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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode



「日本に行くいうことが決まって日本に関

 する事を色々調べてた時期やった。

 ネット記事だけやと不安やったから、仕

 事帰りに書店に寄って本を探しとったん

 や。

 そしたら急に声かけてきよってな。

 “日本に興味があるんやったらおもろい

 話を知りたーないか?

 チップはバーガー一つでええで”

 とか言うてたかな」

「……」


 日本にはチップを支払う習慣はないけど、

それを自分から提示していく図太い神経は

凄いと思う。

 バックパッカーとなって外国を訪れて見

知らぬ異国人にそんな風に話しかけられる

日本人がどれだけいるだろう。

 …いや、本当に日本人だったのか?と思

わなくもないけど。


「それでバーガー奢ったの?」

「ファストフード店が書店の目の前やった

 からな。

 いやー、河童の伝説とか日本じゃ狐と狸

 が化かし合いしてるとかいう話を真面目

 な顔しておもろく話しとったで」


 俺は軽く脱力して口に運びかけた白身魚

のフリッターを皿に戻す。


「それってさ…こっちでいう所のケルト神

 話とか妖精伝説みたいなのと同じような

 感じの話なんだけど。

 まさか、信じたの?」

「いや、まったく」


 呆れる俺の目の前でクロードはケロッと

した顔で頭を振る。

 問いかけに否定で返されたことで変な表

情になっている俺にクロードは笑みを浮か

べながら俺の心の内の疑問に答えてくれた。


「金払うてちゃんと教師雇っても良かった

 んやけど、突拍子もない話をおもろくポ

 ンポン話すその男の話術を盗んだ方が面

 白そうやなって。

 絵空事の話を真面目な顔でしよって、そ

 れの類の一品やとか言うて所持品を押し

 売りするんもちゃんと加減を弁えとった

 し。

 せやから、俺が日常会話に困らん程度に

 日本語教えるんやったらその期間の生活

 の面倒みたるでって話持ち掛けたんや」

「はぁ…」


 改めてクロードの考え方はすごいなと思

う。

 日本語を習う為じゃなく話術を盗む為に

身元も知れない初対面の男の生活の面倒を

みると約束するなんて俺なら思いつきもし

ない。

 いくら自分に経済力があってもさすがに

怪しすぎるだろう。

 けれどクロードはその男を受け入れた。

 きっとその男も了承して、クロードにヘ

ンテコな日本語を教えたのだろう。

 傍から見ていたら不思議な縁だな、と思

うけれども。


「すごい人もいるんだな。

 俺はずっと日本で生まれ育ったけど、身

 近にそんな人いなかったからさ。

 世界を渡り歩くバックパッカーってその

 くらい行動力が必要なのかな」

「いやー…断言はできひんけど、あの男は

 人間やなかったんちゃうかな」

「……へっ?」


 俺はそこまでアクティブになれないなぁ

と内心で思いながら感想を言ったつもりだ

ったけど、クロードの口からまったく変わ

らない声のトーンでとんでもない発言が飛

び出した。


「まさか、淫魔?」


 それならば“見た目は若かった”という

クロードの言葉も納得できる。

 淫魔はある程度体が育ってしまうと外見

上は殆ど変わることなく数百年の時を生き

る種族だからだ。


「いや、少なくとも俺が知ってる淫魔とは

 気配が違ったから淫魔やないとは思うけ

 ど。

 でも淫魔や吸血鬼って種族が人間に混じ

 って暮らしてるんやから、それ以外の種

 族が人間のフリしてても全然不思議やあ

 らへんやろ」

「そう言われたら、そうだけどさ…」


 クロードは何でもないことのようにサラ

ッと言い切るけど。

 でも淫魔という存在でさえ受け入れるに

はショックが大きかった俺にとって、まだ

まだ他にも沢山の種族が人に混じって暮ら

しているのだという可能性は山積みにした

絵本の中身を現実世界にぶちまけたような

…それこそその話そのものが絵本の中の話

のように現実味がない。

 狐や狸が人に化けてスーツ姿で会社に勤

めていたり、妖怪や鬼が夜の闇に紛れて悪

さや人攫いをしていたりするのだろうか。


「難しゅう考える必要ないて。

 地球上には人間以外にもぎょーさん動植

 物がいてるやろ。

 その中には餌をとったり外敵から身を守

 る為に別の生き物に擬態化する種もおる。

 今現在、この地上にどんだけの人間が生

 きとると思う?

 約74憶人や。

 木は森に隠せっちゅうやろ。

 人間に混じって生きてる種族がおっても

 全然不思議やない」

「……」


 そう言われてみればそうだけど。

 俺が漠然と思えるのは、“世界って広い

なー”っていうことだけだ。




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あきゅろす。
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