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短編集・読み切り



 しかし画面の向こうの過去は目の前で痛

い位に事実を突き付けてくる。

 目隠しをされ背中の後ろで両手を拘束さ

れながら、初めて芹澤の指で尻の穴を犯さ

れて腰を揺らめかせている自分がいる。

 その動きは決してその指先から逃れよう

とする類のもののようには見えない。

 拘束され机の角に沿うように体をくの字

に曲げていて、しかもその尻には他人の指

が突っ込まれている。

 ぱっと見て逃げ場はないように思える。

 だが、この状況でもし本気で逃れようと

したならもっと暴れるのではないか。

 顔こそ嫌がっているが抵抗は最小限で、

その指先から逃れたいような腰の振り方に

は見えない。


『そうやって腰振ってると欲しがってるよ

 うにしか見えないけど?』


 芹澤の声が耳の奥でこだまする。

 ペニスを扱かれ、尻の穴を数本の指でい

いように犯されながら画面の向こうの自分

の体はハッキリと快感を示し始めていた。

 信じたくなかった。

 目を覆ってしまいたいのに、縫い付けら

れてしまったように視線が離せない。

 初めてで、しかもレイプされているとい

うのに。

 画面の向こうの自分の表情には恐怖と嫌

悪、困惑以外の何かが浮かび始めている。

 それを認めたくないように、芹澤との会

話から何か引き出すことに集中しようとす

る私が口を開く。


【もっと、他に何かないのかっ?

 何もこんなことしなくてもっ…】

【百聞は一見にしかずって言うじゃん?

 頭の中でゴチャゴチャ考えるより体験し

 てみるのが一番解ると思うんだよね。

 解りもしないくせに解ったフリされんの

 一番嫌いだから、俺】


 レイプしているのが芹澤だと知っている

今だからこそ彼が言った言葉の意味が解る。

 きっとこれがこのレイプの発端だったの

だ。

 前任の担当医から彼のカルテを引き継ぐ

際にはなかった記述。

 芹澤は幼少期、父方の叔父に性的虐待を

受けている。

 何かの折、芹澤がカッとなって口走った

ことを忘れぬようにと書き留めていたのだ。

 それが本当に事実なのかどうかは分から

なかったが、少なくとも芹澤本人はそのよ

うなことを忌々し気に吐き捨てたのだ。

 芹澤に虚言壁はない。

 記憶の混濁とするにも、あまりに内容が

飛躍しすぎている。
 
 けれど同性の血の繋がった叔父に性的虐

待を受けていたということは容易には受け

入れられぬ発言だったのだ。

 あくまでも患者本人はそう言っているし、

それが事実だと思っているということに止

まった。

 こんな事、さすがに彼の両親に相談して

みるなんて選択肢は最初からない。

 今では体格のいい芹澤が子供の頃に叔父

に組み敷かれたなどという想像もピンとこ

なかった。

 そもそも同性相手にレイプされるなんて、

芹澤がこんなことを実行しなければ私には

一生理解できなかっただろう。

 そして私が気休めに言った言葉がきっと

彼の逆鱗に触れたのだ。

 何も解らないくせに、と。

 理解するつもりも信用するつもりもない

くせに、解ったような口を聞くなと。

 この部屋に入ってきた直後の芹澤の冷え

冷えとしていた眼差しが秘めていた怒りを、

今になって理解する。

 だから彼はレイプなんて考えついたのだ。

 表情ばかりにこやかだった私に思い知らせ

ようと思って。


 やがて不意に画面の向こうの体が跳ねた。

 今ではよく知る体の奥のあそこを芹澤の

指に探り当てられたのだろうと知れた。

 しつこい位に同じ場所を擦られて、顔の

前面に出ていた恐怖と嫌悪が熱を帯びたも

のに変わっていく。

 その様はどんな言い訳も通用しないほど

鮮やかで、窮屈そうにおさまっている股間

の熱がドクンと跳ねた。

 もう我慢できなかった。

 パジャマごと下着をずり下すとすっかり

先走りで塗れたペニスが飛び出す。

 しかしそこには目もくれず、引き出しの

中の軟膏を逸る気持ちで指に取ると手すり

に膝をひっかけて椅子の上でM字に股を開

き蕾に軟膏を塗りたくる。

 週末になるとそこそこの頻度で彼に呼び

出され、彼が満足するまで彼のペニスを咥

えこむ縁はあっさりと解れて奥へと自らの

指を誘う。

 早く奥のあそこに刺激が欲しいと、自分

の指を締め付けて乞う。

 スピーカーから聴こえるローションの塗

れた音と繰り返しあの場所を彼に擦られて

漏れる甘い震える吐息が耳を犯す。


「あっ…!」


 現実の私の指もその場所まで辿り着いて、

彼の指先を思い出しながら中を掻き回すよ

うに執拗にその場所を擦る。

 手すりの向こうに投げ出した足が快楽で

ビクビクと震え、反りかえったペニスが白

濁を吐き出したくて震える。

 やがて…


【イヤ、だぁっ、ぁぁっ、抜いっ、ぅぁぁ

 …っ!】

「うぁっ…!」


 初めて感じる快楽に戸惑いながらペニス

を扱かれて画面の向こうで絶頂する。

 それに追い立てられるように体の奥を擦

り上げるスピードを上げると、手すりにか

けた足が快楽で痺れて背筋をえも言われぬ

感覚が走る。

 脳まで駆け上がった感覚は脳の中心を痺

れさせて浮遊感を巻き起こし、射精のない

白い快感に脳と体が打ち震える。

 ペニスからはダラダラと先走りしか零れ

ないが、一瞬で快感が弾ける射精とは違っ

た快感の陶酔に体と心の全てで酔う。

 画面の向こうにいる彼にレイプされてい

る私は思いもしなかった。

 レイプされている録画データを観ながら

自らの尻の穴の奥を擦って射精ではない快

楽を貪る自分など。

 自分にこんな変態的な嗜好があるなんて

知らなかった。

 芹澤にレイプされなければ知ることも、

そして満たされることもなかった。

 だがそれを知ってしまった今となっては、

もう知らなかった時には戻れない。

 画面の向こうでは私自身が放った精液で

濡れる指を芹澤が私の口に突っ込んでいる。

 しかし私は覚えている。

 あのアイマスクの下の目は初めて知った

快楽で恍惚に蕩けていることを。

 世間体や見栄を脱ぎ捨ててしまえる快楽

を知ってしまった悦びに浸っていることを。





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あきゅろす。
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