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短編集・読み切り




 それから島崎との関係が何か変わったか

というと、何も変わらなかった。

 翌朝、教室で顔を合わせた時には昨日の

口論などなかったように挨拶を交わした。

 逆に言えば無かったことにすることでそ

の口論を打ち切った。

 お互いに譲るつもりがないならどれほど

言葉を重ねたところで平行線だし、島崎だ

って他のメンツに岡本を犯そうと持ちかけ

られて今更断ったりはしないだろう。

 口先だけの偽善なんて聞くだけ無駄だ。

 それで溝を深める位ならいっそ打ち切っ

てしまったほうが賢明だ。

 オレが何事もなかったように振る舞うの

で島崎も口に出しづらかったのかその話は

流れた…かに思われた。

 事は数日後の昼休みに起きた。


「ミツ、ちょっと話があるんだけど」


 昼食を終えたタイミングで島崎が声をか

けてくる。 

 雑誌を読もうとしていた矢先の言葉で不

満がなかったわけではなかったけれど、島

崎が珍しく思いつめた表情をしているから

仕方なく島崎についていってやることにし

た。

 いつもたまり場にしている教室には既に

先客がいて、バカ二人が目隠しした岡本を

組み敷いて背中でまとめた腕をロープで縛

り上げたところだった。


「……話って、コレ?」


 オレより頭一つ分無駄にデカい島崎を見

上げながら睨むが、島崎もこんなことにな

っているとは思わなかったのか慌ててバカ

二人に駆け寄る。


「ちょ、ちょっと。

 これはいくらなんでもやりすぎだってっ」

「仕方ないだろぉ?

 岡本が暴れるんだからよ」


 言われてみれば組み敷かれている岡本の

鼻息が荒い。

 バカ二人に無理矢理連れ込まれて抵抗し

たものの縛り上げられたんだろう。

 今はその直後であろうと予想できた。


「で?

 オレに話したいことって何?」


 高取の落書きがある限り岡本は逆らわな

い。

 それなのにこれだけ暴れたということは

何かよからぬことを吹き込んだに違いなか

った。

 岡本が泣いて叫んだあの時の再現でもす

るつもりかと3人を睨むが、島崎が真っ先

に首を横に振って否定する。


「ち、違うんだって!こ、これはっ」

「何が違うの。

 これから突っ込むのに、何が違うって?」


 図星を突かれたのか島崎が押し黙る。

 やはりこのまま犯すつもりだったよう

だ。

 胸糞悪くなるような偽善を並べていたく

せに結局ヤルことは変わらないらしい。

 やはり偽善を振りかざす奴は見ていて気

持ち悪い。

 同じ空気を吸っていたくないくらい大嫌

いだ。


「イヤだって泣いて叫ぶ岡本をまたみんな

 でマワそうって?

 それで何が変わるんだよ。

 高取にあんなこと言われて岡本が可哀相

 とか言ってたくせにやっぱ口だけか。

 オレはこんなに暴れて嫌がってるのを縛

 り上げて、そんな偽善振りかざしてる島

 崎に突っ込まれなきゃいけない岡本の方

 がよっぽど可哀相だけど?」


 島崎のシャツを鷲掴みにすると身長差な

んて考えずに引き寄せる。

 気まずそうにしている島崎は押し黙った

まま至近距離なのにこちらを見ようともし

ない。

 それが全てだった。





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あきゅろす。
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