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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「もう一度っ、勝負すればいいだろっ!」


 痛みと恐怖でまともな思考回路ではなか

ったんだと思う。

 気づいたらそう叫んでいた。

 勝負、という言葉に反応したのか二人の

腕の力が緩む。

 肩が抜けそうだった力からひとまず解放

されてガクリと床に崩れ落ちた。


「勝負?何の勝負です?」

「面白そうやったら、乗ったっててもええ

 よ?」


 化け物二人が頭上で笑う。

 もう顔を上げる気力もないまま悪夢なら

ば悪夢のルールに従うことにした。

 悪夢ならば、最悪死ぬと同時に目は覚め

る。

 逃れきれないならそれに賭けるしかなか

った。


「あんたたち二人で、もう一度競えばいい

 だろ。

 どっちが先に俺を捕えるか。

 先に俺を捕まえた方に大人しく食われて

 やるよ。

 それでいいだろ」


 それ以外にこの二人が納得する方法など

思いつかなかった。

 しかし二人はそれを聞いた後も掴んだま

まの手首をお互いに離そうとしない。

 勝算を計算しているのか、それとも相手

が離さなければ安心して手放せないのか。

 だから追い打ちをかけた。

 どちらも手を掴んだままではいられない

ように。


「ははッ、それとも怖いの?

 死にかけのニンゲンにこのまま逃げきら

 れるんじゃないかって?」


 恐怖も痛みも押しこめて、出来るだけバ

カにしている様が伝わるように高い声で笑

った。


「そんな訳あらへんやろ」

「ニンゲンの分際で、身の程が過ぎますよ」


 あぁ、やっぱり乗ってきた。

 ほぼ同時に解放された肩を慣らしながら

口元だけで笑った。

 俺の読みは当たっていたようだ。

 噛まれた耳から流れる血で貧血を起こし

ているのかフラつく足でよろよろと立ち上

がる。


「10分。

 その間に逃げるから、10分経ったら追

 いかけてきなよ。

 10分なんてすぐだろ?」


 10分と言いながらこんな足でどこまで

逃げられるのか自信はない。

 あるいはこの二人の前に別の誰かに捕ま

る可能性もある。

 それでも誰に見つかっても食われるなら

同じこと。

 顔を上げて二人を交互に見る目は我なが

ら据わっていたと思う。

 恐怖と痛みで頭のねじが飛んだのか口元

に笑みまで浮かぶ。

 ふと死後硬直を起こした遺体が笑い顔に

なることがあるとどこかで聞いたのを思い

出す。

 その間も俺は笑っていられるような気ま

でしてくるから不思議だ。

 やっぱり悪夢に毒されて思考回路がおか

しくなっているんだろう。





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