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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 だったらこんな悪夢はさっさと終わらせ

なければ。

 ユラリと一歩後方に踏み出す。

 そのまま踵を返して走り出した。

 10分。

 それまでにこの館から逃げられる勝算な

どない。

 ただむざむざ食い千切られる度胸がなか

っただけだ。

 時折フラつく膝に鞭打って、とにかく走

る。

 走りながら他の足音に耳を澄ませる。

 気配さえ消して近づいてこられる化け物

達相手では気休めだろうけれど、それでも

気にしないよりはマシだろう。

 しばらく予測不能な感じに走り回って、

とにかく館の一番外側の部屋を見て回る。

 玄関がダメなら、どこかの部屋の窓から

外に出られないか。

 それが走りながら必死に考えた俺の出し

た答えだ。

 たとえ裏口があったとしてもそこも大き

な扉で開けなければ意味がないし、何より

誰かが待ち伏せている可能性もある。

 しかし窓ならば鍵を開ければそれほどの

重さはないだろうし、最悪叩き割るという

手もあるだろう。

 だから無茶苦茶に走るフリをしながら探

す。

 外に繋がる窓がある部屋を。


「はぁっ、はぁっ」


 何分経った?

 いくつもドアノブを回しながら開かない

ことに苛立ち、狂った体内時計で走り始め

てからの時間を計る。

 5分?8分?

 それとももうとっくに二人は走り出して

いるだろうか。

 ざわざわと嫌な気配が胸を撫でる。

 それを振り切るように走って、ようやく

見つけた。


 ガチャッ


 体重をかけるようにして開けたドアノブ

がスーッと奥へと滑って、すかさず音をた

てないようにそっと閉めた。

 ドアを閉める時に夜風が顔を撫で、おか

しいと思って振り返ると月の光を吸い込ん

だカーテンが揺らめいていた。

 窓が開いている。

 それに気づいたらもう体が先に動いてい

た。

 ゆらめくカーテンの向こうにあるのが闇

でも、この館にこびりつくどす黒い闇より

はよほどマシなはずだ。


「あぁ、やはりかかりましたね」


 だからその声が耳に届いた時、窓際につ

こうとした手が止まった。

 いや、掴んで攫われた。

 揺れるカーテンに包まれいていた誰かに。


「あに、き…」


 最初からそこに居たのか。

 いや、誰の気配もしなかったはずだ。

 カーテンの裾から下半身だって見えてい

なかったはず。

 それが何故、そんな当たり前な顔をして

俺の手首を掴んでいるのか。


「ニンゲンの浅知恵を予測するなどなんと

 他愛ない。

 これで文句はありませんね?

 お前は私の獲物です」

「ぐっ、あ゛ぁ゛ッ…!」


 手首を掴むのとは違う手で喉を掴まれた。

 およそ人間のもつそれとは違う力加減で

掴まれると、身長差でギリギリつま先が床

につかないところまで持ち上げられる。

 それだけで喉を締め上げられているよう

で苦しいのに、押し付けられた掌が熱い。

 焼きゴテをあてられた様な…とまではい

かなくても、肌を弱火でジリジリと炙られ

る様な熱が喉元を襲いじわじわとその温度

が焼けつくような温度に変わっていく。

 息苦しさと熱に耐えかねてその手を引き

剥がしたくて空いている手で爪を立てて掻

き毟ったけれど案の定ビクともしない。





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