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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「あのさ、気づいていた…?」

「えぇ。

 後からリクエストリストなんて押し付け

 られるのも面倒ですから黙認しましたけ

 ど」


 実は俺以上に俺との絡みを売り物にされ

ることに我慢しているのは兄貴だったりす

る。

 本来であれば“こんな馬鹿馬鹿しいこと

を”と誰よりも早くメンバーから外れても

不思議ではないはずだ。

 それなのに兄貴は未だに辞めるとは言い

出さない。

 それはただ単にバイト料の問題だけでは

ないような気がするのだけど、深く突っ込

んで訊いてみたことはない。


「かき氷のメロン、一つ」

「あいよ」

「えっ…?」


 かき氷の入った容器を俺の手に預けてく

る兄貴がカウンターのおっちゃんに声をか

ける。

 そんな、まるまる貰うつもりはなかった

のに。


「いいの?兄貴のなのに」

「駆はメロンの方が好きでしょう」

「ぁ…」


 そこでようやく兄貴の考えを理解した。

 このかき氷はあくまで兄貴ので、俺のを

買い足すのに小銭を出す為に俺に預けただ

けらしい。

 一口だけでよかったのに、なんだかかえ

って兄貴に負担をかけてしまったようだ。


「あの…なんか、ごめん」

「どうして謝るんですか?

 謝る必要はないでしょう」

「そうだけど…」


 申し訳なくなって言ったのに、兄貴はま

ったく気にしていなさそうで俺の方が悶々

としてしまう。

 そうこうしている間におっちゃんの手か

ら兄貴にメロン味のかき氷が手渡され、小

銭と引き換えにそれを受け取った兄貴は俺

が持っているレモン味のかき氷と交換する。


「そんなに悪いと思うなら、今夜カメラの

 ない所で返してくれればいいですよ。

 シロップに負けない甘い蜜で、ね」


 トンッと俺の肩に手を置いた兄貴の顔に

は笑みが浮かんでいて、一瞬なんのことか

わからずにポカンとした俺は理解した瞬間

に一気に熱が頭にぶり返してくる。


「…んの、昼間から何言ってんだよッ!?」


 キッと睨む俺の視線なんてものともせず

に意地の悪い笑みを残した兄貴は熱い日差

しの中を戻っていく。

 こんな場所で、兄貴の発言に対して追及

することはできないんだけど、分かる人が

聞かなければ分からない内容だからと言っ

て昼間からしていい話題ではないだろう。


 っていうか、何考えてるんだっ。

 今夜はこの島で一泊するって決まってる

のにっ。


 南の島らしく、泊まる宿は風通しをよく

する為にもともとは部屋と廊下の仕切りは

カーテンだったらしい。

 それが最近ドアに変わったらしいのだが、

宿全体の解放感はもちろんそのままだ。

 いくらカメラがなかったとしても、誰が

いつ顔を出すかもわからない状況下で、そ

んなこと…出来るはずがない。

 むしろそんな状況で、一晩であっても一

つの屋根の下でクロードと兄貴と麗が一緒

に過ごすなんて何が起こるか分からないじ

ゃないかというのが今回の旅行での最大の

悩みだ。

 今夜は誰かに捕まる前にこっそり宿を抜

け出してどこかで一晩明かしたほうがいい

んじゃないかと宿に荷物を置きに行った時

から考えていた。

 それが多分一番平和だと思うし、夏なの

だから一晩くらい野宿したって風邪をひく

こともないだろう。

 俺の中での優先順位が安全>野宿なのは

揺るがない。

 削りたての氷にサクサクとスプーンを立

てて崩してから緑色のシロップのかかった

氷を口に運ぶ。

 喉に絡みついていた甘さを全てさらって

喉を通り過ぎていく冷たさは心地良さを通

り越して火照った体の体温をかすめ取って

いく。

 ひんやりとした冷たさに一瞬顔をしかめ、

そして肩から力を抜いた。

 夜の事は仕事が終わってから考えよう。

 今は一刻も早くPVを撮り終えることを

考えないと。

 何事もなく無事に家に帰り着くまでが

“仕事”なんだから。





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