星屑の煌めき




(無双/徐庶)藁をも縋る思いの道化師





「ああ、私思うのですけれど、あなたは優しすぎますわ、徐庶殿」

「────急になにを。言い出すかと思えば、君は俺の性格を分かっていたと思ったんだが。違ったのかい」

「いいえ。分かった上で申し上げます。
あなたは優しすぎる、この乱世、お人好しでいる事がソレだけで命取りとなります、それを理解してますか、徐庶殿?」

「……生憎と、分かっているが一長一短で治るモノなら苦労しないさ、俺も」

「そう、それはとても難儀ですね。けれどあなたのその優しさがあなたの良さだと私は思ってます、徐庶殿。
曹操様のように非道に冷徹になり切れたらソレはソレでいいのかもしれないけど、どんな誹りを受けようとも自分の覇道を貫くのが曹操様の良い所。
あなたはソレが出来ない。けれどそれは欠点じゃない。あなたにしか出せない答えもあるんじゃないですか?」

「……」

「難しい顔をなさらないでください。笑ってください、私はあなたの困った顔しか見た事がありません。
このご時世、確かに楽しい事などありません。けれど笑顔を忘れてはいけません。
笑ってくださいませ徐庶殿。まだ見た事はありませんけど、私、あなたの笑顔がとても好きです」

「ザビ子殿は、その、とても難しい事を言ってくれるね。俺は元からこういう陰気臭い顔をしているし、笑う事がそもそも出来ない」

「まあ、そんな事ありません。先の劉備殿と共に居た時は笑っていたのではありません?」

「────」

「狭い感性で語るのでありませんよ、私は周囲の声に耳を傾けていただけの怠け者です。
それ故、周りの色んな出来事が聞こえてきます。
怨嗟の声、私念の声、讒言の音、笑顔の音、幸福の音。
嗚呼ソレは確かに聞こえたのです徐庶殿。あなたの、しあわせのこえが」

「ザビ子殿、君は何か思い違いをしている。
俺は笑っていないし、笑う事を許されていないんだよ」

「……なぜ? あなたにもしあわせになる資格があります、確かにあなたはしあわせでした。
劉備殿の下に居た時は確かにあなたも、感じていた筈です。『自分の活きる道を見出した』と」

「滅多な事を言うものではないよザビ子殿。俺は今、曹魏の将だ。
そんな俺がここでそんな事を言ってしまったら、母上にも迷惑がかかる」

「……嗚呼、あなたは優しすぎます徐庶殿。
どうしてこの乱世、その様に優しさを棄てずにいれるのでしょうか、私にはそれが羨ましいです。
どうして、あなたはこの乱世に揉まれずに、摺れずに、その優しさを持ち得ているのでしょうか」

「俺のコレは、乱世では致命的弱さだ。こんなもの、持っていたって仕方ない。
俺は君が羨ましい。君のように生きられたらと思ってしまう、俺は君が羨ましいよ、ザビ子殿」

「駄目です、私のようになってはいけません徐庶殿。国の為と言い民を殺し、天下泰平の為と言い家族を殺す人間になってはいけません。
私は故に独りなのです、世の為と嘯き家族を殺した女に羨むなど思ってはいけません。
人の情を捨てた者に人の為の天下を布く事など出来ません、献策などしなくても、人の為に話を聞くでも、それはあなたにしか出来ない事ではありませんか、あなただから出来るのです徐庶殿」

「ザビ子殿、君は家族を……」

「はい────曹操様の命に従い殺しました。けれど私はそれをちっとも悼んでいないのです、だから私はあなたが羨ましいのです。
家族を大事にし、家族の為に踏ん張れるあなたが。たとえ私と正反対の性質だとしても。
故に私はあなたが好ましいのです、徐庶殿。有り体に言うのならそういう事です」

「然し、そうでもしないと君が危なかったのだろう?
家族を人質に取られた訳だ、家族か自分の命かで迫られていたのなら致し方ない筈だ」

「……いえ。忠誠の証として家族を殺しました。私はそういう女なのです」

「────────ザビ子殿、君は……」

「陶謙殿に仕えていた父上を、縛に捕え獄に繋いで、私が生き残る為に曹操様に仕える忠誠の証として、父上を曹操様の前で処しました。
『父上を殺す事が出来ましたら、私を曹操様にお仕えする事をお許しください』と命乞いをして、父上の首を刎ねたのです。
この様な所業、鬼です。私はとうに人ではないのです」

「っ、────────」

「悲しい顔をなさらないで、徐庶殿。あなたは人の悲しみを読み取る事が出来るのですね、凄いです、あなたの目に映る私は哀しんでいるのでしょうか?」

「君はとても、歪な生き方を選んでしまったんだね。ザビ子殿、君はそれで今、幸せなのかい?」

「……」

「? ザビ子殿、どうかした────」

「私の幸せは、とっくに叶ってるんですよ徐庶殿。
今、こうして生きてるのですから、私は幸せですよ、徐庶殿」

「ザビ子殿、……君も乱世の被害者じゃないか。俺なんかよりよっぽど乱世に生きていくに向いていない」

「────嗚呼。悼む様に笑うあなたの顔も、ステキですね、徐庶殿」











































































「あなたが笑っていない世界なんて要らないわ」
















































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あきゅろす。
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