ベリィライク
なぐさめる。
すぱん、と的に命中した矢。視界に入った浅野部長はにんまりと満足げに笑っていた。手招きされて寄ると、褒められた。
「調子良いな」
「ありがとうございます」
「小唄ちゃんとの中は良好みたいだな?」
「あはは…まぁ、相変わらずです」
つまらん反応だ、と貶された。これを言われるのは何度目だろう。
「あんまり卒の無い男は直ぐに飽きられるぞ」
「大丈夫ですよ。幼馴染だから」
厭きるほど一緒に居るのに今更それは有りません。さらりと言うと、今度は呆れた顔をされた。弄り甲斐の無い奴で結構だ。部長好みの反応をした瞬間、卒業まで弄られる事が決定されるのだから。嫌ですよ、そんなの。
「…で、お前と反対に、あれはどうしたんだ」
部長の視線の先には、弓を構える栄太。放った矢が的を外れ、僅かに苛立たしげな表情をしているのが見えた。心が波立っているのが良くわかる。
「…後で聞いてみます」
「おぅ、そうしろ」
…まぁ、なんとなく見当はついているのだけれど。大事な後輩だし、僕も、もともとそれが気に掛かってはいたから。
善は急げ。部活が終わって、栄太に声を掛ける。
「栄太」
「はい!」
元気の良い返事に、僕は微笑む。
「何か有ったよね」
栄太が固まった。教えてくれないかな、と僕が言うと、視線を彷徨わせて、最終的には地面に向ける。
暫くして、ぽつりと言う。
「…気を遣わせました」
僕にってことじゃないだろうから、彼女に、だろう。
「あの人は、仕事が早くて、有能だって、生徒会の友達も言っていました。基先輩も『凄いよ』って言ってたから、そうなんだろうとは思ってたけど。…目的はあの人を見る為だったけど、僕は…仕事を手伝いに行ってたのに。足を、引っ張ってました」
僕は少し迷ってから、口を開く。
「――足を引っ張ってるって、小唄が、そう言ったの」
「…言ってません」
言われなかったからこそ、苛立つのだろう。自分は迷惑を掛けている(と栄太は思っている)のに、責められないから、どうしたらいいのかわからなくて。
「だろうね。『助かってる』って、小唄は言ってたから」
栄太が顔を上げた。疑っているようだが、小唄は確かに言った。僕が、栄太は迷惑を掛けていないかと聞いたとき、覚えが早くて助かっていると。
「だから、心配しなくて良いんだよ。君は君のペースで」
栄太は僕を見上げる。握りしめた拳が震えているのは、悔しいのだろう。追いつけない自分が。それでも泣かなかったから、僕は栄太の頭を撫でた。
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