星屑の煌めき
(イナGO/南沢)全ては遠き夢見路の果てへ
「オーイ倉間くらま ァ、居お らんかね」
「……ゲッ、なにしにきたんですかザビ子先輩」
「てめ、それが先輩に開口一番に言うべき事か、アァ?」
「さーせんっした、マジですいませんっした!」
「分かりゃいんだよ。所で話は本題に入るけどさ、辞書貸してくんない」
「嫌です」
「お前確か言語科目ドイツ語選択してたよな、奇遇だな私もだ。独和辞書貸してくんない」
「嫌です」
「三国さんごく も南沢みなみさわ も言語科目古語なんだよ〜、私の知り合いでドイツ語取ったの倉間ぐらいなんだよ、和独辞書でもいいよ」
「断ります」
「お前よ、先輩がこんだけ頼み込んでるっつーのにその態度はないだろ。
三連チャンで拒否んなよ、しかも全て1コンマにも満たない速さで拒否んなよ」
「ザビ子先輩オレの辞書になにしたか忘れたんですか」
「っあ〜……。その、悪かった。だから辞書貸して」
「人から辞書借りておいてなんで涎でベチョベチョになるんですか、ザビ子先輩アンタ授業ちゃんと真面目に受けて下さいよ」
「先生の声が子守歌にしか聞こえない時もあるよね」
「ないですよ」
「良いじゃん辞書貸ーしーてーよーくーらーま〜、細かい事いつまでもネチネチ引き摺ってるからお前は背が伸びないんだ」
「身長は関係ないです。細かくないです最重要です」
「神童しんどう って選択なに取ってっかな」
「ザビ子先輩、ここで残念なお知らせなんですけど、神童も霧野きりの も速水はやみ も浜野はまの も言語科目英語ですよ」
「全滅かよ……車田くるまだ 、はアイツも古語だったわそういや、天城あまぎ も英語か………他も確か……えぇいクッソ、なんでサッカー部の連中はこぞって選択ドイツ語じゃねーんだよ!!」
「ザビ子先輩がこうやって借りに来るからでしょ。それを未然防止する為に選択違うの取ったって事です。
言語科目は一年はまだないですからね、もう諦めて帰って下さい」
「ヤダ。諦めない、倉間が辞書貸してくれるまで私諦めないもん」
「急にかわいこぶんないで下さいよ、気色悪いです」
「可愛くないなお前……身長だけはちみっこくてかぁいらしいのによォ」
「身長は関係ないでしょ……。オレは人より成長が遅いだけですザビ子先輩なんてあっと言う間に抜かしてやりますよ」
「言うだけはタダだよ倉間。口先だけでは如何にでも出来よう、だがそれを実現させなければそれはただのペテンだ。
大望を息巻くのも結構だが自分の身の丈に合うものを抱けよ」
「ぐっ……マジでオレこの人苦手だ…ああ言えばああ言う……マジで嫌いだこの手の人間……!!」
「あー。倉間相手に私も大人気ない事した、マジで誰か独和辞書貸してくんないかなぁぁぁぁ」
「ザビ子先輩、今からダッシュで家帰って持ってくれば間に合うんじゃないですか」
「お前よー、それをしたくないから私はお前に借りに来てんだろおが、私は走る事と歩く事が大嫌いなんだっつの」
「いやそれ真性のクズ人間ですよね?」
「楽して生きたいのさ……なあなあ倉間ァ、お前の知り合いでドイツ語選択した奴居ねぇの?」
「オレはダチを売ったりしませんよ、居てもザビ子先輩にはぜってぇ教えません」
「ほっほう、そんな態度取るのか倉間ァ……?」
「な、なんですか……そんな風に笑ったって、ち、ちっとも怖かないですよ」
「お前、今日の部活楽しみにしとけよ」
「勘弁して下さいよザビ子先輩!!」
「……あまり後輩を苛めるのは良くねぇぞ、ザビ子」
「あれ、南沢みなみさわ じゃん。なんで二年生の階に来てんの」
「それはお前もだろザビ子、俺は騒がしいから諫めに来たんだ。先生にお前のお目付役を命じられてんだよ」
「内申上がるからって貴様、十年来のダチを売ったのか。お前は一生内申を伺ってろ」
「はいはい分かった分かった。倉間にも迷惑かけんなよ」
「だってよぅ、倉間が辞書貸してくんないから地獄のトレーニングメニューを考えてんだ今、うさぎ飛びしながらドイツ国歌斉唱とか」
「アンタなに末恐ろしい罰ゲーム考えてんすか!?」
「それがイヤなら辞書貸して。さもなくば地獄のトレーニングメニューとしてゲーテの名言をドイツ語で暗唱しながら反復横飛びなっ」
「もっとハードル上がってんじゃないすかザビ子先輩それかわいがりじゃないですか!?」
「倉間があんまりにも可愛いからかわいがりたくもなるよねっ! だからホラ、辞書貸せコノヤロー」
「お前もそろそろいい加減にしろっての」
「あぃっだ!! オイテメあにしてんだあん? 仮にも女子である私の頭を手刀で殴るかア゙ァン?
上等だコラ。お前も特別地獄メニュー追加だ南沢コラ。
校庭を走り込みしながら古今和歌集全文を英文に直して暗唱だコラ」
「んなのしねーよ、誰がそんなのやるか。お前もそろそろ諦めろザビ子、授業始まるぞ。
悪いな倉間、問題児コ イ ツ の相手してもらって」
「いえ、良いですよ別に……」
「おい南沢テメ、今読みおかしかったぞ! なんて書いて私の事を称した貴様!」
「ほらほら、んなアホな事言ってる間にも授業始まるから教室戻ろうなー」
「おい女子の扱い方心得てる割には私への扱いは雑だな南沢お前、首根っこ掴んで引きずるなよ地味に苦しいぞオイ、離せよ貴様!」
「南沢先輩ありがとう御座いましたー」
「いいって。コイツの扱いは俺以外には無理だから」
◇ ◇ ◇
「ぐわぁぁぁん! だが私は諦めないぞ倉間ァ、また次の休憩時間に借りにきてやるー!
私は今日の選択授業であてられそうでイヤなんだ辞書がないと無理なんだー!」
「……往生際が悪いなお前。諦めろって言ってるのに懲りないな」
「いだだだだだいだいっつの南沢階段はせめて離してくれ踵と尻と腰強打してるから私!!」
「自業自得だ。止めて欲しけりゃ借りに行かないと約束……いや、約束じゃ手緩いな……誓いを立てろ、良いか?」
「Schwur〜? なんで立てるわけ意味分からんいだだだだだ」
「お・ま・え・がっ、後輩に迷惑掛けてるからだろ!!」
「いーたーいーよー、歩くスピード速めるなよマジで階段の縁に打ち付けられて超痛いんだよお前二段飛ばしで階段登ってんだろ超痛いんだよ」
「離して欲しけりゃさっさと誓いを立てろよ」
「立てる立てる、立てるよシュヴーアだろうがゲッシュだろうが立ててやんよ、だから離せ〜〜〜〜!!」
「本当か? 破ったらお前アレな、土佐日記をドイツ語に訳して暗唱しながらシャトルランだからな」
「ツラッ!! それは辛いッ! 分かった破らないからそろそろ首根っこ離してくれよ女子の運び方としてどうかと思うぞコレェェェェェ!!!!」
Mein Herz verlangt nach Dir.
(私の心はあなたを待ち望んで)
「古語取ってる人間ならまだしも私ドイツ語だよ、外国語だよ……なんで古文をやらなきゃいけないの」
「そりゃお前が誓いを破ったからだろ、俺以外の人間に頼った罰だ。ほら時間短くなるぞ」
「クソが死ねよエロ沢がァァァ!! えーと、『Tagebuch wird auch ein Mann zu sein』……だっけ!?」
「……お前翻訳ソフト使ったろ」
「何故バレたー!!」
「俺を頼れば良いのに、お前バカだろ」
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