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短編集・読み切り



 歪んだ快楽に気づいて愕然と動けない私

の体内から未だ振動しているローターがず

るり、と引っ張り出された。

 乱暴に奥を突かれている時とは違う排泄

感に似た感覚に息を呑む。

 快感の余韻に浸る縁を内側から拡げられ

て、それを逃すまいとする縁が小さな玩具

を締め付けてよりその形を鮮明に感じなが

ら縁が捲れるのも構わずに引き抜かれる。

 それは妙な恥ずかしさを巻き起こすと同

時に、この時間の終わりを告げているよう

だった。

 安堵した。

 そして安堵できたことに安心もした。

 もうこれ以上自分の醜い性癖に気づかな

くていい、今は直視しなくていいと言われ

たような気がした。


「センセ、口開けて」


 動けずにいた私の背後から声が降ってく

る。

 今度はどんな残酷な遊びを思いついたの

かと怯え緊張しながら振り返る。

 そして、私は目を見開いた。

 彼の左手には今抜き取ったばかりのロー

ター、そして…。


「撮られるの好きでしょ?

 またコピーデータあげるから楽しみにし

 ててよ」


 その右手にはあの夜に見た手のひらサイ

ズのカメラ。

 非情なレンズの向こうの楽し気な芹澤の

目が見えるようだった。

 これ以上脅される材料が増えてはたまら

ないと止めさせる言葉を言いかけた口に、

芹澤は振動を続けるローターを突っ込んで

きた。

 生理的な嫌悪感からすぐに吐き出したが

硬い床の上で振動するその音は存外大きく

響き、慌ててリモコンを拾おうと床に膝を

つく。

 拾い上げたリモコンの目盛りは5段階の

3になっており、指が滑ったせいで最も弱

い振動に出来なかったことが知れた。

 そして同時に最も強い振動で震えるこの

玩具をあの場所に押し付けられたらどうな

るんだろうというところまで考えて、慌て

て首を振る。

 今はそんなことは考えるな。

 早く汚した場所を拭き取って窓を開けて

換気をしなければ、誰かにここであったこ

とを勘付かれてしまう。

 引き出しの中からポケットティッシュを

取り出して汚れを拭い、その丸めたティッ

シュペーパーをいつかサンドイッチを買っ

た時にもらった小さなビニール袋に入れて

口を縛る。

 そして証拠を隠滅することに夢中になっ

ている間、芹澤の存在を気にしなかった。

 彼がそこにいることを忘れていたわけで

はない。

 芹澤が思いつきで私を玩具にすることは

いつものことだったが、それが終わると興

味を失ってどんな状況でも放置して帰るよ

うなこともいつものことだからだ。

 芹澤の今日の遊びは、ここで私を辱めら

れれば十分なのだ。

 少なくとも私はそう思っていた、彼に再

び声をかけられるまでは。


「まーだ片づけは早いって。

 まぁ二回になろうと三回になろうと、片

 づけるのはセンセだからいいけどさ」


 何だって…?

 恐る恐る振り返ると、すっかり準備万端

になっている芹澤の股間に視線を吸い寄せ

られた。

 薄いゴムに包まれた雄々しい隆起にゴク

リと喉が鳴り、そうじゃないと欲にまみれ

た思考を切り捨てる。

 あれで終わりではなかったのか、と軽い

絶望感が頭にのしかかる。

 ローターを仕込んでくるだけでは足りな

かったらしい。

 芹澤はここで私を犯したいのだ。

 私の職場であり、大勢の他人がすぐ傍に

いる場所で。

 医師としての顔を投げ出して、欲にまみ

れた本性を曝せと。


「ほら、ケツ穴こっちに向けなよ」

「ぃっ、ゃだっ…」


 芹澤に腰を掴まれて現実味を増した恐怖

から逃げ出したくて震えるか細い悲鳴を喉

から絞り出すが、膝に力が入らない。

 逃れようとした両腕だけが空しく床を撫

で、そんな私の腰を強引に掴み上げながら

芹澤は鼻で笑った。


「常識人ぶって嫌がるフリすんの好きだね、

 相変わらず。

 でもそんな物欲しそうな顔で逃げる真似

 してもバレバレだけど?」


 反論しようとした私の蕾に芹澤のペニス

が押し当てられ、慌てて口を引き結ぶ。

 こちらの意思など無視で芹澤は構わず貫

いてくる。

 その時口が開いていればみっともない嬌

声が飛び出すもの容易に想像できる。

 背後でフッと笑う気配の一瞬後には、ぐ

っと押し入ってきた芹澤の雄に背中をのけ

ぞらせていた。

 容赦ない圧迫感で体内に押し入り、いっ

ぱいまで満たし、そして更なる欲を引きず

り出そうとする。

 ぐちゅぐちゅと音を響かせながら芹澤の

ペニスが何度も奥を突き、しこりを抉る。

 声を押し殺しても熱い吐息は鼻腔を灼き、

10日ぶりの荒々しい突き上げに縁は歓喜

して芹澤の雄に絡みつく。

 そして触れていないのに体の奥を抉られ

る度に私の性器も再び熱を帯びていき、芹

澤に奥を突かれ腰が揺れるとぱたぱたと透

明な汁を床に零した。

 光で満たされる診察室に決して外には出

せない熱気が渦巻く。

 こんな場所で何をやっている。

 いつ、誰が扉を開けるかも分からない場

所で。

 年下の芹澤に体の奥まで蹂躙されて、し

かも体は快楽を貪っている。

 目眩がする現実。

 悪夢ならば一刻も早く醒めてくれと願う

ことすら、繰り返し突き入れてくる芹澤の

ペニスが許さない。

 何度もこれは現実だとヒリつく心を踏み

つけてくる。

 目をそらせない現実や心の底のやましい

性癖を突き付けて、体も心も平伏しなけれ

ば許してはくれない。


「ハハッ、ケツ穴スゲー締まる。

 チンコ抜こうとすると捲れてすごいこと

 になってるけど、ちゃんと撮れてるから

 またDVDで観ればいい」


 芹澤がわざとゆっくり腰を動かすと締ま

る縁が捲られてゾクゾクとした快楽が背筋

を走る。

 荒々しく奥を突かれるのも好きだが、焦

れったいほどにゆっくりと抜かれながら縁

で芹澤のペニスを味わうのも、今度はどの

タイミングで突かれるのか待ちわびるのも

堪らない。

 どれほど目を反らしたくても、それが本

音だった。





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あきゅろす。
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