過去拍手
無表情沖田シリーズA
困ってます。
本当に、困ってます。信じて。
貴方の台詞がどれだけ僕の心を揺れ動かしているのか知らないでしょう
今からよーいドンすると駅前まで全速力で走り切り、そのまま線路を越えて北海道まで行ける。本気でそう思う。っていうか世界の裏側まで逃げちゃいたい。走り出したい。逃げちゃいたい。
そう思うくらい、沖田は困惑していた。
「・・・?おい、総悟?」
「・・・・・・・・・・」
「寝てんのか?」
「ち、ちが、違う」
「ん?」
沖田の様子が不安になったのか、土方は首を傾げながら覗き込んで来る。それを退けるように沖田は後ずさりした。顔が近い。いやいや、今言うことはそうでなくて。
「本気ですかィ・・・?」
「え、嫌なのか」
「や、・・・」
沖田の表情を読み取ろうと、土方は真正面からじっと顔を見つめてくる。それがたまらなく恥ずかしくて、沖田はそろそろと視線を反らした。
沖田は人と比べて感情が極端に少ない。
たとえ十年の付き合いの土方でも、今だに何を考えているか分からなくなる時がある。今がそうだ。それでも必死に読み取ろうと、顔を近づけてくるのだ。
片思い中の相手に顔を近付けられる状態。沖田は恥ずかしくて、恥ずかしくて、どうにかなりそうだった。
けれども、表情が少ない沖田はその気持ちが顔に出ない。こんなに身体が熱いのに、無表情そのものだった。
「遠慮すんな。もう九時だし。泊まってけよ」
「・・・!」
それが大問題だった。
今日は土方の家で一緒に勉強をしていた。あまりに成績の悪い沖田を見かねた土方が提案したのだ。
無駄話も交えてペンを走らせていたのだが、気が付いたら夜になっていた。そこで土方が泊まれ、と言ってきた。
幼馴染で男同士だから、土方は気軽にそう言えるのだろう。だがしかし、沖田は土方が好きだった。もちろん恋愛感情で、だ。
小学生の頃までは頻繁にお泊りを繰り返していたが、高校生になった今では、そうはいかない。色々難しいオトシゴロなのだ。
しかも誘い方がまた自然で本当に困った。
「だから、ここはこうなるだろ?で、式にしてみると・・・こう。分かったか?」
「ん。」
「あ、そうだ、今日お前、泊まってけよ」
「・・・、 !?」
こんな具合。
「や、そのぅ俺、九時でも家に帰れまさぁ。もう高校生ですぜ」
「面倒だろ?いいから泊まれって。」
「着替えとか持って来てないし・・・」
「ん?俺の貸すし」
「・・・!!?」
どう考えても体格差がある。沖田が土方の服を着たらぶかぶかだろう。
・・・ぶかぶかの、服を、着る。
「(ひゃあああああああああん)」
「あれ、お前熱でもあるか?顔赤いぞ」
「えっ、分かる・・・!?」
「うん。すげェ。めっずらしーな総悟が顔赤くなるなんざ」
にっこり。
心底嬉しそうに笑われてさらに真っ赤になってしまう。土方に触れられること以外で、こんなに赤くなるのは久しぶりだ。
「か、かえる・・・!」
「はっ!?おい待てよ!」
もうだめだ。このままここにいたら流されてしまいそう。二人きりの勉強会でもういっぱいいっぱいだったのに、これ以上一緒にいると本気でどうにかなる。っていうか、どうにかしちゃいそう。
「オイコラ・・・いい加減にしねェとくすぐるぞ」
「!?」
何故か本気で沖田を泊まらせたいらしい土方は低い声で沖田を脅した。
その言葉を聞いて沖田は飛び上がる。土方にくすぐられるのが一番駄目なのだ。・・・感じてしまうから。
「や、やめ、土方さ・・・!何で、そんなに、泊まらせたいんですかぃぃ・・・!」
今にも腰に手がいきそうな土方を必死で止め聞いてみた。頑固なのは知っていたが、お泊りというそれだけの理由でここまで譲らない理由を知りたかった。
「いいだろ別に・・・久しぶりに一緒に寝てェんだよ」
「 、」
死なす気か。
一緒に寝たいなんて台詞が飛び出すとは思わなくて、顔が歪んだ。久しぶりに顔の筋肉が動いた。
心臓が痛いくらい鳴る。寝たいなんて、言わないで。横島な気持ちを持っている自分に、そんなこと、言われたら。
「うわっ!?悪い、総悟泣くな!」
「・・・、もう、土方さ、何、」
「ごめんな?ムキになりすぎたよ・・・悪い」
「んん、」
泣いてないし、と思いながら表情を元に戻す。
土方に頭を撫でられたので、まだ大分冷静ではいられなかったが。
「・・・」
シンと土方の部屋が沈黙に包まれる。
何だか申し訳なくて、土方の顔をちらり、見てみた。
あ、
ど き、 り 。
「土方さん・・・」
寂しそうな、顔をしていた。
切なくて苦しくて、そして謝罪の気持ちも伝わってくる。
沖田の左胸が跳ね上がった。駄目だ。
この人に、こんな顔をさせちゃ駄目だ。
「、お、おおおおおれ」
「ん?」
「と、と、泊ま」
「!」
「泊まっても、いーですぜ・・・」
いっそのことどうにかしてしまおうか?
END …?
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