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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 かき氷を半分ほど食べたところであまり

の頭痛にダウンして、砂浜のパラソルの下

で休憩しているカイルの隣へと移動した。


「……」

「……」


 サクサク…


 いつもなら俺の方から声をかけるんだけ

ど、先程の大倉先輩とのやりとりのせいで

何と声をかけていいのか分からない。

 基本的に俺と視線すら合わせようとしな

いカイルが俺に話しかけるわけもなく…俺

が溶けかけのかき氷を崩す音が絶え間ない

波の音に混じった。

 未だに高い位置にある太陽が照りつける

砂浜では、スタッフがビーチバレーの為の

コート作りをしている。

 どうやらPVの途中に挟む予定らしく、

クロード達は既に軽くストレッチをしたり

して体を動かしている。

 本当は早くあれに混ざらないといけない

んだろうけど、かき氷は食べかけでもった

いないし早くに日陰を出ていったら熱中症

になってしまいそうで出来ない。

 コートの準備が整うまでには出ていこう

と思うけど、それまでにかき氷を食べ終わ

らないといけない。


「カイルは何か飲んだのか?」


 いくら純血の淫魔だってこんなに熱い場

所で汗をかき続けたら水分補給が必須だろ

う。

 思いきって声をかけてみたけど、カイル

は面倒くさそうに顎でスポーツ飲料のペッ

トボトルを示しただけだった。

 淫魔の食糧は人の体液だと言ってたけど、

どうやら水分だけならスポーツ飲料でもい

いらしい。

 というか、カイルの場合は人の体液を受

け付けない体質的だから日常的にそんなも

ので水分・栄養補給はしていないだろうけ

れども。

 けれどそんなことを正直に口にしたらカ

イルの逆鱗に触れるのはいくら俺でも分か

るから声にはしない。

 でもそうなると何を喋ればいいのか分か

らなくて波音が耳を撫でるだけになった。


「いつまでこんな茶番を続けるつもりだ」


 溶けかけのかき氷を先端がスプーンの形

になっているストローで端から切り崩すの

に夢中になっていた俺の耳に静かな声が届

く。

 あまりにも静かで唐突すぎる声は波の音

に浚われて聞き逃しそうになった。

 一瞬何のことかわからなくてきょとんと

カイルの方へと視線をやったら不機嫌丸出

しの視線がグサッと突き刺さってきた。

 いつも感情を表情に出さずに口数少なく

クロードの我儘と八つ当たりに振り回され

ているカイルにもやはり言い分はあるよう

で。

 …いや、なかったらその方がよっぽど怖

いけれども。


「いつまでって…そもそも最初に言い出し

 たのはクロードだし、それに便乗してあ

 れこれ口出してきてるのは大倉先輩だ

 し…」


 “だから俺に言われても…”というニュ

アンスで頬を掻く。

 正直、俺が言ってどうにかなるのなら文

化祭の出し物すら別のものになっていただ

ろう。

 それが出来なかったから今の今までこん

な状況に振り回されている訳で、その責任

を求められても困ると言うか…。

 いや俺が保身の意味も込めて積極的にカ

イルを巻き込んだ件に関してはそんな無責

任なことも言えない立場ではあるんだけれ

ども。


「俺個人としてはカイルにはメンバーでい

 てほしいけど、どうしても我慢できない

 ならクロードに言えばカイルはグループ

 抜けさせてもらえるんじゃないかな。

 カイルがそのつもりなら俺からも頼んで

 みるし…」

「愚か者。

 俺があの方のすることに異を唱えること

 などするはずないだろう」


 俺が唯一何も警戒しないでいられるカイ

ルを失う事はひどく痛手だ。

 けれどその為にカイルの平穏を奪う事に

なるのなら俺はそれでも我を通すべきじゃ

ない。

 と思ったけど、カイルは俺を睨みながら

忌々しそうに舌打ちして俺の提案を却下し

た。





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あきゅろす。
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