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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「落ち着いてね、秋月さん。

 まだこの子のように幼い猫の場合にはエ

 イズになっていなくても検査結果が陽性

 になることがあるらしいの。

 だから半年後に再検査しましょうって、

 先生はおっしゃったわ」


 な、なんだ…。

 エイズじゃなくても陽性になったりする

んだ…。

 それを知ってホッと胸を撫で下ろしたか

ったけど、やはりエイズという三文字が心

にズシリとのしかかっている。

 聞き慣れない、けれど決して安易には考

えられない病気、エイズ。

 この子猫はこんなに安らかな寝顔を浮か

べているのに、既に神様から重荷を背負わ

されていたんだ。


「でもね、半年後って言ったらこの子は7

 か月でしょ?

 そこまで育ってしまったら、たとえ検査

 で陰性が出ても里親を探すのはとても大

 変じゃないかしら。

 大体は3か月くらいの子猫を欲しがる人

 ばかりだと思うし」

「っ!」


 勝手だ、と思う。

 でも飼う人間にだって都合があって、迎

え入れる準備も必要だ。


「よく、考えてね。

 あなたが拾った命だから」

「はい…」


 俯いて返事をした秋月の声が震えてい

た。

 その顔を直視するだけの勇気も今はな

かった。




 夕食の支度で台所に母さんが向うと、さ

っきから黙ったままの秋月と二人残され

た。


 気まずい。

 何を話していいのかわからない。


 秋月はぼんやりと眠っている子猫の顔

を見つめているようだ。


「……をさ」

「え?」


 掠れたような声で上手く聞き取れなかっ

た。


「寿命を、さ…入れ替えられたらいいのに

 ね。

 この子と私と…」

「ダメだ、そんなの!」


 何を言い出すんだと思わず大きな声が出

た。


 子猫はそれに驚いたのか、目覚めて様子

を伺っている。


「あんたがいなくなったら、この子どうす

 るんだよ!しっかりしろよ!」

「怖がってるよ…」


 子猫を抱き上げてよしよしと撫でながら

不安げな子猫をあやす。


「ただの…たとえ話。

 そんなことできるはずない。

 わかってる」


 “わかってる”そう言いながら、なんだ

かその顔は儚げに見えた。


「…捨てるのか、その子?」

「………」

「捨てるのかって聞いてんだよっ」


 その肩を掴んで揺さぶると、秋月はそっ

と子猫をベッドに戻す。





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あきゅろす。
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