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ベリィライク
てをのばす。



「行ってきます」
「行ってらっしゃぁい」

さて準備は終わった。青庫崎高校文化祭、通称『青海祭』、今日からスタートだ。
にこやかに手を振るミチコ(母)に手を振り返し歩き出す。オープニングの打ち合わせが有るから、いつもより時間は早い。

「小唄!」
「…あれ、基、おはよ」

調度家から出てきた基に、早いね、と声を掛ける。

「クラスの準備が有るから」
「あー、基んとこは…お化け屋敷だっけ」

色々と要り用なんだろう。学校の怪談をモチーフにしているんだったか。書類で見た覚えがある。一年生がステージ発表、二年生がアトラクション、三年生は飲食系。私たちは二年生だから当然アトラクションなわけだ。運動部は特に何もしないけど、文化部は何かしらやるところもある。個人的に、演劇部の中華風白雪姫というのは見てみたい。

「うん。小唄のクラスはミラーハウスだよね」
「本番はあんまり人手が掛からないようにしたかったらしいよ」
「その分本格的に仕上げてたけどね」

ベニヤで作った壁に鏡を張り付けただけだ。窓と天井には暗幕。照明は足元のランプのみ。位置の計算は、数学研究会に入っている二人組が喜々としてやってくれた。教室という狭い空間であそこまでのものを作る二人に、クラス一同驚愕した。もちろん、作るのは手伝ったけど、設計は完全に二人の独壇場。あれは難しい。ちなみに、5分以内にクリアしたら商品としてお菓子(購入したもの)が出る。

「山田と香具山が張り切ったから」
「自信作って宣伝して回ってたよ。うちのクラスにも来た」

あの双子かと思うような見事なユニゾンで宣伝して回ったのか。オープニングのCMもあの二人がやる予定なんだが、大丈夫だろうか。



「さて、じゃあ見回り当番確認!」

無事オープニングを終え、にこにこと上機嫌で言う副会長に『はい』と返事して、当番表を取り出す。校内の見回りも仕事のうちなのだ。午前は草薙と私、午後は会長と副会長と松前で回る。…で。

「後輩くん、どうする?クラス発表有るよね」
「…邪魔んなりますから」

――邪魔、とは。どういうことだ。じっと見詰めると、耐えきれないとでも言うように視線を逸らされた。

「結局、足を引っ張りました」

俯く後輩くんに、内心溜息を溢して手を伸ばす。思ったより手触りの良い髪に、少し苛ついた(染めているから仕方ないけど、私の髪は結構傷んでいるから)。まだ気にしていたのかと、呆れの色が表に出ないように気をつけながら頭を撫でる。
子供扱いされたようで流石に勘に触ったのか、強い瞳で見上げてきた後輩くんが口を開く前に手を離して微笑んだ。

「期待以上の働き、ありがとう。正直あてにしてなかったけど、助かったよ」

本当に、よく働いてくれたと思ってる。生徒会の他の面々も、それは認めている筈だ。そもそも使えない人間なら、草薙に叩き出されている。

「…先輩?」
「まだ、仕事有るんだよね」

にぃっと、目の前の訝しげな顔に向かって笑うと、瞳が揺らいで、――あぁ、流石、直ぐに持ち直した。

「最後まで手伝います!」





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あきゅろす。
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