星屑の煌めき
(イナGO/剣城)それはまるで美しい徒花
「あーうち、雨とか超ナンセンスだろ……」
「……なにしてるんですか、ザビ子先輩」
「おや、その声は……誰だ?」
「教えません、先輩が思い出すまで教えません」
「冗談でござる拗ねないで下さーい────待って下さい剣城さんっ」
「……分かってるなら最初っからふざけないでちゃんと名前呼んで下さい。
それで、ザビ子先輩はなんで昇降口でボケッと突っ立ってるんですか」
「いやぁ、それが聞いて下さいよ剣城さぁ〜ん。聞くも爆笑語るも爆笑、涙あり笑いありの私の失敗話をお聞かせしましょう」
「なんか長くなりそうだから別に良いです。それじゃあ俺はこれで」
「わァアァァアア待て待て待て待ってーー、聞いて下さいよ剣城さーーーーん!!
いや、最悪聞かなくても良いから私を一人にしないでぇぇぇぇ」
「うわ、ちょ、なんで襟首引っ張るんだアンタ、危ないだろ!?」
「ご、ごめんなさい…………だって剣城さんが帰ろうとするから邪魔したれやと思いました、マル」
「アンタ、マジで傍迷惑な人だな。ていうかそもそも、本当になんでこんな所でボケッと突っ立ってたんですか」
「それはだね、お外をご覧なさい剣城さん。見ての通り豪雨ですよね、いつもは置き傘で溢れかえっている傘置きですら素寒貧です。
これらから導き出す答えは────────傘忘れました」
「くっだらねぇ…………じゃあ俺はこれで失礼しますね」
「うわーん、傘貸してくれたって良いじゃんかー、剣城さんの薄情者ー! バカー!! イケメーン!! エースストライカー!!」
「だから、襟首を掴むなってアレほど────!!」
「ちょっと待って下さいよー、私マジでわりと本気で困ってるワケです、困ってる先輩を見捨てて帰れんですか、剣城さん」
「帰れますよ、それがなにか?」
「まさに外道。揺るぎない程に外道ですね」
「アンタにだけはその台詞言われたくないですけどね」
「あーもー、良いもん。他の誰かあたるもん。他に残ってるサッカー部員は〜っと……お、松風がいるか」
「────……」
「松風かー…………他あたろ他……。あ、南沢が残ってる」
「────────!!」
「アイツか〜、ぶっちゃけヤダなぁ。見返りとか求めてくるし……でも、背に腹はかえられぬしー……うし、南沢に相談してみるか、駄目元で」
「────ザビ子先輩」
「あれ、まだいらしたんですか剣城さん。
もうご帰宅なさっても大丈夫ですよ、引き留めてすみませんでした、バッハハーイ」
「ザビ子先輩、傘忘れたんですよね」
「? うん、さっきそう言ったじゃないですか」
「途中までなら、傘に入れて行ってやらなくもないですよ」
「マージでか。イヤッホーイ、助かります」
◇ ◇ ◇
「本当に途中までなんですけど、それで良いですよね」
「うん、あとはダッシュで行くからだいじょぶです。
でも助かりました、有り難う御座います剣城さん」
「いえ、礼を言われるような事でもないですよ」
「うんうん、剣城さんは硬派なんですねー。今時珍しい、所謂“九州男児”ってやつです?」
「ちょっとなにを言ってるか分からないですが、全く褒めてねぇってのは分かりました」
「私にしては最大級な褒め言葉ですよ、人の賛辞は素直に受け取りなさい、剣城さん」
「ザビ子先輩の人間性が知れますね」
「アッハハ、まあ再三再四言われ続けてる事ですよ、それは。
私は所謂、底意地が悪いって言うか天の邪鬼と言いましょうか、まあ、人間として性質が悪いんですよ」
「自覚してんなら治す努力をして下さいよ、益々タチが悪い」
「治そうにも、直せないから私はこうなんですよ剣城さん。
じゃなきゃ、南沢と付き合ってられませんからね」
「────ザビ子先輩」
「? なんです、剣城さん?」
「ザビ子先輩と南沢……先輩は、付き合ってるんですか……」
「ブッフォン!!」
「!? なんでイタリアのサッカー選手の名前を叫びながら咽せるんですか!?」
「彼はなかなか良い男ですよね。うん良い体だし、キーパーとしてもなかなかだし」
「ザビ子先輩分かって言ってますよね」
「おー、ご名答!! 剣城さんもなかなかどうして審美眼がある御方だ、今のは醜い程に苦し紛れな言でしたごめんなさい」
「……別に」
「まあ、本題はですね────私と南沢はね、別に付き合ってないですよ。
アレとは所謂、あ、あ、悪友? そんな感じ?」
「悪友の割には随分と憎しみが深そうな感じでしたけど」
「そりゃそうですよ、もうこの際だから聞いてくれませんか剣城さん。
あいつ朝会って開口一番が挨拶じゃなくて憎まれ口なんですよ? そりゃ憎みたくもなります」
「そっすか」
「て言うかですよ、あいつが私に突っかかってくるんですよなんなんですかね本当に邪魔ったらない。
あの内申厨、私が校内に仕掛けた悪戯場所を先生にチクりやがったんですよー。
全くー、私が陥れたいのは南沢に向けてのモノだっつのに、酷くないですか?」
「どちらかと言えば非道なのはアンタだよザビ子先輩」
「だってー、南沢の野郎がですよー?」
「かねてより気になってたんですけど、この際聞きますよ」
「はい?」
「なんでアンタ、年下に敬語使ってんですか」
「あー、言われてみれば、確かに使ってますね、現にこの発言すら敬語ですよ」
「理由、聞いても良いですか」
「何故と言われても……んー、なんとなくですかね?
剣城さんの方が身長私より高いし、私よりクールで達観してて落ち着き払ってますし、なんか年上っぽいじゃないですか、それが原因じゃないですかね〜」
「……そうですか」
「あ、別に私が剣城さんと距離を置きたがってるってワケじゃなくてですね?
なんて言うかこう……親愛の情を籠めすぎたって言うかですね……うぅ、頭こんがらがってきた……」
「ザビ子先輩、もう別にいいですよ。他意がなけりゃ俺はそれでいいですから」
「私が剣城さんを嫌ってるワケじゃないんですよ!!
いや、むしろ好いております!! 聞いて下さい剣城さん、私は剣城さんがちゃんと好きですよ!!」
「分かりました分かりましたって。────俺この先で曲がるんですけど、ザビ子先輩この傘使って下さい」
「え!? だ、駄目ですよ剣城さん!!
体冷やしちゃいます、風邪なんか引いたら部活出れなくなっちゃいます!!
私な所為だと尚の事、南沢の野郎がいちゃもんつけてくるじゃないですかー!!」
「女のアンタの方が体冷やしたら駄目だろ、良いから使えよ、俺は頑丈だから大丈夫です」
「でも……」
「四の五の言わずに使え、ダラダラうるせえんですよアンタ、早く体冷えない内に帰って下さい。
じゃあ、俺はここで失礼しますね。
傘、返さなくていいですから────それじゃ、また明日部活で」
「あ、ちょ、待っ……!! 行っちゃった……。
……剣城さんて、結構紳士的な人なんですね。
ふふふ、意外。やっぱり剣城さんは優しいんだね、不器用な生き方しか出来ない優しくて愚かな人……。
────傘、今日中に乾かして明日朝一番に返しに行こう」
2人の見えない信頼関係に嫉妬してしまう。
俺がザビ子先輩を好きだなんてワケじゃないですけど、なんか妙にムカムカするから気になって仕方ない。
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