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短編集・読み切り



 ただの勘違いですませるには野坂の持っ

てる情報が多すぎる。

 年上の女が実在するなら、3年か大学生

だろうか。

 島崎の兄貴は今大学に通っているから、

そういう接点がまったくないわけじゃない

だろう。

 オレ自身が夏休み明けは11月の文化祭

の実行委員で放課後は時間をとられている

からここ2カ月ほど島崎が誰と会って何を

してるかなんて知りようもない。

 その間に島崎がその女に知り合って仲良

くなっていたとしても…まぁ、不思議では

ない。

 …その女がヤラせてくれないから、手近

なところで欲求不満を解消しようとしたの

だろうか。

 オレを体よく練習台にしようとした、と

か。

 …いやいやいや、島崎はアホだけどそう

いう失礼なことはしない…はず。

 口を開けばチ●コ優先な脳内がダダ漏

れだったりもするけど。

 まさか、そんな…。


「それで、なんて答えたの?」

「ん?」

「島崎の質問の答え」

「あー。

 優しい言葉で口説きながら脱がしちまえ

 って。

 まーそれは上級テクだから、無理なら酒

 で酔わせちまえって」


 野坂の返答を聞いて、ボーリング場の喧

騒が耳元に戻ってきた。

 アホらし…。

 言葉巧みに優しく口説いている島崎はど

う頑張っても想像できなかったし、まして

アルコールなんて高校生では家から持ち出

すのがせいぜいだろう。

 缶ビールで酔わせて寝込みを襲う?

 運よく相手が缶ビールで酔っぱらえば可

能かもしれないけれど、どうもぴんとこな

い。


「それってお前らのナンパテクの間違いじ

 ゃないの?」

「いや、当然だろ。

 俺の恋愛テクは実績ありだからミツも参

 考にしていいぜ!」


 自信満々に笑いながら肩を叩かれて、俺

は笑い声に溜息を混ぜた。

 お前らのナンパテクにひっかかるのは致

命的に頭の悪い女か最初からそれ目的の女

だけだろーよ、と心の中で返事をしておく。

 何はともあれ、コイツのアドバイスで島

崎が年上の女をどうこうできる可能性は極

めて低いだろう。

 それだけは分かってちょっと安心した。


「あとセックスも練習できれば完璧なんだ

 けどなー。

 本命に行く前に童貞捨てて経験積めれば

 年上の女を落せる確率も上がるだろうに」


 笑い声を発する唇の端が反射的にピクッ

と震えた。

 しかしそれを悟られないように笑顔だけ

は崩さないままこっそりと探りを入れてみ

る。


「それ、島崎にアドバイスしてやったの?」

「あ?うん。

 童貞と処女は事故率高いからなー、どう

 しても。

 手頃なところでさっさと童貞卒業してか

 ら本命に手を出す方が余裕できるだろ。

 まーでも、そんな簡単にヤラせてくれる

 女がいるなら、俺らにも紹介しろって話

 だけどな!」


 野坂は左側の隣に座っている尾山にも肩

を叩いて笑いながら同意を求める。

 失点続きの島崎のせいでずっとイライラ

している尾山の怒りを少しでも軽減させた

かったのかもしれない。

 尾山も野坂につられるように笑って場の

雰囲気から少しだけ棘が抜け落ちる。

 けれどオレの内心はそんなことはどうで

も良くなっていた。

 野坂がそこまで詳しくアドバイスするな

ら、おそらく島崎はとても真剣な相談とし

て持ち込んだのだろう。

 野崎はバカだけど、友達思いなバカだ。

 ヤリたいけどヤラせてもらえないと悩む

島崎に良かれと思ってナンパテクをアドバ

イスしてやった可能性が高い。

 そして手近な練習台は野坂が思うよりよ

ほど近くに存在したのだ、きっと。

 バカ笑いする野坂の肩をポンポンと叩い

て短く耳打ちする。


「…えっ?マジ?」

「喝だよ、喝。

 ヘタレの脳天に届くようなのお見舞いし

 てやれって」


 囁いたことを本気かと瞬きしながら確認

してきた野坂にニッコリと微笑んでやる。

 そして肩を叩いて促す。

 オレがやったら周囲が何事かと驚くよう

なことも、常日頃から尾山と一緒にバカを

繰り返している野坂がやるなら誰も驚かな

い。

 そして野坂と尾山はオレのいう事はよっ

ぽどのことでなければあまり断らない。

 それというのも両親が不在であることが

多いオレの家庭事情を二人とも外泊の時の

言い訳の時に利用しているからだ。

 驚いた顔をしていた野坂だったが、すぐ

に“そーか。そうだよな。島崎が失敗しな

いように喝いれてやらないとな”悪ノリし

た顔で立ち上がる。

 野坂がノリのいいバカで良かった。


「カンチョ―!!」

「ゥギャアッ!!」


 スペアを決めた島崎の背後に忍び寄った

野坂はスッとその場にしゃがむと両手で拳

銃の形を作って掛け声と共に島崎のケツめ

がけて突き刺した。

 完全に油断していたらしい島崎は打って

響くようなタイミングで叫びながら体を跳

ねさせ、自分の尻を両手で押さえて庇いな

がらその場にうずくまった。

 どうやら思ったより深くキマったようで、

言葉が出ないらしく、その場で必死に耐え

ているようだ。


「またつまらぬものを撃ってしまった…」

「野坂、ヒドイ…!」


 ピストルの形に組んだままの手の指先に

ふっと息を吹きかけるそぶりをしながらカ

ッコつける野坂を蹲ったままの島崎が涙目

で訴える。


「いいぞー、野坂!もっとやれ!」


 しかしベンチにいる味方のはずの尾山が

両手を叩いて煽る。

 今までの散々なプレイでよほどストレス

を溜めていたらしい。

 その隣で俺もちょっとだけスッとした。

 事の真偽は後で問い質すとしても、こ

のくらいなら野坂のおふざけでみんな納

得する。

 ガコッとボールを吐き出す機械のレー

ンから自分が使っているボールを取り上

げる。

 床に座り込む島崎とまだ悪ノリして言

い合っている野崎に歩み寄る。

 次はオレの番なんだから仕方ない。


「はーい、次はオレの番だからどいて。

 いつまでもそこにいたら邪魔だよー」


 悪戯が成功した子供のような笑みを浮か

べている野坂に笑い返して、シューズのつ

ま先で座り込んだままの島崎の太ももを横

からつつく。


「マジでケツ痛いんだけど…」


 まだ不満げにブツブツ言ってる島崎は自

分のケツを庇うようにしながらゆっくりと

立ち上がる。

 他人のケツ穴に指よりよっぽど太い物を

突っ込もうと目論んでいる奴の言い分だと

思ったら鼻で笑いたくなった。

 やってやったぜ!っとベンチの尾山に駆

け寄っていく野坂の背中を見送りつつよろよ

ろと歩き出す島崎にしか聞こえない音量で喋

りかける。


「…そろそろ本気出さないと、女装させてボ

 トル突っ込むよ?」


 島崎は何か言いたそうだったけど、その肩

をベンチに方へ押しやると渋々という感じで

自分の席に戻っていった。



 

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あきゅろす。
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