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短編集・読み切り



 初めての快楽で惚けている私の背後で芹

澤はジーンズのポケットから取り出したコ

ンドームの袋の封を切る。

 数回扱いただけで芹澤の若々しい雄は首

をもたげ、薄いコンドームの皮を被りロー

ションが垂らされるのを見て知らず喉が鳴

る。

 自分勝手で乱暴で自らの欲望に忠実な私

を狂わせるペニス。

 こちらが望む望むまいとに関わらず、猛

れば失神するまで突き上げることを止めず、

気が削がれればイマラチオや口にも出来な

いような卑猥な言葉で懇願することも平気

で強いる。

 それでも欲しいと思ってしまう。

 理性を割き破って全てを暴こうとする暴

君をどうしようもなく求めてしまう。

 惚けてぐったりしている間に芹澤の猛っ

た肉棒に蕾を割かれながら押し入られて人

形のように体が震える。

 背中越しに覆いかぶさってくる体温と耳

元にかかる吐息で今自分の体に押し入った

ものが何かを察して悲鳴のような震える声

で喚く私を芹澤が鼻で笑う。


【でもさ、今ちょっとだけクソ叔父の気分

 も解っちゃったかも。

 嫁や世間体を気にして逃げ出したヘタレ

 糞野郎だけどさ、こうやってセンセを組

 み敷いて突っ込んで気持ちいいと思っち

 ゃう俺も大概だよなぁ】


 芹澤の言葉は自分の置かれた状況を受け

入れられずパニックを起こしていた私の思

考には届かなかった。

 耳には聞こえていたが、冷静な判断など

この時の私に出来るはずもない。

 “犯されている”その事実を突き付けて

くるだけの言葉だと思っていた。

 そのようにしか聞こえなかったし、それ

を思い知らせる為に言ったんだろうとしか

記憶には残らなかった。

 けれどこうして録画で聞いてみると、彼

のそれはレイプしている私に向けられた言

葉ではないと分かる。

 彼のそれは内側に向けられた棘で、芹澤

は自嘲していたのだ。

 どこまでも憎い叔父と同じところまで堕

ちたという自らに対する嫌悪感と他人を虐

げている高揚感と肉体的な快楽が、彼の目

の内で渦巻いている。

 だとすれば、彼は本当に叔父の毒牙にか

かった被害者ではないのだろうか。

 勿論、自らの心の内で作り上げた妄想に

追いつめられる患者も見てきた。

 彼らにとっての妄想はその内容がどんな

に突拍子もない事柄であっても患者本人に

とっては紛れもない現実なのだということ

も頭では理解している。

 だが、芹澤はそんな患者たちとは違う気

がする。

 芹澤は共働きの実の両親に多忙を理由に

遠ざけられ、それを知っていた叔父にいい

ように利用され性欲の捌け口としてレイプ

されていたのではないか。

 だから彼はこんなに性欲を前面に出しな

がら、傷ついた目をしているのではないか。

 誰にも理解してもらえない傷口から血を

流しながら。


「…っ、あぁっ…!」


 画面の向こうではまだ録画が続いている。

 けれど体の奥で渦巻く熱が渦巻き、まだ

奥のシコリを弄っただけではイケないペニ

スが限界を訴える。

 芹澤に失神するまで体の奥突き上げられ

ている時はその方が体力の消耗が少なくて

いいのだが、今はそれがもどかしい。

 軟膏のおかげで指を出し入れさせる度に

塗れた音がたつが、芹澤に壊れそうなほど

腰を打ち付けられている時の激しさは再現

できるはずもなくペニスが無視できない自

己主張をする。

 仕方なくペニスに手を伸ばすが先走りで

滑るだけで体の奥の快楽にもペニスを直に

扱く快楽も中途半端になって物足りない。

 あぁ、芹澤が欲しい。

 あの暴虐無人なペニスで失神するまで奥

を抉って欲しい。

 …こんなことで芹澤に明日紹介状を渡せ

るのだろうか。

 頭の隅で医者としての思考が小さく呟い

たような気がした。




「…っ!」


 椅子の上で身じろぎして熱っぽい吐息を

ひっそりと逃がす。

 体の奥に異物を咥えこんだ蕾は玩具のコ

ードを時折切なく締め付けてはゆるゆると

力を抜く。

 勤務中に神聖な職場で何をしているんだ

という自己嫌悪と、こうしなければあのD

VDを故意に何処かに置き去りにされると

いう恐怖が胸の奥でせめぎ合う。

 理由なのか言い訳なのか考える余裕すら

焦れったいほどゆっくりと進む秒針や他人

がすぐ近くにいる気配に削り取られていく。

 “こんな場所で”…そう思えば思うだけ心

拍数は跳ね上がり、空調の効いた室内でじ

っとりと肌が汗ばんでいく。

 無意識に蕾でコードを締め付けてしまい、

震える吐息をそっと吐き出した。

 芹澤に早く訪れてほしい一方で、会えば

何かされそうで今日は来なければいいとも

思ってしまう。

 それでも焦れたようなスピードで秒針は

ゆっくりと円を描き、尻の奥にある異物の

存在感を誤魔化すことは出来なかった。


「鈴鳴先生、次の患者のカルテです」

「あ、あぁ…」


 斜め向かいにあるドアが軽くノックされ

た直後にドアが開き、ファイリングされた

いくつものカルテの山を腕に抱えた看護師

が机の上にカルテを置く。

 カルテは殆どがデータ化されてしまって

いるがまだ医師のサインが必要な書類に関

しては完全に電子化されていない部分もあ

るし、患者を別の患者と取り違えないよう

にという医療ミス防止も兼ねてこの病院で

は手書きのカルテもまだまだ現役だ。

 しかしカルテに手を伸ばしかけてカルテ

の患者名を確認しようとした目が先にその

名をなぞった。


 “芹澤 一也”


 無意識に喉が鳴る。

 耳の奥でドクドクと血流が早くなるのが

分かる。

 キュッと反射的に窄んだ縁がローターの

細いコードを締め付けてしまい、熱っぽい

吐息が鼻腔の奥に渦巻く。





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あきゅろす。
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