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短編集・読み切り



 バカ騒ぎしている間にゲームは終了した。

 それと同時に勝負の結果も出た。


「ギャーッ!!」

「何が“ギャー”だ!

 俺の神プレイで命拾いしたんだろうが!」


 悲鳴を上げてテーブルに突っ伏す島崎の

こめかみに拳の折り曲げた関節をグリグリ

と押し付けながら尾山が島崎を詰っている。

 九条のチームはガター連発のヒデを抱え

て高得点はあまり多くなく、逆に島崎のプ

レイに苛立った尾山が本気を出したらしく

チーム戦では島崎と尾山のチームが1位を

とった。

 が、島崎の個人スコアは言わずもがな野

坂に及ぶはずがなく、島崎は真っ青になっ

て絶望している。

 本番に弱いのは知っていたけど、まさか

ここまでとは思わなかった。

 ゲーム中盤の野坂のカンチョ―がなくて

も結果は変わらなかったんじゃないだろう

か。


「じゃあ悪いけど、俺はこれで」

「あ、うん。

 今日は付き合ってくれてありがとう、九

 条」


 ゲーム終了するとゆっくりする暇もなく

九条は席を立つ。

 5人兄弟の長男である九条は夕方になる

と帰宅する。

 習い事である道場通いの他に家事が当番

制らしく、一緒につるむ仲ではあるが九条

は夜遊びとは無縁だ。

 九条が席を立つとそろそろ解散してそれ

ぞれ帰宅するか、このまま街をブラつくか

という話になる…はずだった。いつも通り

ならば。


「野坂っ!泣きの一回、お願いします!!」


 九条を見送って振り返ったら島崎が土下

座していた。

 テレビでお笑い芸人がしているくらいや

っすい土下座だった。


「おい、島崎」

「うん、そろそろ時間だからー」


 “そんなことしても勝負はついただろ”

と言いたかったオレの声にヒデの声がかか

ってきた。


「土下座とか、悔しがりすぎだろー。

 そりゃ点数酷かったけどよー」


 尾山が間延びした声で島崎の傍らにしゃ

がみ込んで頭にポンと掌を置く。

 同じチームとしてゲーム中はイライラし

ていたかもしれないがゲームが終われば引

きずらない。

 尾山はそういうさっぱりしたところのあ

る奴だった。

 しかしそれでも土下座を崩さない島崎に

野坂は困った顔で後頭部を掻きながらこち

らに視線を向けてくる。


「あー、まぁ、カンチョ―もキマりすぎた

 かもしれないし」


 そんな野坂の視線に気づいてヒデが時間

を確認する。


「えっと…そうだな、あと3回ずつなら投

 げられるかも。

 その代わり、さっさと投げないと時間オ

 ーバーで追加料金確定だけど」


 利用料金割引だから遊びに来たのに追加

料金なんてとんでもないと思う。


「よーし、さっさと投げるか!

 島崎、立て立てっ!」


 野坂がバシバシと島崎の背中を叩きつつ、

さっと自分のボールを手に取ってレーンに

向かう。

 ほっとした顔を上げた島崎の肩を尾山は

抱くようにしてに立ち上がらせる。

 こんな状況でも嫌だと言わないのが野坂

であり尾山でありヒデなのだ。

 きっと本当に延長料金をとられても文句

言わないだろう。

 そういう奴らだ。

 そういう奴らだからバカだ何だと言いな

がらもつるみ続けてるんだけど。


「じゃ、俺はこれで」


 ベンチの下に転がしておいた薄くて軽い

鞄を掴んで廊下へ向かおうとしたオレの腕

を力強い腕が引き戻した。


「ミツ」

「何?勝負はついたじゃん」


 島崎は必死なのか、掴まれている腕が痛

い。

 振り払いたいけど、それが出来る力加減

でないのは痛みを感じる腕がよく分かって

いた。


「おーい、時間ねーって」

「そうそう。

 たった6回なんだから、揉めるより黙っ

 て見てた方が早いって」


 オレと島崎の間に流れる微妙な空気を察

したらしい野坂と尾山が正論をつきつけて

くる。

 こういう時ばかりはバカ二人の言い分の

方が正しいので、オレも意地は張れない。


「…さっさと投げれば?

 延長料金なんてゴメンだからね、オレ」


 そっぽ向きながらため息をついて言い捨

てる。

 オレが帰らないと理解した島崎の動きは

早かった。

 素早くボールに飛びつくと、レーンの前

に勢いよく飛び出す。

 しかしボールを構えると周囲の喧騒など

切り離したようにスッと空気が静まる。

 そして一瞬の静けさの直後に流れるよう

なフォームでボールをレーンへと転がした。


 ――…ガコガコガコーン!


「おっ、ストライク。

 島崎の奴、今頃調子出てきたのかー?

 おせーよ、ったく」

「ははっ。

 カンチョ―の効果が今頃発揮されたのか

 も!」


 舌打ちする尾山の隣で野坂が冗談を言っ

て笑いながら自分のボールを取り上げ、島

崎と入れ替わりでレーンへと出て行く。

 野坂の2投目はピンを2本残したけれど、

続けて3投目ではなくスキップして島崎が

二投目へ向かう。

 お互い3投ずつ投げて30本のうち何本

倒せたかで勝敗を競うルールだからだ。

 まるで測ったような軌道で転がるボール

が全てのピンを押し倒したのはその直後だ

った。


「あれ、連続でストライクだ」

「おいおい。マジかよ。

 本当に今頃エンジンかかったとか言うん

 じゃ…」

「いやぁ、次で俺がストライク決めて島崎

 がガターで終了だろ」


 野坂はまだ余裕だと笑っているけど、そ

の心の動揺が3投目のボールの軌道に出た。


「マジかーっ!!」


 思いがけない方向へカーブしたボールは

半分ほどのピンを残して奥へと吸い込まれ

た。
 

「島崎、勝てるよ!

 頑張れっ!!」


 ボールの穴に指を入れる島崎の背中にヒ

デが声援を送る。

 それに応える為に振り返った島崎の表情

は硬い。

 たとえこれで半分ピンを残しても野坂に

は勝てる。

 勝てるけれど、もう既についた勝負の結

果が変わることはない。

 …まぁ、ここでストライクでも叩きだし

たらちょっとくらい気が変わるかもしれな

いけど。





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あきゅろす。
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