極楽蝶華
思考力低下
「……何で俺にも言ってくれなかったんですか?」
何故、と問われても。
『さぁ……特に、理由は思い浮かばないのですが。
……ただ、私は……昔からあまり感情を表に出さないでいましたから、人に話す、と言う選択肢が最初から無かったのでしょうね。』
10以上歳の離れた兄達と、厳格を人にしたような性格をしている父に弱音を吐くなど。
何せ、期待に応えるのが当然だったから。
「……俺にも、……俺にも、弱い所見せてくださいって……言ったのに……」
『……え?』
「隆也さんだけ俺の事支えて、俺は隆也さんが辛いの教えてもらえないの……嫌だよ……」
ぎゅう、と背中に回された腕に力がこもった。
甘える様に首筋に顔を擦り付けてくるその仕種に、思わず頬が緩む。
『……申し訳ありませんでした。』
これから、どうせ隠していても判ってしまうなら……心配されない程度には悠紀仁様に弱音を吐いてみようか。
こうやって可愛く慰めようとしてくれるなら、と少し邪まな考えが過ぎった。
……まぁ、実際問題勿論悠紀仁様に心配をかける訳にはいかないが。
気をつけていれば大丈夫だろう。
『……では、時々甘えさせていただきますから。』
取りあえず、この場逃れに返答をした。
悠紀仁様に嘘を付くのは心苦しいが、仕方が無い。
「…ん……」
ぐす、と小さく鳴った鼻に、また辛い思いをさせてしまった……と後悔が襲う。
長い睫毛で縁取られた潤んだ瞳が自分を見上げる。
……瞼に溜まった水滴は、今にもこぼれ落ちそうで。
何と無く、自責の念からか、悠紀仁様の体を強く抱きしめてしまった。
見上げてくる表情はまだ不安げで。
色素の薄い肌に透けた紅色と、薄く開いた唇と、
自分の、寝不足に疲労がたたったらしいここ2〜3日慢性と化した不調。背中に回った手がシャツを掴んで
その事がまた更に私の思考能力を引き下げた。
頭が働かないとろくな事が無い。
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