言ってなかったっけ?
付き合ってたって訳じゃないけど、お互い一緒にいるのが当たり前だったし、結婚も『そっか、そろそろか』って感じで。今となっては恋だったのかもわからないけどね」

「そろそろって、お前、今まだ19だろう!いつの話だ!?」

「うん、その頃は16歳だったかな。なったばっかりか。プロポーズは誕生日だったから。
田舎だからね。村では結婚は15過ぎたらって感じだった」

「‥信じられん」

「私も今ではびっくりよ。
プロポーズは受けても彼の家族が反対していたから、約束だけだったけど。
それでも、唯一の家族だった父を亡くした私には、ものすごく嬉しかった」

それからしばらくして、私の母親だって名乗る女性が訪ねて来た。
強い魔女の気配は怖かったけど、長い黒髪の、とても綺麗な人で笑顔が優しかった。
父の死を伝えると、ならば自分と一緒に行こうと提案してくれて。
でも私は、婚約者がいるから、この村で生きていくつもりだって正直に話して断った。感謝の気持ちを伝えた上で。
やっぱり母親だったし、自分を気にかけて会いに来てくれたのは本当に嬉しかったから。
『それが貴女の選んだ道ならば』ってその時は確かに微笑んでくれたと思ったんだ。

だけど、それが始まりだった。

次の日、幼なじみの家が火事になって、彼も彼の家族も誰一人助からなかった。
焼け跡に魔力を感じて、まさか、って嫌な予感がした。

そしてまた数日が経って。
また母親が現れた。
『私と一緒に来る気になった?
私だって無理矢理連れて行きたくないの。合意の上で、ね。娘だもの。
私ちょっと用を済まして来るから、帰りにまた寄るわ。それまでによく考えなさい』
その日、村の半分が竜巻に襲われた。
私の答えは考えるまでもなかった。

「最低な奴だな。‥‥あ‥すまん母親だったな‥」

「いいの。
お母さんがやったことは許されないことよ」

「母親はどうしたんだ?」

「それが、わからないの。
覚悟決めて待ってたら、来たのはお母さんじゃなくてフランクだったんだ」

「‥‥‥」

「混乱と恐怖でパニックしてる間に、抵抗むなしく捕まって。
目が覚めたら研究所にいたんだから」

「人さらいっていうか、今更ながら犯罪だよな、シュタイン博士」

「そうね。助かったのも事実だけど。最初は本当に恐ろしい人だと思ったな。
‥‥死神様のデスシティはどこより安全だとわかってるし、フランクは魔女が来ても守ってくれるって約束してくれた。
だからこそ、私は怖い。
私はここが好き。死神様も、キッドもいる、フランクの帰って来る場所であるデスシティが。
ここにいたい。失いたくない。
大事に思うほど、怖くて」

「‥そうか。
ありがとう、ユメ。この街を好きだと言ってくれて。
だが、それならもっとこの街を知ってほしい。俺の仲間達にも会ってほしい。
ゆっくりでいい、頑張ってみないか?俺に任せておけば大丈夫だ」

キッドの自信たっぷりの笑顔は、何故かとてもフランクを思い出させた。

『OK。キミの言い分はわかりました。
だけど、困ったことに認めるわけにはいかなくてね。
このままじゃ少女を監禁してる変態だと思われるだろ』

『違ったの?』

『‥‥放り出しましょうか?
それか本当に監禁‥』

『やだ!嘘です!冗談です!』

『ゆっくり、慣れればいい。
ユメは人の温かさを、これからたくさん知らなくちゃならない。
怖いことは何もない。
俺が手取り足取り、ふふ‥、エスコートしてあげるからね』

『う‥フランク、その後半の微笑み絶対おかしいよ!?笑うとこじゃないよね!?』



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