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悪魔も喘ぐ夜
*


「お兄ちゃん」


 静かに俺を呼んだ麗の両手に顔を包み込

まれた。


「兄さんは…もう戻らないよ」


 静かすぎる声に胸がざわめく。

 そんなことないと否定したくて顔を上げ

たら、静かな水面のような目があった。


「兄さんの心はね、もうずっと前から壊れ

 てしまっているから。

 兄さんの目はお兄ちゃんしか見てないか

 ら」

「なんで?!何が?!いつから?!」


 麗が“それ”を知っている…それは自分

だけ知らなかったっていうことでショック

でもあったけれど、今はそれよりもそれが

何なのか知りたかった。

 それは兄貴を元に戻す糸口になるはずだ

から。


「それはぼくの口からは言えないんだ。

 ごめんね」


 申し訳なさそうに謝る麗がもどかしい。

 目の前に鍵があるのにギリギリの距離で

手が届かない。


「それでも、ね。

 ぼくはお兄ちゃんを諦められない。

 兄さんがどれほどお兄ちゃんを好きで

 も、兄さんにどれだけお兄ちゃんが必要

 でも。

 ぼくだってお兄ちゃんが好きだし、お兄

 ちゃんと一緒に居たいもん。

 兄さんにお兄ちゃんが必要だっていうな

 ら、ぼくにだってお兄ちゃんが必要なん

 だ。

 ぼくだってお兄ちゃん以外じゃ、ダメな

 んだよ…ッ」


 堪えていたのだろう涙が、最後に堪えき

れずに目尻を伝った。





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