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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode



 そんなクロードは向かいの席で丸い氷の

入ったショットグラスを回しながらウィス

キーを楽しんでいる。

 ボトルのラベルには“MIDLETON VERY

RARE”と書かれていて、その文字の下には

“IRISH WHISKEY”という単語が並んでい

る。

 クロードが嗜むアルコールの銘柄も日に

よって違い、ブランデーやワインだけでな

く時々日本酒や焼酎も出てくるから驚く。

 今夜はIRISH WHISKEY、アイルランド産

のウィスキーのようだ。

 和英辞書を毎日捲っている成果がこうい

うちょっとした所で出てくると、俺のやっ

てる翻訳作業は実生活でも役に立つんだと

ちょっと嬉しくなる。


「アイルランドのウィスキーって美味しい

 の?」

「ん?これか?

 Purepottostil whiskeyを呑みたかった

 らMidletonのwhiskeyしかあらへんから

 なぁ。

 口当たりは滑らかやし、原料の芳醇な香

 りが楽しめるのがええ」


 相変わらずのヘンテコな日本語の間に物

凄い流暢な英単語が混ざるから、違和感が

凄い。

 日本人だって外国人に日本食の説明をし

ようとしたら寿司や天ぷらという単語を外

国人が喋るように舌足らずになりはしない。

 それと同じようにクロードが母国の地名

や固有名詞を話に登場させる時はとても流

暢に話すのは当たり前と言えば当たり前な

のだけど、それがヘンテコな日本語に混じ

るからさらに違和感が強まってしまう。

 日本人に身近な外国語といえば英語だけ

ど、例えばトマトやビタミンという単語の

綴りは同じでもイギリス英語とアメリカ英

語では発音の仕方が違う。

 「シャワーを浴びる」という時もアメリ

カ英語ならば“take a shower”だけど、

イギリス英語ならば“have a shower”に

なったりする。

 大まかに言ってしまうと日本でいう方言

みたいなものかなと俺は勝手に解釈してい

る。

 淫魔達がいつも喋っている言葉はこんな

風に各国の言葉や方言が入り混じりやすい

ので、本当に奥が深い。

 俺も翻訳に苦労しているし、だからこそ

クロードにとっての母国語で会話できるよ

うになりたいと思うのだ。

 言葉の壁が無くなれば、もう少しクロー

ドに近づけるような気がして…と言うと大

袈裟に聞こえるかもしれないけれど。

 もし俺がこの先イギリスに生活の拠点を

移しイギリス英語で流暢に話せる時がきた

としても、同じように初対面の相手ならば

英語を話す人より日本語を話す人の方が打

ち解けやすい気がする。

 上手く表現できないけど、たとえその言

語を理解し使うことが出来たとしても母国

語で会話が出来るというのはまた別の話な

んだと思う。

 正直に言えば、クロードがカイルにネイ

ティブな英語で喋っているのを見た時にす

ごく羨ましかった…というのが本音なのだ

けど。


「以前から気になってたんだけどさ、クロ

 ードってその日本語誰から教わったの?」


 とはいえ、クロード喋る日本語は日本語

として通じなくはないけどイントネーショ

ンが可笑しい。

 俺はもうすっかり慣れてしまったけれど、

どこの方言なのだろうと考えてみるとやは

り首を傾げてしまう。
 

「気になるん?」

「うん。

 クロードが喋ってるのって何処の方言で

 もないからさ。

 色んな地方の方言が混ざってるみたいだ

 けど、時々イントネーションが独特にな

 ったりするし」


 クロードが喋っているのは関西地方の方

言をベースに各地の方言を織り交ぜ、時折

デタラメなイントネーションが混じる変な

日本語なのだ。

 けれどクロードならばちゃんとした日本

語を勉強する環境はいくらでも整えられた

はずで、だからこそ余計に不可解だ。


「日本人講師に習ったんだとしたらちょっ

 と不安になるレベル、かなぁ」

「ちゃうちゃう。

 そないにカッチリした身分の奴やなかっ

 たで。

 バックパッカーの見た目は若い男でな、

 おもろい話をよーさん聞かせて所持品を

 買い取らせようと一生懸命やった」

「えっ……」


 顔の前で手を振るクロードの説明に俺は

言葉を失った。

 もはやどこから指摘したらいいのか分か

らないくらい信じられない話だ。

 見た目は若いと感じたというなら実年齢

はもっと上だとクロードは感じたというこ

とだし、いくら資金繰りに苦労していたと

しても商人でもないのに所持品を売りつけ

ようとする神経はちょっと日本人のイメー

ジとはかけ離れている気がする。

 そもそもクロードは毎日仕事で忙しいは

ずだし、基本的に車移動だろうから出会い

も想像がつかない。





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