星屑の在り方
(OROCHI/太公望)仙人と仙人による仙人の為の仙人再教育
「人の子は皆一様に死に逝くモノ。故に今或る生を十分満喫してから死に急ぐが良い」
「────それは結局、さっさと死ねって事かね、太公望?」
「クク、少しは賢くなったようだなザビ子。
この幾万の時間で、少しは成長したと言うべきか」
「数千年振りに邂逅願えたというに、それはまた随分な挨拶だなァ、太公望。
そういう所は本当に変わらぬようで、なによりだ」
「クク……人はそう簡単には変われぬ。それが人の性というものであろう」
「ふん、なにを言う。キミは人ではあるまい、太公望。
いや、それともなにか────────キミは今一度ヒトに成り下がりたいのかな?」
「……お前は相変わらず口が減らぬな、ザビ子。私の過去をそう易々と言うでない」
「そうか。それは悪い事をしたな太公望、気に障ったか?
だがそれは真実、仕方ない。覆せない事実だろう。
キミも元は、只の変哲もない無力な人間だったんだ、太公望師叔?」
「…………ク、本当に勇ましい仙人だ、お前は」
「それは違う、私は仙人じゃない。……ただの脆く浅ましい、ただのひとりの人間だ」
「ククク……齢千を超えて尚、自らを人と名乗るかザビ子?」
「…………………………………」
「あの血を飲んだ日を境に、お前はヒトでは無くなった。
あの日を境に、お前は老いを恐れなくなった。
あの時からお前は、人を超えたモノになった」
「違うッッ!! わたしは、そんな────化け物なんかじゃ、ない……!!!!」
「違わない。私も元は人だった、これは真実だ。
だが、お前は最早人では無い、これも真実であろう。
これは先ほどお前が口にした″覆せない事実″と言うやつではないのか?」
「…………どうした太公望……今日はいつになく芝居掛ってるじゃないか。
いつも以上に良く喋るなんて、余裕がないのかな、“坊や”?」
「話を反らすなザビ子、それはお前の悪い癖だ」
「っ…………ああ、そうだ。もう認めよう、わたしは疾うの昔に人間を辞めていた」
「けれども人界に留まった、まるで自分は未だ人間だと自らに暗示をかけるかの様に────……」
「……まったく。キミには敵わない。その通りだから反論出来ない」
「正論だからだ、真実は虚像では塗り潰す事など出来ない」
「然し、人間という生き物は虚像で自己を保ち、また自らを構成しているのだろう」
「クク、相変わらず減らず口を。然し、それもまた真実、か……面白い事を言う」
「わたしはね、年に数回しか真実なんて口にしないから、今のは迚も貴重だ。胸に刻んでおくが良い」
「そうだな、今の助言は胸に刻んでおくさ、精々持って数百年だろうがね」
「…………相も変わらず、キミは可愛げがない“オトウト”だな……」
仙人たちの憂鬱。
「おぉ久しいのザビ子、お主が天界に帰るとは珍しい……して、何用で参った、ザビ子」
「伏儀、太公望の教育をちゃんとしておけ、それだけだ。それではな」
「………………何をしに来たのだ、彼奴」
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