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短編集・読み切り



「……」


 ズルズルと当時の事を思い出してしまい、

高取は苦い表情で瞼を閉じる。

 あの時から、もう高取は全てがどうでも

良くなったのだ。

 両親に本格的に使う前に試し書きをしよ

うともっともらしい理由をつけてターゲッ

トを探した。

 たまたま目が合ったのが同じクラスの岡

本だ。

 思えばいつの頃からか岡本がじっと此方

を見つめてきていることが度々あり、それ

を煩わしく思っていた。

 まともに言葉すら交わしたこともない岡

本が何も言わずにじっと此方を見つめてく

る行為は高取の神経を逆撫でしていた。

 それでも最初は完全に岡本をシカトして

いれば岡本が積極的に関わってこようとは

しなかったので実害はなく、腹は立っても

睨み返す程度で我慢出来ていた。

 しかしカラオケでの一件以降、高取の中

でずっと蓄積していた苛立ちが形を露わに

し始めた。

 それは探しても探しても犯人が見つから

ないという苛立ちが岡本に対する八つ当た

りに姿を変えた部分もあったかもしれない。

 けれどそれ以上に、非行や悪戯といった

ものとはいかにも無縁そうな岡本から向け

られる視線がどうしようもなく高取を不快

にした。

 それは高取の罪を漠然と見透かすようで

もあり、事情をよく知りもしない者から向

けられる中途半端な同情のようにも思えた

からかもしれない。 

 理由はそれで十分だった。

 高取は当時からよくつるんでいたメンバ

ーと岡本を深夜の学校に呼び出していた。

 岡本だけは他の皆が集まる時間より前に

呼び出し、遊びと称して目隠しをし手足を

縛って黒いペンで体中に落書きをしまくっ

た。

 そうして体育倉庫に転がしておき、何食

わぬ顔で集合場所へ向かった高取はメンバ

ーが揃ったところで全員を体育倉庫へと連

れて行ったのだ。

 …自分のやっていることがあのハゲオヤ

ジと同列の類だと自覚したのはいつだった

か。

 しかし今更取り繕ってみたところで偽善

にしか思えず、それならばいっそ悪人でい

たほうが高取にとっては楽だった。

 覆水盆に返らず。

 零れ落ちた黒い染みが一生消えないのな

らば、いっそのこと隅々まで黒く染まって

しまえ、と。

 魔法のペンで書かれた文字の威力は凄ま

じかった。

 男になんて見向きもしなかった島崎、尾

山、野坂が狂ったように岡本の尻に何度も

勃起したペニスを突き立てた。

 いつも涼しい顔をしている九条、明るい

が小心者のヒデ、潔癖症気味の吉光までも

が金切り声を上げて泣き叫ぶ岡本をねじ伏

せた。

 一晩かけて何度精液が岡本の体を汚した

か。

 数えることすら馬鹿馬鹿しくなって途中

でやめてしまった。

 それでも岡本の体の落書きは一つとして

消えなかったし、全員が精力を使い果たす

まで効力を保ち続けた。

 5人を先に返して精液まみれの姿で失神

している岡本と二人きりになってからよう

やく高取が動いた。

 静まり返った体育倉庫で自らの手で扱い

て果て、その精液がかかった途端に岡本の

体に染みついていた黒インクが肌に吸い込

まれるようにして消えるのを見届けた。

 これでいいんだ、と岡本を見下ろしなが

ら高取は胸の中で呟く。

 これでもう煩わしい視線を向けられるこ

とはなくなるんだから、と。

 高取にとって誤算だったのは、岡本がい

つの間にかまた同じように自分を目で追う

ようになりその頻度が増えていったことだ。

 皆で寄ってたかって凌辱した夜以来、ず

っと怯えられ露骨に避けられていたはずだ。

 それなのに授業中や放課後に誰かの視線

に見られていることに気づいて顔を上げる

と決まって岡本と目が合った。

 高校入学してすぐに上級生から目つきが

悪いと絡まれ、拳で黙らせたことが噂とし

て広まっていた事や日頃の素行の悪さから、

高取と付き合いのあるのはそれを気にしな

い奴らに限られていた。

 それでもじっと見つめられる事などほぼ

なく、だから何かしている最中に誰かの視

線を感じたとしたらそれは殆ど間違いなく

岡本だったのだ。

 いい加減にしろ、もう懲りただろう。

 そう何度か睨みつけてもみたが、やはり

気づくと見つめられている。

 その視線に悪意がない分、高取には余計

に気味が悪かった。

 ある日、うんざりして岡本を放課後に呼

び止めた。

 どうして俺を見るんだ、いい加減にしろ

と吐き捨てた。

 目の前に迫られ睨みつけられると岡本は

縮こまり、その怯えた表情を見て高取の中

のどす黒い感情が溢れ出した。

 分からないなら分かるまで分からせてや

ればいい、と。

 そんな関係が今もなお続いている。

 昼は学校で、夜は公園やホテルで、時に

は名前すら知らない奴らに散々玩具にされ

高取が精液まみれの岡本を放置してさっさ

と帰っても岡本の視線は此方に向いてくる。

 時々、それを許してもらいたいが為に高

取の言う事を聞いて周囲の奴らの慰み者に

なっているのではないかと思う事すらある。

 高取にとって岡本は自分の知る中で最も

思考回路が理解できない人間だった。


「ん……」


 横になって目を閉じているとうっすらと

眠気はやってくるもので、そのまま眠って

しまおうかと思ったが寝入るにはやや足り

ない。

 高取は何も考えることなくスウェットの

ズボンに手を突っ込んだ。

 こういう時は一発抜いて眠ってしまうの

が一番手っ取り早いからだ。

 下着の中からペニスを取り出して無心で

扱く。

 特に何かを思い浮かべようとしたわけで

はなかったのだが、気づくと今日の放課後

のことを思い出していた。





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あきゅろす。
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