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ベリィライク
そんけいする。



教室の中からは、なかなかの悲鳴が聞こえる。舞台が教室で、学校の怪談がテーマなものだから、そこそこ恐ろしく仕上がったらしい。お化け屋敷らしく暗い教室の中、呻き声とクスクス笑いは録音してテープで流しっぱなしに。プラスして不定期にクラシックのCDも掛けている。演劇部の女子がやたら演出に凝って、高校の文化祭にしてはクオリティーの高いものが出来上がったと思う。
さて、僕は基本的に受付だ。ミスコンでミスター部門に選ばれてしまったから。受付は顔が良い方が客寄せになるからとかなんとか。血糊の付着した包帯を首や手首に巻いたまま受付をしていると、声を掛けられる。

「基、問題起きてない?」

小唄だ。両隣りに栄太と草薙が居る。多分、栄太が草薙を避けた結果この位置に落ち着いたのだろう。草薙のこと怖がってたから。確かに敵に回したくない人物ではあるけど、怯えても栄太、草薙は栄太のこと眼中に無いって感じだよ?

「大丈夫だよ。評判良いみたいだし。入ってく?」
「他も回らないといけないから」

誘ったらばっさりと断られてしまった。売上貢献失敗。

「彼氏の頼みだよ?」
「彼女は仕事中だよ」

邪魔しちゃ駄目って?了解しました。

「じゃあ仕方ないね」
「そういうこと」

普通に仲の良い恋人同士の遣り取りのようだった。はははと笑い合っていると、草薙と目が合った。一体どういう意味の視線なのか。好青年然とした笑顔はなんというか、読めない人だ。

「ほんとに付き合ってたんだ?」

草薙の発言に小唄が笑う。僕も苦笑する。少しでも動揺を見せたらばれる気がした。

「信じて無かったの」
「実は若干疑ってた」
「うわー」

草薙、凄い洞察力だな。流石は小唄の友達。
ふと落ち着かない様子の栄太を手招きして、耳打ちする。

「悩みは解決したみたいだね」

へへへと栄太は笑った。褒められました、と。この様子だと、本当にもう心配は無さそうだ。良かったね、と頭を撫でると照れ臭そうに頷く。

「後輩くん、そろそろ行こうか」
「はい!」
「じゃあまた、基。…何笑ってんの?」

にこにこと栄太と小唄と見ていたら、訝しげな顔をされた。そんなに緩んでいたかな。
何を笑っているのかって、その理由は至極簡単な事で。

今、小唄は凄いなぁって、思ってた。

言えば「馬鹿」って笑われて、僕は「ひどいな」といつものように笑い返して、小唄は次の場所へ向かう。けれど冗談なんかじゃなくて、適度に距離を保ちながら他人を救える小唄のことを、僕はいつでも凄いなぁと思っている。

「また後でね」

あんなに小唄を敵視していた栄太が、今は自分から進んで小唄の隣を歩いている。これが他の人だったなら、栄太はその人を嫌いなままでいたに違いないのだ。
僕は昔から母さんのことを愛しているけど、小唄のことは尊敬している。他人と関わる彼女を見て、はっきりと、そう認識し直した。





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あきゅろす。
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