生ハムはむはむ
ホールには様々なご馳走がバイキング形式でテーブルに並べてあった。
このんも目的のものを取ろうとしていたが、なにぶんちびっ子なために、料理の乗っている皿の中を見るのだけで精一杯だ。
ピョコピョコと料理皿の中を確認しながら小さくジャンプしながら皿を持ち歩く。
「うー、うー…
あっ、あった…あった!」
少女が見つめる先には大好きな生ハムサラダだった。
心なしか目がきらきらと輝いている。
だが、自分の身体故に取ることができないでいた。
「とれない…
榊せんせーにいって、のぼるの借りようかな…」
面倒だが、仕方ないと少し落ち込んだ様子で振り返った時だった。
海「…取ってやろうか?」
青学の海堂が片手に自分の分を取ったお盆を持ち、尋ねてきた。
「あ、えっと…?」
いきなり話しかけられ、戸惑ったが、やはりそこは大好きな生ハムサラダの為に小さくコクリと頷いた。
「お願い…します…」
海「わかった、ちょっと待ってろ」
海堂は一旦自分の食べる分を乗せたお盆を座る席に置いてきてから、戻ってきた。
それからトングを持ち、生ハムサラダを指差す。
海「これか?」
その問いに即このんは頷いた。
「それ、それです!
たくさん、ください」
海「ほらよ」
出来るだけ多く生ハムサラダを掴み、こぼさずこのんの皿に乗せた。
自分の好物を取ることができ、嬉しそうな表情をする。
「ありがとー、ございます!
えっと…?」
お礼を言うもまだ名前がわからない為小首を傾げる。
海「青学二年の海堂薫だ。暁来だったよな?」
「はい…!海堂さん、ありがとーです…!」
海「他はいらねぇのか?」
「あぅ…、ほしーです…」
少女が目を向けたのはフランスパンに生ハムが挟まったサンドイッチだ。
海堂はこのんが生ハムが好きなことがわかり、それを違う皿に2つ取って渡してやる。
海「…生ハム好きなんだろ?」
好きなものをまた取って貰い嬉しそうにへにゃりと笑う。
「生ハム…好き、です。
ホントに、ありがとーです…!海堂さん」
海「気にすんな。
またなんかあったら声かければいい…。そこのテーブルにいるからな」
ポンとこのんの頭に手を乗せてから、じゃあな、と彼はテーブルに戻っていった。
このんはルンルンと楽しそうに生ハムの料理が乗った皿を席に運ぶ。
日「ん?意外と早かったな。
身体のせいでとれないと思っていたが…」
日吉たちのいる席に運び、少女は彼の隣に座る。
「海堂さんって人、取ってくれた…。」
いたたきます、と一口サンドイッチを口に入れた。
日吉は弟子の言葉に少なからず驚いていた。
日「あの海堂に…?
何してだんだお前」
「…生ハムサラダの前で、どうやってとるか考えてた…。
海堂さん、親切」
宍「コイツ、小動物かよ…」
もきゅもきゅとご機嫌にサンドイッチを食べる様子に、宍戸は思わずツッコんだ。
このんは食べながらきょとんと宍戸をみる。
不思議そうな顔をしている。
「小動物…です…?」
一つ目を食べ終え、生ハムサラダに手をつける。
幸せそうに生ハムと野菜を食べ始めていた。
鳳「なんだか和みますね…。
暁来さんって食べるときこんな感じなの?」
日「俺んちで食べた時もこんな感じだ。
って暁来、マヨネーズ頬につけてる」
日吉の代わりにこのんの隣にいる滝が拭いてくれた。
「滝しゃんありがとー。」
滝「どういたしまして。
水飲む?」
お母さんさながらな滝に、このんはコクリと頷いた。
滝は水の入ったグラスを少女に渡す。
それを受け取り、コクリと一口飲む。
「お水、おいし…。
どこ産のお水…です…?」
じーっと水の入ったコップに目を向けて、榊に尋ねた。
榊は微笑み、答えた。
榊「やはり普通の水でないとわかるか…
これは日本古来からの名水でな、海外の水と比べ比較的飲みやすいのだ。
気に入ったか?」
「ふぁい、すごく」
コクリコクリと頷き、コップ半分まで飲んだ。
忍「?あのお嬢ちゃん、変わった子やね
水飲んであないなこと言うなんて」
忍足は榊監督とこのんの会話を聞き、首を傾げる。
日「コイツは利き水ができるんですよ。
水を一口飲んだだけでどこの水なのかとか、この水はどの茶に使えば上手いとかがわかる変わった奴です。」
忍足の質問に、日吉が焼き魚の骨を抜きながら答える。
それを箸で摘み、このんに向ける。
彼女は自然な動作でパクッと口に入れた。
『えっ…(はっ…/なっ)!?』
その様子を見ていた者は声を上げ、凝視した。
気にせずこのんはもぐもぐと与えられた魚の身を食べ、日吉はまた魚の骨を抜いていた。
日「……ん、」
「あむ…、ん……
おさかなおいし…」
謙「いや、おかしいやろッ…!」
顔を赤らめて、謙也がつっこむ。
声量が大きかった為か、このんはビックリし、飲んでいる途中だった水が器官に入ってしまいゴホゴホとむせた。
「ゴホッ、ケホッ…!」
すぐに滝がこのんの背中をさする。
滝「このんちゃん大丈夫?」
涙目でむせながらも、コクリと頷いた。
これのせいでこのんのテンションは下がり、シュンとしていた。
白「すまんなぁ、暁来さん。
謙也も謝れや」
白石が申し訳なさそうに言い、謙也の頭を掴む。
謙「痛いわアホッ…!
謝るに決まっとるっちゅー話や!!
え、えっと…暁来、やったっけ?
いきなりデカい声出してゴメンなぁ…」
「ケホッ、ケホッ
ゔ…、だいじょぶ、です…」
財「全然大丈夫やないやろ。」
無理しながら答えるこのんに鋭いツッコミを入れる財前。
余計に落ち込んでしまった。
謙「何してんねん財前!!暁来さん落ち込んだやろッ!」
財「元はと言えば謙也さんが大声出したからでしょ。俺は事実を言っただけッスわ。」
謙也と財前が(一方的な)言い合いをしている間に、日吉が生ハムサラダを持ってきて慰めていた。
日「ほら、落ち込むの止めて食え。」
「ふぁい…、ひよしくんありがとーです…。」
生ハムで再びご機嫌
はむはむ生ハムパワーでご機嫌
もう落ち込んだ理由なんて知らないのです
忘れてるのです
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