[携帯モード] [URL送信]

短編集・読み切り



「図星かよ、情けねー奴」


 高取を押し退けるようにして掴んでいた

シャツを手放したけれど、高取はその場に

踏みとどまった。


「岡本の人生を狂わせた責任っていうなら

 岡本に突っ込んだ奴全員とるべきだろ。

 お前も島崎も、ヒデも尾山も野坂も九条

 も。

 挙げたらキリがねーし、全員なんて覚え

 てもねーけどよ」

「何十人いるのか知らないけど、岡本がそ

 いつらに大人しく犯られたのは高取…ア

 ンタがいたからだ。

 岡本を拒むくらいなら最初から手を出さ

 なきゃこんなことにならなかった。

 嫌なら嫌でさっさと手を引いてしまえば

 よかっただろ。

 今になって、ここまで岡本の人生を狂わ

 せてから無責任に放り出すなんて、あま

 りにも筋が通らないんじゃないか」


 あくまでも認めようとしない高取に分か

っているだろう、と釘を刺す。

 皆の前で快楽とはほど遠い刺激であっけ

なくイッた岡本。

 誰が見たって一目瞭然なのに、それでも

たったそれだけの事を認めたくなくて高取

はこんな所にいるというのか。

 俺様気質でいつも強気な高取らしくない。


「お前は…お前こそどうしてそんなに岡本

 に構う?

 救ってやりたいならお前が今すぐ駆けつ

 けてやればいいだろ。

 手を出したのが俺だからって、俺がずっ

 と岡本を飼い続けてやらなきゃならない

 義理なんてない」


 見た者を射抜くような目で睨みながら高

取は胸元のシャツをの乱れを伸ばして直す。


「そもそも俺と岡本の間がどうなろうと吉

 光には関係ねーだろ。

 まるで俺と岡本の関係が変わってほしく

 ないみたいだが、変わらないなら岡本は

 卒業まで学校中の…いや、無数の野郎ど

 ものオナホでいることになる。

 そのほうが今手放すよりよっぽど残酷だ

 って思わないのか」

「だから手放すななんて言ってないだろ。

 だけどこんな形で」

「るせーな。

 手を出した俺が悪いなら言いなりだった

 岡本は少しも悪くないのか。

 されるがままになってりゃ俺が岡本を受

 け入れて当然とか寝言ほざくんじゃねー

 だろうな。

 もう一度言うぞ。

 俺と岡本の間がどうなろうと吉光には関

 係ねーんだから金輪際口を出すな。

 それとも…俺と岡本の関係が切れたら都

 合の悪いことでもあんのか」


 今度はオレが押し黙る番で、暗い愉しみ

を見透かされたような気がして耐えきれず

に視線をそらす。

 いつもの無口ぶりなどどこ吹く風で多弁

な高取は喋りながらいつもの調子を取り戻

したようで、踏み込み過ぎたオレが悪いと

その目が俺を責めた。

 充分すぎるほどの間を開けて俺が反論し

ないことを確かめた高取は深く長く吐息を

吐き出した。


「テメーの事くらい、テメーで面倒見ろよ。

 俺に押し付けてデカイ面すんな」


 ギリギリと胸が締め上げられるようで痛

い。

 解っていた。

 後ろ暗い悦びだと解っていたけど、面と

向かって言われると言い訳のしようがない。

 高取を生半可な覚悟で岡本の人生を狂わ

せたと責めるなら、そういう岡本の心理を

解った上で利用したオレだって褒められた

ことはしていない。

 岡本を間に挟んでやりとりしなくても島

崎ともっと違う関係になれるなら、きっと

こんなにも高取と岡本の事情に首を突っ込

んだりしないだろう。

 自己満足の為に偽善を持ち出した島崎と

己の快楽の為に偽善者面で高取につっかか

るオレと、どちらがタチが悪いのだろう。

 考えるだけ無駄…というか、考えるまで

もないかもしれない。

 高取に責任をとれと詰め寄る前に、オレ

もそろそろちゃんと向き合わなければなら

ないだろうか。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!