極楽蝶華 嫌だ、けど…… □■□■□■□■□■□■ 「ホラ、ぎゅうしたるから機嫌直せよ。」 『……。』 肯定も否定もせず、ゆっくりと頭を下げてその細い肩に額を押し付けた。 ぐぃ、と擦り寄ると滑らかな髪の毛が俺の顔を撫でてほつれるのが判る。 「……俺の猫は、レオだけ、だよ。」 言葉じゃ、言葉なんかじゃ、足りない…… だって、ユウは昼間もそう言ったじゃん。 ユウの猫、俺だけだって言ったのに。 ……言ったのに。 「……俺の猫はレオだけだよ。レオが猫の1番だよ。」 ……言ってた、のに。 「……いい加減離れろテメェ。」 「わっ……」 横から無理矢理捩込まれた腕が俺とユウの間に割って入った。 下から睨み上げた視線が絡んで、頭の底が、疼く。 さっきユウを膝に乗せて厭味たらたら笑ってた顔が浮かんだ。 「俊、ちょっと待って。 コイツ宥めちゃうから。」 がんじがらめにされてた脳みそが、唯一ユウの声を拾った。 細い指が掴んだ会長のシャツが押しやられて、腕ごと離れていく。 それが俺の髪の毛に搦められて、やっと俺の心臓は正常に動き出した。 『……ユウ……。』 「猫……お前以外飼わないから、……な? 俺の猫はお前だけって言ったろ?分かってるよな?」 『……うん。』 「そか。 イイコイイコ。」 ぐりぐり、と撫でられた頭に漸く落ち着いた。 「なら、待ってられるよな?」 『……え?』 「ちゃんと、俺はお前以外猫は飼わないし、レオが1番だし。 ……ちょっとくらい、他の猫触ってもいいよな?」 嫌だ、よ。 「他の猫レオより可愛がったりしねぇよ?レオが1番だよ?」 嫌だ、嫌だ。 「レオはイイコだから、待ってられるよな?」 ユウが、俺以外の猫……その手で……俺の大好きな手で触って、撫でて…… やだよ。 俺だけ撫でてよ。 『……うん。待ってる。』 でも、ユウは、それを望んでるの……? 「だよな。イイコ。」 最後にふにふに、と喉を掠めた指が そのまま離れて ユウは、また寮の通用口近くにいる猫の元へ走っていってしまった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |