短編
12
「アキっ!大丈夫っ…?」
「ッ、るさい!放せよっ!」
手で押し退けようとすると、リョウは今にも泣きそうな情けない顔をした。
「そんな…さっきまで、あんなに愛し合った仲なのに…!」
「だぁぁ何ふざけたこと言ってるんだよ!あんなの不可抗力だ!」
「うぅ…!」
男に…しかもこんな弱そうな奴に抱かれたとか何かの間違いだ!
「いやぁお疲れ様ー。二人とも良かったよー」
何とかリョウから離れようと奮闘していると、呑気な声とともに小野村がニコニコしながらやってきた。その隣には丸川の姿も。
「あっ、なっ…!」
「どっちも初めてとは思えなかったねー。すごく良いモノが撮れたよー」
上機嫌の小野村とは対称的に、俺は一気に血の気が引いた。
(やっぱり撮られてたんだ…最後まで……!)
「何にも打ち合わせしなかったけど、思った通りになったねー。やっぱ俺って天才なのかなー?」
何でも、カメラは回ったまま別の部屋から遠隔操作をしていたらしい。もちろん俺とリョウの……も撮られていて。
全部、小野村が仕組んだことだったんだ。
「どうかなー二人とも。これを機にうちの専属モデルになってくれると嬉しいんだけどー」
「なっ、ざけん」
「ぜひ!」
「は!?」
全力で拒否しようとしたら、俺を抱き締めていたリョウが声を上げた。驚く俺をよそに「でも、」と続ける。
「俺の相手役はアキだけにしていただけませんか?アキの相手も、俺だけにしてほしいんです」
「はぁぁっ!?」
何言ってるんだこいつ!?
驚愕する俺とは反対に、リョウはいたって真剣だ。さっきまで泣きそうだったくせに。
小野村もふんふんと頷いている。
「確かに、二人ともかなり相性良いみたいだしねぇ。ペア組んでシリーズにすれば売れるかもー」
ちょっと待て!俺はまだ何も…!
「リョウ君はよっぽどアキ君のことが気に入ったんだねー」
はい!と大きく返事をして、リョウは俺を抱き締める腕に力をこめた。
「アキ、愛してる…これからもよろしく……」
「っ…!」
真剣な顔で見つめられて、低い声で囁かれる。そのまま顔が近付いてきて、一気に血が上った。
「ッ、ざけんなぁーっ!」
「ヘタレのくせに調子乗んな!」と目の前の男を思い切り殴り飛ばす。
一瞬ドキッとしてしまったことは内緒だ。
この日から、俺の生活が大きく変わることになる。
……リョウが、撮影になると普段のヘタレから別人になるのを知ったのは、もう少し後の話。
*END*
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