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悪魔も喘ぐ夜
*


「“ティム、そこに居るか”」

「“はい、クロード様。こちらに”」


 駆が去った後の病室で、英語に近い言語

で会話が交わされる。

 姿が見えない使用人に対してもクロード

はベットの上で特に顔色を変えるわけでも

ない。


「“プライベートジェットをいつでも飛ば

  せるように手配しておけ。

  駆の気が変わらない内に本国へ連れて

  帰る”」

「“御意”」


 深々と頭を垂れた気配の後、音もなく部

屋からその気配が消えた。

 クロードの手がおもむろに腕に伸びて、

真っ白い包帯を外していく。

 わずかに流血の跡はあるものの、包帯の

下にあった傷は手首から肘まで包帯が必要

なほどの外傷ではない。

 その傷の具合を確かめてから右手を握っ

たり閉じたりして飽きたように投げ出す。


「…ほんまに疑うことを知らへんなぁ、駆

 は。

 金さえ積めば個室も診断書もどうとでも

 なるっちゅうのに」


 全治2週間程度でなぜ個室なのか、疑問

にも思わなかったのだろう。

 新しいホテルが見つかるまでの繋ぎにと

金を積んだら、快くこの個室を明け渡して

くれた。

 ただ、それだけの話だ。

 ただ実際の負傷がどの程度であれ、被害

届を出す際には医師の診断書がものを言う。

 それは紛れもない事実だ。

 だがそれを書くのもまた人間なのだ。


「はよう気づいてや。

 駆が頼れる淫魔は俺以外ありえへんやろ」


 先ほど懇願するほどの快楽を与えた左手

をじっと見つめながら呟く。

 しかし同時に確かな予感があった。

 あとは時間の問題だ、と。




「ごめん、兄貴っ。

 もう診察終わった?」


 病院だから走ることも大きな声も出すこ

とは禁止だ。

 なるべく早足で外来の待合室に戻ると、

兄貴が呆れたような顔で俺を視界にとらえ

た。


「とっくに終わりましたよ。

 まったく、どこに行ってたんですか。

 午後から学校に行くと言っておいたでし

 ょう」

「えっと、買い出しに行ったり母さんと話

 したり…」


 怒ってる兄貴に言い訳なんか大して意味

がないと分かっているから最後は濁す。

 まさかクロードに会っていたなんて…し

かもあんなことまでされてしまったなん

て、口が裂けても言えない。





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