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短編集・読み切り



 押し黙るオレにそれ以上構うつもりはな

かったのか高取はそのまま下駄箱に向かう。

 このまま見送っていいのかと思う反面、

ここまで言っても岡本を見捨てると言う高

取に何を言えば説得できるのかも分からな

い。

 ヴー、ヴー、ヴー…


 左手に握ったままだった携帯機器が突然

震える。

 メールの送り主は…九条。


【ヒデと連絡とれないんだけど

 もう突入しちゃったのか?】


 これだ。

 その文面を読んだ瞬間、ほぼ同時に閃い

た。


「…ヒデ達、もう突っ込んだって。

 ヒデ達まで見捨てて帰んの?」

「知らね。

 イケると思ったから喧嘩ふっかけたんだ

 ろ。

 そう判断したんなら、テメーらで片付け

 りゃいい」


 今にも上履きを脱ごうとしていた高取の

動きが一瞬だけ止まる。

 肩越しに面倒くさそうな声が返ってきた

けど、この一瞬を逃したらもう絶対に高取

を捕えることなんてできない気がして畳み

掛けた。


「ヒデ達は威勢がいいだけだろ。

 腕っぷしは弱いよ。

 九条ももう向かってるみたいだけど、こ

 れでもし負けたら色々面倒なんじゃな

 い?」


 ヒデ達がもう突入しているかどうかなん

て解りはしない。

 威勢はいいくせにビビりだから、実はま

だ二の足を踏んでいるかもしれない。

 それでも…それでも、これだけ周りの人

間に好き勝手振り回されて、飽きたからっ

てこんな手酷く捨てられるなんていくら岡

本でも憐れだろう。

 これで帳消しになるとは思わないけど、

今高取を岡本の所へ送ることはせめてもの

罪滅ぼしにならないだろうか。

 もしヒデ達がまだ教室の前でヘタレこん

でいたら…一発くらい高取に殴られてもい

い。


「面倒くせーな…」


 ヒデ達が負けた時の不利益を短い間に考

え巡らせたらしい。

 言葉通りの態度で頭を掻くのは、あとも

うひと押し何か必要だからだろうか。


「岡本に突っ込んでるのが誰かは知らない

 けど、ヒデ達が負けたら幅を利かせるの

 は間違いなよね。

 あの場所ももう使えなくなるかもしれな

 い」


 高取の舌打ちを追いかけるように下駄箱

の扉を叩きつけるように閉める音が響く。

 大きな音に反射的に肩が震えたけど、そ

のオレの横を大股で高取がすり抜けていく。

 間に合ってくれと祈りながら早足で高取

の背中を追いかけた。




「お前らも使えねーな。

 弱っちいなら手ぇ出すなよ。

 めんどくせー」


 階段の途中で九条と合流しいつもの場所

に駆け付けた時、いつものたまり場では既

に先に突入した者達とデカ男との決着がつ

いていた。

 床に伸びたままのヒデをつま先で高取が

小突くと短く呻いたようだがボコボコに殴

られて起き上がる体力はなかったようだ。

 島崎や馬鹿二人もそれぞれ床にへたり込

んでいて、すっかり意気消沈していた。





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あきゅろす。
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