[携帯モード] [URL送信]

短編集・読み切り



「うッ、んんんっ…!」


 酸欠と全身を駆け抜けてもなお足りない

快楽に軽い目眩を感じながら、全てを攫っ

て穿ってくるペニスに全神経を集中させて

絶頂を駆け上がった。

 頭が一瞬真っ白になって、いつの間にか

射精感もないままペニスが精液を床に撒き

散らしていた。

 噛んだ指にはくっきりと歯形が残り、半

開きだった唇の端から唾液が糸を引く。

 ペニスの熱が体の奥で弾けると、芹澤は

一息ついて私の体内からそれを抜き取った。

 支えを失った腰は立て続けの射精にもう

自立することも出来ずそのまま床に崩れ落

ちる。

 全身で快楽の余韻を味わいながら、ふと

初めて芹澤にレイプされた夜も似たように

立てなかったことを思い出した。

 ただ快楽の度合いは比べるまでもなかっ

たが。


「はぁ、はぁ…」


 冷たい床でぐったりしたまま荒い呼吸を

整えながら掛け時計を見上げる。

 患者一人にかけられる時間というものに

は当然ながら上限があり、それを超えて何

のアクションもないままだと心配した看護

師が様子を見に来ることになっている。

 現状、それだけは絶対に避けなければい

けないかった。

 時計の針はそろそろ芹澤に充てられた時

間の終わりに近づいてきていて、鞭打って

でも体を起こして片づけをし何事もなく芹

澤の診療を終わらなければならない。

 脳内は目まぐるしい快楽の余韻に未だ浸

りきっていたが、ノロノロと体を起こして

再び汚してしまった床に飛び散ったものを

ティッシュで拭い取る。

 気持ちばかり焦って手が思うように早く

は動かない。

 そうこうしている内に一人悠々と身繕い

を終えてカメラの映像をチェックしていた

芹澤が歩み寄ってくる気配がした。


「センセ、ケツ上げて」

「もう、時間だ。これ以上は無理」


 体も怠いし、何より時間がないと訴える

私を楽しげに見下ろした芹澤は、ノロノロ

としか動けない私の腰を掴んで引き寄せる。

 今度は何をするつもりだと訝しんで振り

返った私には見えない角度から、蕾に何か

を押し当ててそのまま指先で押し込んでく

る。


「お、おいっ?」

「俺のチンコ抜かれて寂しいだろうと思っ

 てさ。

 でもあんまり締めたら中身零れるかもし

 れないから気をつけてね、センセ?

 最近のコンドームは薄いし、先生のケツ

 穴って俺のチンコ食いちぎりそうだった

 からさ」


 憎らしいほど楽しげな顔でそう言う芹澤

が今私の体内に何を押し込んだのか、それ

で察した。


「なっ、何故そんなこと…!?」

「この診察室のごみ箱に使用済みコンドー

 ム捨てってもいいけど、それじゃセンセ

 嫌かなーって配慮?」


 言っていて自分でもおかしくなったのか、

芹澤は小刻みに肩を揺らして笑う。

 冗談じゃないと言い返そうとした私の蕾

に丸みを帯びた何かが後に続いて押し込ま

れた。


「んっ…」


 それは見なくても何か分かる。

 半日ずっと体内に咥えこんでいたロータ

ーだ。


「ちゃんと栓したから、これで夜まで大丈

 夫。

 今夜オナる時まで楽しんでていいよ」


 ふざけている。

 でも引きかけていた顔の熱がぶり返した

のは怒りのせいだけではない。

 何より、ここまできて芹澤を怒らせるの

は得策ではないと頭の隅で警報が鳴った。


「こんなことをしたって、もう出ない…」


 黙っていれば良かったのかもしれないが、

とても平静ではなかった。

 だが怒らせたらいけないと選択肢を消し

ていったら、出てきたのはそんな言葉だっ

た。


「しゃせーしなくてもセンセはイけるじゃ

 ん?」


 バカにしきった返事が返ってきた。

 言い返せなくて下唇を噛む。

 が、同時にチャンスだとも思った。

 落ち込んだフリをして俯いたまま立ち上が

り服の乱れを直しつつ心の中で深呼吸する。

 芹澤を怒らせず、暴れさせもせず、ここか

ら帰さなければならない。

 その手に他病院への紹介状を握らせて。


「そう…だな。

 君にこんなことをされて、こんな風にな

 ってしまう私は本当にどうしようもない。

 君の担当医として失格だ」


 独白のようで、しかししっかりと芹澤の

耳に届くように言葉を重ねる。

 あくまで芹澤本人に非はないという姿勢

を貫く。

 ただ私の力不足で、申し訳ないが転院し

てほしい―それを伝えて紹介状を手渡せれ

ば全て終わる。


「…何が言いたい?」


 こちらの様子を伺うような芹澤の声音が

いつもより低くなったような気がする。

 苛立ちを内包した、少しでも余計な刺激

を与えるとすぐにでも暴走し始めてしまい

そうな危険な空気が肌を刺す。

 芹澤はたった一言でも刺激してしまうと

キレて暴走し、暴力でもレイプでも構わず

実行してしまう。

 それは恐らく他の誰よりも私自身が身を

もって知っている。

 けれどこれを乗り越えなければ、芹澤か

らの解放は当分先になるだろう。

 それまでにどんな経過を辿るのか、それ

は恐ろしくて考えたくもなかった。

 引き出しの中から準備していた紹介状を

入れた封筒を取り出す。

 それを芹澤に差しながら目線を上げると、

声よりよほど冷たくて鋭い視線が私を不機

嫌そうに睨んでいた。

 私をレイプした夜も同じような目をして

いた、と背筋が一瞬で粟立つ。


「私よりずっと腕のいい先生がいる病院に

 転院したほうが君の為になる。

 ここより大きい病院だし、私とは違って

 精神科医を何十年も続けていらっしゃる

 有名な先生に君のこれからを託すことに

 した」


 震えそうになる声を、最後だからと無理

やり引き締める。

 今ここで最後にしなければ、お互いの将

来為に危うい影を落とす。

 少なくとも芹澤は来年が大学受験の年だ。

 今転院すれば受験までに精神的に安定す

る可能性もある。

 このままここで私が担当し続けても、そ

んな可能性は露ほどもないだろうが。

 私は芹澤にとって悪影響しか与えない。

 その逆もまた。

 これ以上芹澤に溺れる前に引き離さなけ

れば危険だと理性が警鐘を鳴らす。





[*前][次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!