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助太刀屋
憧れ
暖かい・・
懐かしい。
だけど、思い出したくない。
思い出したらきっと、今まで積み上げてきた物が、一気に崩れていく様な気がする。
そして、きっとここに居たくなる。
そんな気がした。
いつでも、風は背を押してくれた。
足も勢いが良かった。
けど・・・
逃げていただけかもしれない。

気付けば彼女の涙は、小さな手の甲に落ち、冷たく流れていた。
香織は、遊吉の妹の様な存在。親戚の人を転々とし、遊吉の元へやってきた。幼い頃から、良く香織の面倒を見ていた遊吉は、彼女がこちらに来たときも、それといった抵抗は無かった。逆に「香織と一緒」と、自ら嬉しくはしゃいだ程だった。
しかし、段々成長するに連れ、遊吉自身が香織を拒絶するようになった。理由は、よく覚えて無いが避けていたのを覚えている。だが、それも二、三年の事だった。でも、そのあと直ぐに旅に出た。確かに寂しい思いをさせたかもしれない。その間、香織は医術を学び、今も勉学を続けている。

「・・・・・」
言葉が無かった。
彼女の過ごした日々は、充実した、濃密な物ではなかった。
心の空白をごまかすのは、辛く、切なく。
でも、信念は曲げたくなかった。唯の強がりと知っていても、たとえ傍に居たくても、未来が見えているなら、あがきたい。
「俺さ、未来が見えてるのって、やっぱ認めたくないわけよ。」
「え?」
「生きている間に、俺が居た証を残したいんよ。例え先が無くとも、見えないって分かってても、あがきたい。」
自己満足かもしれない。
迷惑かけてるかもしれない。
でも、続けたい。
まだ旅を続けたい。
そんな思いを、遊吉はぶつけた。
「そうやって・・また私から、離れるんだ。」
香織は分かっていた。
どう言っても、行ってしまうことくらい。
・・傍に居たい。
その積もりに積もった思いを、ぶつけたかった。
「わががま、もう少しだけ聞いてくれるか?」
・・・・・
・・・・
・・・
「・・・から」
「ん?」
香織の声が小さい過ぎて聞き取れなかった。
「待ってるから。帰ってきてよ。」
目に涙を溜めていた。
零れないように、精一杯の声で、香織は言った。
遊吉に笑顔が零れた。
「必ずな。」
遊吉は、迷い無く言った。いつの間にか、香織の頭を撫でていた。
(結局、俺も惚れてんのか。)
そんな事を考えながら、繰り返し撫でていた。
きっと、昔避けていたのは、この気持ちがあったからだろう。
あの時からきっと。
いや、好きだったんだな。なんか馬鹿馬鹿しい。
もっと早くに、素直になればよかった。
だが、今やっと確信が持てた。
そう思うと力が抜け、溜息が漏れた。
「何?」
「いいや、何でも。さて、お前ん家でも行くか。」
沙織の疑問を残し、席を立った。
温かな雰囲気を包んだまま、そのまま二人は飲み屋を後にした。

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