桜界逸史
殺せない理由
「反逆者は……出来るだけ殺さないでくれ」
あの時の俺は、どんなふうに思われたのだろうか。
バカにしているとさえ思われたかもしれない。
皇帝に反逆する者たちを止めてほしいが、殺してほしくない。
この上なく難しい頼みごとだった。
実際、彼らの表情はとても困惑していた。
「……えーっと…、殺すつもりで反抗してくる奴らを、殺すなってことっすか?」
「ということは、少なくとも戦車や戦闘機は使えないな…」
顔をしかめる海神と摂陸に、統虎は言った。
「反逆者の大半はどこかの部族集団ゆえ、相手も戦車などの大型機械は操れない。少なくとも、機械VS素手の戦いにはならん…だから…」
「後はそいつらより俺たち個人が強けりゃいいんっすね」
摂陸が確認するように問う。
頷いた統虎を見て、今度は海神が口を開いた。
「そうなるとかなり時間がかかるな。桜界軍の武器の一つである技術力が活用しづらい…」
「すまん…。リスクと手間がかかるのは重々承知しておる。が…、このようなことを頼めるのは…」
「確かにウチしかいないだろうねぇ」
「……すまない」
桜界の軍事力は、技術の高さを差し引いてもずば抜けて高い。
確かに統虎の判断は一番良いのだろう。
しかし…
「しかし、殺しちゃならねぇ理由は何なんだ?統虎。もちろん俺たちはただ殺しがしてぇわけじゃねぇから、犠牲者を出さないってのには賛成だ。ただ、俺たちにしてもリスクが上がっちまうのは正直なるべく避けたいんだ」
志國が、言った。
そう、戦争とはそういう世界。
やらなければやられる世界。
統虎は、初めて少しだけ俯いて、言いにくそうに口を開いた。
「…………俺のせい…だからだ」
そう、奴をそんなふうにしたのは。
この反乱劇を招いたのは…。
「奴と、話が出来るような時間をくれ……!その時間を作れるのはお前たちしかいないのだ…!」
他でもない。
この俺が原因だった。
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